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第三十二話 ドカ雪
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「泥濘の海を抜けるとそこはパラダイスだった。」
スターリングラードに到達したドイツ兵の日記より
カスピ海に到着した日本軍は、突貫建設したカスピ海リゾートで正月を迎えると、ドイツ軍との合流地点スターリングラードを目指す。
ドイツを無視してモスクワ直撃コースを取らないのは政治的な理由だ。
大日本帝国がソ連軍を叩き出すとソ連が抑え込んでいた民族問題が占領地で吹き出してきたのだ。
ソ連亡きあとの主導権を握ろうと各地の軍政本部に諸民族が駆け込んでくる。
あいつらのいる所は先祖の土地だの、臨時政府はわが民族から出してくれだの、占領軍を差し置いてそこらじゅうで紛争を起こし始める。
今の所、物資と贅沢品を発射するメイド砲で追い散らしているが、日本政府から送られてきた法務省の役人たちも、その複雑さにお手上げ状態。この上モスクワ周辺まで抱え込んでは過労死してしまう。
「「あーもう面倒くさい。ドイツに投げろドイツに」」
1941年2月11日 抵抗する者に死を送り込み、降伏する者にメイドさんのご奉仕の雨を浴びせ、日本軍はスターリングラードを臨むボォルガ川対岸に到着した。
「「遅いなドイツ君まだ来てない。やっちゃうか?」」
その気楽さ、本当に戦争してるつもりあるの?と聞きたくなるほどだが、これが今の大日本帝国軍の姿である。
メイドさんに傅かれワイン片手に砲撃と爆撃の雨を降らせ。
糊のきいた軍服で戦車を盾に制圧する。血みどろの白兵戦を行った直ぐ後にメイドさんに抱かれて眠りにつく。
享楽と死が隣り合わせ、19世紀の騎兵将校の如き酒とバラの日々は戦争が終わるまで続く。
そのうち
「「30までに死なない軍人は嘘だ」」
とか言い出さないか心配するほど刹那的な仕上がり。
まあ、メイドがそう簡単に死と言う解放を与えてはくれないし、死んだからと言って自由になれるとは限らないが。
3月5日 泥濘の海を泳ぐようにドイツ軍の先頭集団はスターリングラードに到着。
こちらも世界の軍隊の平均行軍スピードを大幅に超えての到着だが、恰好は頓珍漢もいいところ。
ソ連の銃にドイツの軍服、イタリアの軍靴で日本の防寒着、乗ってる戦車は日独洪捷とごちゃ混ぜだ。
泥にまみれ虱と蚤をお供にして疲労の余り歩兵連中はフラフラしてる。
ヒトラー君余程無理をさせたのだろう。兎も角もここに日独連絡は相成った。
世界の滅ぶその日まで、今日と言う日は
「ボォルガの誓い」
と呼ばれるだろう。
スターリングラードは目の前だ。
ここに至るまでどれ程の苦難があったろう。
ソ連軍の一歩も引かない抵抗にどれだけの戦友が倒れた事か。
ロシアの凄まじき冬の前に凍り付いた死体が散らばる地獄を我々は歩いてきた。
スターリンの名前を冠する都市では激戦が待っている事だろう。
だがアジアの戦友は目前まで来ているのだ。
栄えある国防軍の一員たる私は、恥じることなき戦いを見せねばご先祖様に申し訳が立たない。
「そう思ってたんだがなぁ」
オストプロイセン出身、ユンカー家の三男坊、パウル中尉は浴衣姿でビール片手にそう呟いた。
ボロボロになりながらスターリングラードにたどり着いた彼を迎えたのは、決死の覚悟で抵抗を見せるソ連軍ではなく。見目麗しい女性の大歓待であった。
ドイツ軍との合流を前に都市はメイドの手によって歓楽街兼要塞に改造されていた。
「「ご主人様、お疲れでしょうからどうぞこちらに」」
メイド軍団に囲まれて小汚い軍服と言う名のぼろ布のを奪い取られたドイツ御一行様は、ワッショイワッショイの掛け声も姦しく温泉にドボン。
