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3ー愛の着地
66 フォンテーヌブローの森の冒険
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わたしの首のあたりにはサーベ剣が12本も突きつけられていた。焦りのあまりに汗がにじむ。
ジリジリと後ずさるが、背中に大きな木の幹を感じて追い詰めらたことを悟った。
木々の間からのぞく青い空を見上げる。目を閉じて匂いに集中する。吸血鬼としての能力も低下している。鼻腔をくすぐるのはシマリスがそばにいるという情報と、食用のキノコ、どんぐり、野うさぎ、シカ、鷹が悠然と空を飛んでいるのも感じる。しかし、今までのような強烈な能力は持っていないということが分かる。血への渇望も治っている。
ここは王の狩猟場と言われるフォンテーヌブローの森。うっそうとした森の中でわたしは追い詰められていた。
「お前は誰だっ!」
「今すぐに王子の手を離すんだっ!」
「この女をひっ捕えろ!」
「牢に入れておけっ!」
わたしはフィリップスを見た。わたしが手を繋いでいるのはフィリップスだ。
――フィリップスが王子?フランス国王の子なの!?
わたしは愕然としてフィリップスの顔を見た。
「違うんだっ!沙織は僕を助けてくれたんだよっ!僕をお家に戻してくれようとしたんだよっ!!」
フィリップスは泣きそうな声で訴えたが、王の騎士団と見られる騎士たちは誰も聞く耳を持たなかった。
見たままの状態で、わたしはフィリップスを連れ去った犯人と見られたようだ。ある意味、事実ではあるけれども。
どうしようもないスランプだ。
ルーブルのあるパリから少し行ったところにあるフォンテーヌブローの森で、わたしは荒い息を整えて形勢をひっくり返そうとしていた。騎士団の動きに集中する。神経を研ぎ覚ます。もう一度集中してみた。
――えいっ!
――だめだ!なりきる術ができない!全くできない!
うっそうと生い茂る木々の下でわたしは焦りに焦った。
「大人しくしろっ!」
「ひっ捕えて牢に入れるんだ!」
「王子をこちらにお連れしろっ!」
焦りも虚しく、あっという間にわたしは騎士団につかまった。承継門前の術をかけようとしたが、それも成功しなかった。後ろに両手を縛られて、フィリップスと引き離された。
両手を後ろに縛られたまま、小突かれて、森の中を歩かされた。なぜこんなことになったのか、わたしは歩きながらずっと考え続けた。朝、起きた時は普通だったと思う。
――その後わたしは何をしたのだろう?
考え込んでいる間にフォンテーヌブロー宮殿につき、息を呑むほど大きく壮麗な宮殿に目を見張った。
しかし、わたしは宮殿をよくみることはできなかった。暗くて薄気味悪い地下牢に一人放り込まれたから。
隣の牢にも囚人がいて、悲しそうなうめき声が聞こえていた。窓もなくうす暗い地下牢に閉じ込められたわたしは、守衛の目線に見つからないように注意しながら、こっそり術を使おうと必死に手を動かしたが、何も術を発動できなかった。
***
数時間前のこと。
フィリップスを親元に返してあげようとする計画がようやく実行されて、ジョン、王子、ナディア、フィリップスと一緒に中世フランスにわたしはワープしてきていた。
ルーブルではなく、フォンテーヌブローの森の方に家があるとフィリップスが言うので、わたしたちはフォンテーヌブローの森にやってきていた。
「俺になりきる術がヘタと言ったのは沙織だったよな!?どうした?」
王子は意外そうな表情をしてわたしを見た。
「術が効かないのよ」
最初に自分の異変に気づいたのは、フィリップスを背中に乗せて飛ぼうとした時だ。何度も何度もなりきる術を使おうとしても、まったく術が使えなかった。早く走ることもできない。木の幹を駆け上がることもできなかった。これではもはや人間だ。自分の不甲斐なさに落ち込みながらそう思った時、わたしの中で何かが閃いた。
――人間?
「沙織?どうしたの?」
先にアプルモン渓谷の方に進もうとしていたナディアがこちらを振り向いた。
「だめだわ。わたしは歩いて進むしかないわ」
わたしは王子のそばにいるフィリップスをチラッとみた。フィリップスはきょとんとした顔でわたしを見つめていた。
「王子とジョンはナディアと一緒に、このあたりの村を見てきてくれる?」
――飛べる忍びは王子とジョンしかいないのに、乗せて運ばなければならない者はナディア、フィリップス、わたし。だったら、先にめぼしい家を探してもらった方がいいかもしれない。
「最短距離で移動できるよう、見てきてくれる?わたしとフィリップスはここで待っているわ」
「そうだね。ナディア、計画を変更するしかないよ。アプルモン渓谷は後で時間があったら後で行こう」
「そうしましょう。フィリップスの家は大きな庭があって旗が立っているお家ね。そういう家を探しましょう」
「すぐに周りの様子を空から見て、戻ってくるから待っていてね」
というわけで、フィリップスと待っていた時に私は騎士団に見つかったのだ。そして地下牢に放り込まれた。
ジリジリと後ずさるが、背中に大きな木の幹を感じて追い詰めらたことを悟った。
木々の間からのぞく青い空を見上げる。目を閉じて匂いに集中する。吸血鬼としての能力も低下している。鼻腔をくすぐるのはシマリスがそばにいるという情報と、食用のキノコ、どんぐり、野うさぎ、シカ、鷹が悠然と空を飛んでいるのも感じる。しかし、今までのような強烈な能力は持っていないということが分かる。血への渇望も治っている。
ここは王の狩猟場と言われるフォンテーヌブローの森。うっそうとした森の中でわたしは追い詰められていた。
「お前は誰だっ!」
「今すぐに王子の手を離すんだっ!」
「この女をひっ捕えろ!」
「牢に入れておけっ!」
わたしはフィリップスを見た。わたしが手を繋いでいるのはフィリップスだ。
――フィリップスが王子?フランス国王の子なの!?
