私はウルフ沙織。王子お一人だけを見つめるのはお預けのようです。

西野歌夏

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出会い(王子視線)

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 抱き寄せる。それから?それから?

 考えるだけでも赤面してしまう。ドギマギしてしまう。
「くそーっ」

 俺はひっくり返った。城の部屋の天井を見上げる。それから「やっばっ!」とつぶやき、ぐるぐる転げ回った。

「あの沙織が俺の妻になるーっ!!幸せすぎるっ!」

 嬉しさで頭がおかしくなりそうだ。全身に喜びが駆け巡る。

「ここまで長かったなあ。実に長かった。」
 思わず心の声が漏れ出てしまった。

 思えば初めて沙織を見たのは、だいぶ前のことだった。俺の求婚という一大計画は、気の遠くなるほどの歳月をかけて実現したような気がする。

「夢みたいだ。」

 母上が許してくれたから実現に向けて最後は動いたものの、沙織の気持ちをこちらに向かせることがなかなか出来ず、苦戦の連続だった。

「まあ、沙織さまっ!王子さまっ!おめでとうございます!」
 
 沙織の勤める奉行所でも、街を歩いていても、どこにいても大フィーバーだった。奥奉行が俺と沙織の婚約を正式に発表した日から、沙織の日常は激変していた。
 
 色白で恋紅色の髪をした美しい沙織を初めて見たのは、王の狩猟用の森の中だった。

 この前16世紀フランス国王の狩猟場を訪問したが、広さはその比ではない。何せ大型恐竜から翼竜を始め、さまざまな未知の生物が生息する場なので、神縁なる森と呼ばれている場所だ。地球上のかつてのいかなる皇帝や王が所有していた森より数千倍は広い森。恐竜や翼竜は我々の仲間なので、狩の対象ではない。

 その日の夕方、俺はいつもの探検を森の中でやっていた。未知の生物との遭遇を期待して、学者も一緒にいた。

 そこに、1匹のオオワシが舞い降りてきた。なりきる術を使った魔女忍まじょしのだとすぐに分かったが、彼女のなりきる術は段違いで完璧なもので素晴らしかった。一瞬、人の姿に戻り、可憐で魅力的な袴姿が見えた。彼女がすぐにまたなりきる術を使ったとき、予想外の出来事が起きた。

「王子!後ろに下がって!」

 学者たちが小声で必死に俺を沙織のそばから引き離した。

「あれは過去の世界の人間です。」

 若い女が若い美しい魔女忍のなりきったオオワシの背にまたがり、いいように指示を出して飛び始めた。ナディアの登場だった。王の狩猟場である森の未知なる生物の1つに、この日、過去の時代の人間も加わったのだ。

 やがて、パタッと若い女も美しい魔女も姿が消えた。

「もしや噂のゲームプレイヤーでは?」
「ついに、ここまでやってきたのか…………」

 学者たちが口口にささやき合う中で、俺の中では恋紅色の髪をした美しい魔女忍のことが頭から離れなくなった。寝ても覚めても彼女のことが頭から離れなくなる予感がした。話してみたい。どんな声か聞いてみたい。

「俺が妻にするなら彼女だ。」
「は?王子、今なんと!?」

 この日から沙織に恋焦がれる俺の求婚活動が始まった。

 それはもうあの手この手。とにかく、俺は沙織に相手にもされずに振られまくった。

 ゲームプレイヤーに紐付けらた美しい沙織は、前代未聞の存在だった。俺が振られ続ける間に、彼女はあっという間に命を狙われる存在になった。

「そう言えば…………」
 俺はハタと思い出した。

「もう、命は狙われてないのか!?」

 何が起きた?赤の組織のトップにヒメが就任した。状況をヒメに聞いてみよう。

 俺の愛しい沙織はもう安全なのか?
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