「「お背中お流しいたします」」
「何をする!」
と言う間もなく丸洗い。
風呂上がりの牛乳を差し出されグビリとやると浴衣にお着換え。
「止めろ一人で着れる、ダメ!止めて!お婿に行けなくなる!」
「「次に行きますさあどうぞ」」
「すごい力だこいつ等、抵抗できねぇ」
流されるまま和風スウィートルームにご案内。余りの事にポケーとしてるとお食事の準備できました。シャンデリアに金の屏風、熊の剥製並ぶ宴会場へとレッGO。
抵抗を諦めたパウル中尉は大人しく座椅子に腰掛ける。
目の前に並ぶは久方ぶりのご馳走達。横を見れば中隊の兵たちが久方ぶりの新鮮な肉にかぶりついている。
シュバイネハクセ風スペアリブロースト、ザワークラフトの白ワイン煮込み、ヒラメのソテーにマグロのマリネ、忘れちゃいけないドイツと言えばソーセージ。マインツ風、ゾーリンゲン風、フランケンとテューリンゲン。ジャガイモ料理各種。
ドイツにはジャガイモ料理のレパートリーが100以上あるそうだ凄いね。
目を白黒させていると宴会場に据え付けられた大型テレビより、軍団長のパウルス大将が赤い顔をして現れた。
向こうもどうやら大宴会の真っ最中らしく軍歌をがなりたてる声やら女の嬌声やらが聞こえてくる。
(なんだこりゃ、プロイセン軍人の誇りはどうした)
パウルス大将が言うことにゃ。
「日本軍からの好意で休養の為、軍団はしばらくスターリングラードにて逗留する」
と言う。
(戦争はどうした!戦争は!そこは日本軍が受け持つ?良いのかそれで)
しばらく続いた酔いどれ訓示はプロージットの掛け声でブツリと切れた。
(もう良いやどうでも、こうなりゃ自棄だ自棄酒だ)
「プロージット!」
大きな声で万歳一番、一気飲み。
(美味い、訳が分からんが美味い)
「お姉さんビールお代わり」
世界に冠たる大ドイツ陸軍をメイドさんで汚染しつつ、スターリングラードの夜は更けていく。
スターリングラードに到達したドイツ兵の日記より
カスピ海に到着した日本軍は、突貫建設したカスピ海リゾートで正月を迎えると、ドイツ軍との合流地点スターリングラードを目指す。
ドイツを無視してモスクワ直撃コースを取らないのは政治的な理由だ。
大日本帝国がソ連軍を叩き出すとソ連が抑え込んでいた民族問題が占領地で吹き出してきたのだ。
ソ連亡きあとの主導権を握ろうと各地の軍政本部に諸民族が駆け込んでくる。
あいつらのいる所は先祖の土地だの、臨時政府はわが民族から出してくれだの、占領軍を差し置いてそこらじゅうで紛争を起こし始める。
今の所、物資と贅沢品を発射するメイド砲で追い散らしているが、日本政府から送られてきた法務省の役人たちも、その複雑さにお手上げ状態。この上モスクワ周辺まで抱え込んでは過労死してしまう。
「「あーもう面倒くさい。ドイツに投げろドイツに」」
1941年2月11日 抵抗する者に死を送り込み、降伏する者にメイドさんのご奉仕の雨を浴びせ、日本軍はスターリングラードを臨むボォルガ川対岸に到着した。
「「遅いなドイツ君まだ来てない。やっちゃうか?」」
その気楽さ、本当に戦争してるつもりあるの?と聞きたくなるほどだが、これが今の大日本帝国軍の姿である。
メイドさんに傅かれワイン片手に砲撃と爆撃の雨を降らせ。
糊のきいた軍服で戦車を盾に制圧する。血みどろの白兵戦を行った直ぐ後にメイドさんに抱かれて眠りにつく。
享楽と死が隣り合わせ、19世紀の騎兵将校の如き酒とバラの日々は戦争が終わるまで続く。
そのうち
「「30までに死なない軍人は嘘だ」」
とか言い出さないか心配するほど刹那的な仕上がり。
まあ、メイドがそう簡単に死と言う解放を与えてはくれないし、死んだからと言って自由になれるとは限らないが。