わたしは愕然としてフィリップスの顔を見た。
「違うんだっ!沙織は僕を助けてくれたんだよっ!僕をお家に戻してくれようとしたんだよっ!!」
フィリップスは泣きそうな声で訴えたが、王の騎士団と見られる騎士たちは誰も聞く耳を持たなかった。
見たままの状態で、わたしはフィリップスを連れ去った犯人と見られたようだ。ある意味、事実ではあるけれども。
どうしようもないスランプだ。
ルーブルのあるパリから少し行ったところにあるフォンテーヌブローの森で、わたしは荒い息を整えて形勢をひっくり返そうとしていた。騎士団の動きに集中する。神経を研ぎ覚ます。もう一度集中してみた。
――えいっ!
――だめだ!なりきる術ができない!全くできない!
うっそうと生い茂る木々の下でわたしは焦りに焦った。
「大人しくしろっ!」
「ひっ捕えて牢に入れるんだ!」
「王子をこちらにお連れしろっ!」
焦りも虚しく、あっという間にわたしは騎士団につかまった。承継門前の術をかけようとしたが、それも成功しなかった。後ろに両手を縛られて、フィリップスと引き離された。
両手を後ろに縛られたまま、小突かれて、森の中を歩かされた。なぜこんなことになったのか、わたしは歩きながらずっと考え続けた。朝、起きた時は普通だったと思う。
――その後わたしは何をしたのだろう?
考え込んでいる間にフォンテーヌブロー宮殿につき、息を呑むほど大きく壮麗な宮殿に目を見張った。
しかし、わたしは宮殿をよくみることはできなかった。暗くて薄気味悪い地下牢に一人放り込まれたから。
隣の牢にも囚人がいて、悲しそうなうめき声が聞こえていた。窓もなくうす暗い地下牢に閉じ込められたわたしは、守衛の目線に見つからないように注意しながら、こっそり術を使おうと必死に手を動かしたが、何も術を発動できなかった。
***
数時間前のこと。
フィリップスを親元に返してあげようとする計画がようやく実行されて、ジョン、王子、ナディア、フィリップスと一緒に中世フランスにわたしはワープしてきていた。
ルーブルではなく、フォンテーヌブローの森の方に家があるとフィリップスが言うので、わたしたちはフォンテーヌブローの森にやってきていた。
「俺になりきる術がヘタと言ったのは沙織だったよな!?どうした?」
王子は意外そうな表情をしてわたしを見た。
「術が効かないのよ」
最初に自分の異変に気づいたのは、フィリップスを背中に乗せて飛ぼうとした時だ。何度も何度もなりきる術を使おうとしても、まったく術が使えなかった。早く走ることもできない。木の幹を駆け上がることもできなかった。これではもはや人間だ。自分の不甲斐なさに落ち込みながらそう思った時、わたしの中で何かが閃いた。
――人間?
「沙織?どうしたの?」
先にアプルモン渓谷の方に進もうとしていたナディアがこちらを振り向いた。
「だめだわ。わたしは歩いて進むしかないわ」
わたしは王子のそばにいるフィリップスをチラッとみた。フィリップスはきょとんとした顔でわたしを見つめていた。
「王子とジョンはナディアと一緒に、このあたりの村を見てきてくれる?」
――飛べる忍びは王子とジョンしかいないのに、乗せて運ばなければならない者はナディア、フィリップス、わたし。だったら、先にめぼしい家を探してもらった方がいいかもしれない。
「最短距離で移動できるよう、見てきてくれる?わたしとフィリップスはここで待っているわ」
「そうだね。ナディア、計画を変更するしかないよ。アプルモン渓谷は後で時間があったら後で行こう」
「そうしましょう。フィリップスの家は大きな庭があって旗が立っているお家ね。そういう家を探しましょう」
「すぐに周りの様子を空から見て、戻ってくるから待っていてね」
というわけで、フィリップスと待っていた時に私は騎士団に見つかったのだ。そして地下牢に放り込まれた。
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