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3ー愛の着地
75 ドギマギしてしまう(王子視線)
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「一体どんな徳を積めば、あんな彼女を妻にできるのだろう?」
誰もいない部屋で自分にひとりごとを言ってみる。今は誰もいないのだから良いだろう。
――くうっ……。たまらないです。
俺は身悶えた。先ほど着付けてもらった金刺繍がふんだんに施された祝いの儀のための、金糸雀色の羽織が細かく震える。喜びの武者震いをしただけでも、眩しいくらいの光を放つ羽織。髪は綺麗に結い上げてられていて帽子の中にたくし込まれている。帽子を取るとふわっと髪が降りてきてしまうので、今日の婚姻の儀が終わるまで決して帽子を取ってはならぬと母上から強めに申しつけられている。
――信じられない。
今日は婚姻の儀の当日。澄み切って晴れ渡る空のもと、俺と沙織は婚姻の儀を執り行う。いよいよ沙織が俺の妻になる。新妻だ。顔がニヤける。
「パシっ!」
自分で自分に平手を食らわした。
――ダメだ。ダメだダメだダメだ!こんなにニヤけていちゃ、せっかくの美男子っぷりがただの変な兄さんになってしまう!それでは、あの美しい沙織がドン引きしてしまう。
俺は、ホモサピエンスが誇る『源氏物語』の光源氏の実写版とも謳われた雅な風情の男だ。鏡の中の自分をグッと力を込めて見つめる。
――よし、今日はその線を崩さないように行こう。最後の最後まで気を引き締めていかねば。
「王子、沙織さまのお支度が整いました」
外から従者の声がした。
――おおっ!いよいよですね。
「入って良いぞ」
俺は努めて冷静な声で、そう告げた。
「さあ、沙織さま。足元にお気を付けてくださいまし」
従者の声がして、沙織がしずしずと部屋の中に入ってくる気配がした。俺は振り向いた。
「眩しいっ!」
沙織がそう言って自分の目の前に手をかざした。
「おっ?」
俺は驚いて沙織に声をかけた。沙織の衣装は淡紅色の羽織で、やはり黄金の刺繍とビーズがふんだんに使われていた。真珠もところどころ散りばめられていて、美しい沙織の顔を浮き立たせるような豪華な婚礼衣装だった。
「王子のお姿が眩しくてっ……!」
――そうであろう。俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「従者のものたちよ、少し下がっていてくれないか。しばしの間、沙織と二人だけで話がしたい」
俺はそう周りの従者に告げた。
「御意」
「御意でございまする」
気遣わしそうな顔を見合わせた従者たちも、今日は婚礼の儀なのでと諦めたような表情で部屋から出ていった。
俺は一世一代の男前の(と自分では思う)表情を決めて沙織を見つめた。
「沙織、さあこちらへ」
そう言いながら、自分もささっと沙織の方に近づいた。
頬を赤らめて、潤んだ瞳で俺を見つめる沙織がそこにいた。母上の申しつけ通り、着付けは盤石だ。
――たまらない。
最近、ことごとく邪魔をされて沙織に接近すらできなかった。母上の謀だ。
吸い込まれそうな沙織の潤んだ瞳を見つめ、両頬をそっと両手で包む。
ゆっくりとゆっくりと互いの唇を近づける。
――今日は婚礼の儀だ。先日のガッシュクロース侯爵夫人の城で見た、沙織のドレス姿。あれはデザインが大胆で胸元は大きく開いたドレスだったなぁ……。
温かな唇が触れそうになり、ようやく俺の願いは叶うと思った瞬間、パサリと音がして扇子に口付けをしている自分に気づいた。
ハァっ……!
――嘘でしょっ!
「王子、婚姻の儀の前にお仕事です。沙織はここで待ちなさいっ!」
母上の声がして、思わず俺は横を振り向いた。
あずき色の見たこともない貧相なジャージ(?)姿の母上がそこに立っていた。
誰もいない部屋で自分にひとりごとを言ってみる。今は誰もいないのだから良いだろう。
――くうっ……。たまらないです。
俺は身悶えた。先ほど着付けてもらった金刺繍がふんだんに施された祝いの儀のための、金糸雀色の羽織が細かく震える。喜びの武者震いをしただけでも、眩しいくらいの光を放つ羽織。髪は綺麗に結い上げてられていて帽子の中にたくし込まれている。帽子を取るとふわっと髪が降りてきてしまうので、今日の婚姻の儀が終わるまで決して帽子を取ってはならぬと母上から強めに申しつけられている。
――信じられない。
今日は婚姻の儀の当日。澄み切って晴れ渡る空のもと、俺と沙織は婚姻の儀を執り行う。いよいよ沙織が俺の妻になる。新妻だ。顔がニヤける。
「パシっ!」
自分で自分に平手を食らわした。
――ダメだ。ダメだダメだダメだ!こんなにニヤけていちゃ、せっかくの美男子っぷりがただの変な兄さんになってしまう!それでは、あの美しい沙織がドン引きしてしまう。
俺は、ホモサピエンスが誇る『源氏物語』の光源氏の実写版とも謳われた雅な風情の男だ。鏡の中の自分をグッと力を込めて見つめる。
――よし、今日はその線を崩さないように行こう。最後の最後まで気を引き締めていかねば。
「王子、沙織さまのお支度が整いました」
外から従者の声がした。
――おおっ!いよいよですね。
「入って良いぞ」
俺は努めて冷静な声で、そう告げた。
「さあ、沙織さま。足元にお気を付けてくださいまし」
従者の声がして、沙織がしずしずと部屋の中に入ってくる気配がした。俺は振り向いた。
「眩しいっ!」
沙織がそう言って自分の目の前に手をかざした。
「おっ?」
俺は驚いて沙織に声をかけた。沙織の衣装は淡紅色の羽織で、やはり黄金の刺繍とビーズがふんだんに使われていた。真珠もところどころ散りばめられていて、美しい沙織の顔を浮き立たせるような豪華な婚礼衣装だった。
「王子のお姿が眩しくてっ……!」
――そうであろう。俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「従者のものたちよ、少し下がっていてくれないか。しばしの間、沙織と二人だけで話がしたい」
俺はそう周りの従者に告げた。
「御意」
「御意でございまする」
気遣わしそうな顔を見合わせた従者たちも、今日は婚礼の儀なのでと諦めたような表情で部屋から出ていった。
俺は一世一代の男前の(と自分では思う)表情を決めて沙織を見つめた。
「沙織、さあこちらへ」
そう言いながら、自分もささっと沙織の方に近づいた。
頬を赤らめて、潤んだ瞳で俺を見つめる沙織がそこにいた。母上の申しつけ通り、着付けは盤石だ。
――たまらない。
最近、ことごとく邪魔をされて沙織に接近すらできなかった。母上の謀だ。
吸い込まれそうな沙織の潤んだ瞳を見つめ、両頬をそっと両手で包む。
ゆっくりとゆっくりと互いの唇を近づける。
――今日は婚礼の儀だ。先日のガッシュクロース侯爵夫人の城で見た、沙織のドレス姿。あれはデザインが大胆で胸元は大きく開いたドレスだったなぁ……。
温かな唇が触れそうになり、ようやく俺の願いは叶うと思った瞬間、パサリと音がして扇子に口付けをしている自分に気づいた。
ハァっ……!
――嘘でしょっ!
「王子、婚姻の儀の前にお仕事です。沙織はここで待ちなさいっ!」
母上の声がして、思わず俺は横を振り向いた。
あずき色の見たこともない貧相なジャージ(?)姿の母上がそこに立っていた。
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