3月5日 泥濘の海を泳ぐようにドイツ軍の先頭集団はスターリングラードに到着。
こちらも世界の軍隊の平均行軍スピードを大幅に超えての到着だが、恰好は頓珍漢もいいところ。
ソ連の銃にドイツの軍服、イタリアの軍靴で日本の防寒着、乗ってる戦車は日独洪捷とごちゃ混ぜだ。
泥にまみれ虱と蚤をお供にして疲労の余り歩兵連中はフラフラしてる。
ヒトラー君余程無理をさせたのだろう。兎も角もここに日独連絡は相成った。
世界の滅ぶその日まで、今日と言う日は
「ボォルガの誓い」
と呼ばれるだろう。
スターリングラードは目の前だ。
ここに至るまでどれ程の苦難があったろう。
ソ連軍の一歩も引かない抵抗にどれだけの戦友が倒れた事か。
ロシアの凄まじき冬の前に凍り付いた死体が散らばる地獄を我々は歩いてきた。
スターリンの名前を冠する都市では激戦が待っている事だろう。
だがアジアの戦友は目前まで来ているのだ。
栄えある国防軍の一員たる私は、恥じることなき戦いを見せねばご先祖様に申し訳が立たない。
「そう思ってたんだがなぁ」
オストプロイセン出身、ユンカー家の三男坊、パウル中尉は浴衣姿でビール片手にそう呟いた。
ボロボロになりながらスターリングラードにたどり着いた彼を迎えたのは、決死の覚悟で抵抗を見せるソ連軍ではなく。見目麗しい女性の大歓待であった。
ドイツ軍との合流を前に都市はメイドの手によって歓楽街兼要塞に改造されていた。
「「ご主人様、お疲れでしょうからどうぞこちらに」」
メイド軍団に囲まれて小汚い軍服と言う名のぼろ布のを奪い取られたドイツ御一行様は、ワッショイワッショイの掛け声も姦しく温泉にドボン。
「「お背中お流しいたします」」
「何をする!」
と言う間もなく丸洗い。
風呂上がりの牛乳を差し出されグビリとやると浴衣にお着換え。
「止めろ一人で着れる、ダメ!止めて!お婿に行けなくなる!」
「「次に行きますさあどうぞ」」
「すごい力だこいつ等、抵抗できねぇ」
流されるまま和風スウィートルームにご案内。余りの事にポケーとしてるとお食事の準備できました。シャンデリアに金の屏風、熊の剥製並ぶ宴会場へとレッGO。
抵抗を諦めたパウル中尉は大人しく座椅子に腰掛ける。
目の前に並ぶは久方ぶりのご馳走達。横を見れば中隊の兵たちが久方ぶりの新鮮な肉にかぶりついている。
シュバイネハクセ風スペアリブロースト、ザワークラフトの白ワイン煮込み、ヒラメのソテーにマグロのマリネ、忘れちゃいけないドイツと言えばソーセージ。マインツ風、ゾーリンゲン風、フランケンとテューリンゲン。ジャガイモ料理各種。
ドイツにはジャガイモ料理のレパートリーが100以上あるそうだ凄いね。
目を白黒させていると宴会場に据え付けられた大型テレビより、軍団長のパウルス大将が赤い顔をして現れた。
向こうもどうやら大宴会の真っ最中らしく軍歌をがなりたてる声やら女の嬌声やらが聞こえてくる。
(なんだこりゃ、プロイセン軍人の誇りはどうした)
パウルス大将が言うことにゃ。
「日本軍からの好意で休養の為、軍団はしばらくスターリングラードにて逗留する」
と言う。
(戦争はどうした!戦争は!そこは日本軍が受け持つ?良いのかそれで)
しばらく続いた酔いどれ訓示はプロージットの掛け声でブツリと切れた。
(もう良いやどうでも、こうなりゃ自棄だ自棄酒だ)
「プロージット!」
大きな声で万歳一番、一気飲み。
(美味い、訳が分からんが美味い)
「お姉さんビールお代わり」
世界に冠たる大ドイツ陸軍をメイドさんで汚染しつつ、スターリングラードの夜は更けていく。
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