上 下
68 / 84
3ー愛の着地

66 フォンテーヌブローの森の冒険

しおりを挟む
 わたしの首のあたりにはサーベ剣が12本も突きつけられていた。焦りのあまりに汗がにじむ。
 ジリジリと後ずさるが、背中に大きな木の幹を感じて追い詰めらたことを悟った。
 
 木々の間からのぞく青い空を見上げる。目を閉じて匂いに集中する。吸血鬼としての能力も低下している。鼻腔をくすぐるのはシマリスがそばにいるという情報と、食用のキノコ、どんぐり、野うさぎ、シカ、鷹が悠然と空を飛んでいるのも感じる。しかし、今までのような強烈な能力は持っていないということが分かる。血への渇望も治っている。

 ここは王の狩猟場と言われるフォンテーヌブローの森。うっそうとした森の中でわたしは追い詰められていた。

「お前は誰だっ!」
「今すぐに王子の手を離すんだっ!」
「この女をひっ捕えろ!」
「牢に入れておけっ!」
 
 わたしはフィリップスを見た。わたしが手を繋いでいるのはフィリップスだ。
 ――フィリップスが王子?フランス国王の子なの!?

 わたしは愕然としてフィリップスの顔を見た。
 
「違うんだっ!沙織は僕を助けてくれたんだよっ!僕をお家に戻してくれようとしたんだよっ!!」
 
 フィリップスは泣きそうな声で訴えたが、王の騎士団と見られる騎士たちは誰も聞く耳を持たなかった。
 見たままの状態で、わたしはフィリップスを連れ去った犯人と見られたようだ。ある意味、事実ではあるけれども。
 
 どうしようもないスランプだ。
 
 ルーブルのあるパリから少し行ったところにあるフォンテーヌブローの森で、わたしは荒い息を整えて形勢をひっくり返そうとしていた。騎士団の動きに集中する。神経を研ぎ覚ます。もう一度集中してみた。

 ――えいっ!
 ――だめだ!なりきる術ができない!全くできない!

 うっそうと生い茂る木々の下でわたしは焦りに焦った。

「大人しくしろっ!」
「ひっ捕えて牢に入れるんだ!」
「王子をこちらにお連れしろっ!」
 
 焦りも虚しく、あっという間にわたしは騎士団につかまった。承継門前しょうけいもんぜんの術をかけようとしたが、それも成功しなかった。後ろに両手を縛られて、フィリップスと引き離された。

 両手を後ろに縛られたまま、小突かれて、森の中を歩かされた。なぜこんなことになったのか、わたしは歩きながらずっと考え続けた。朝、起きた時は普通だったと思う。

 ――その後わたしは何をしたのだろう?
 
 考え込んでいる間にフォンテーヌブロー宮殿につき、息を呑むほど大きく壮麗な宮殿に目を見張った。
 しかし、わたしは宮殿をよくみることはできなかった。暗くて薄気味悪い地下牢に一人放り込まれたから。

 隣の牢にも囚人がいて、悲しそうなうめき声が聞こえていた。窓もなくうす暗い地下牢に閉じ込められたわたしは、守衛の目線に見つからないように注意しながら、こっそり術を使おうと必死に手を動かしたが、何も術を発動できなかった。
 
 
***
 
 数時間前のこと。
 フィリップスを親元に返してあげようとする計画がようやく実行されて、ジョン、王子、ナディア、フィリップスと一緒に中世フランスにわたしはワープしてきていた。
 
 ルーブルではなく、フォンテーヌブローの森の方に家があるとフィリップスが言うので、わたしたちはフォンテーヌブローの森にやってきていた。

「俺になりきる術がヘタと言ったのは沙織だったよな!?どうした?」

 王子は意外そうな表情をしてわたしを見た。

「術が効かないのよ」
 
 最初に自分の異変に気づいたのは、フィリップスを背中に乗せて飛ぼうとした時だ。何度も何度もなりきる術を使おうとしても、まったく術が使えなかった。早く走ることもできない。木の幹を駆け上がることもできなかった。これではもはや人間だ。自分の不甲斐なさに落ち込みながらそう思った時、わたしの中で何かが閃いた。

 ――人間?

「沙織?どうしたの?」

 先にアプルモン渓谷の方に進もうとしていたナディアがこちらを振り向いた。

「だめだわ。わたしは歩いて進むしかないわ」

 わたしは王子のそばにいるフィリップスをチラッとみた。フィリップスはきょとんとした顔でわたしを見つめていた。

「王子とジョンはナディアと一緒に、このあたりの村を見てきてくれる?」
 
 ――飛べる忍びは王子とジョンしかいないのに、乗せて運ばなければならない者はナディア、フィリップス、わたし。だったら、先にめぼしい家を探してもらった方がいいかもしれない。
 
「最短距離で移動できるよう、見てきてくれる?わたしとフィリップスはここで待っているわ」

「そうだね。ナディア、計画を変更するしかないよ。アプルモン渓谷は後で時間があったら後で行こう」
「そうしましょう。フィリップスの家は大きな庭があって旗が立っているお家ね。そういう家を探しましょう」

「すぐに周りの様子を空から見て、戻ってくるから待っていてね」
 
 というわけで、フィリップスと待っていた時に私は騎士団に見つかったのだ。そして地下牢に放り込まれた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

【完結】後宮の秘姫は知らぬ間に、年上の義息子の手で花ひらく

愛早さくら
恋愛
小美(シャオメイ)は幼少期に後宮に入宮した。僅か2歳の時だった。 貴妃になれる四家の一つ、白家の嫡出子であった小美は、しかし幼さを理由に明妃の位に封じられている。皇帝と正后を両親代わりに、妃でありながらほとんど皇女のように育った小美は、後宮の秘姫と称されていた。 そんな小美が想いを寄せるのは皇太子であり、年上の義息子となる玉翔(ユーシァン)。 いつしか後宮に寄りつかなくなった玉翔に遠くから眺め、憧れを募らせる日々。そんな中、影武者だと名乗る玉翔そっくりの宮人(使用人)があらわれて。 涼という名の影武者は、躊躇う小美に近づいて、玉翔への恋心故に短期間で急成長した小美に愛を囁いてくる。 似ているけど違う、だけど似ているから逆らえない。こんなこと、玉翔以外からなんて、されたくないはずなのに……――。 年上の義息子への恋心と、彼にそっくりな影武者との間で揺れる主人公・小美と、小美自身の出自を取り巻く色々を描いた、中華王朝風の後宮を舞台とした物語。 ・地味に実は他の異世界話と同じ世界観。 ・魔法とかある異世界の中での中華っぽい国が舞台。 ・あくまでも中華王朝風で、彼の国の後宮制を参考にしたオリジナルです。 ・CPは固定です。他のキャラとくっつくことはありません。 ・多分ハッピーエンド。 ・R18シーンがあるので、未成年の方はお控えください。(該当の話には*を付けます。

この裏切りは、君を守るため

島崎 紗都子
恋愛
幼なじみであるファンローゼとコンツェットは、隣国エスツェリアの侵略の手から逃れようと亡命を決意する。「二人で幸せになろう。僕が君を守るから」しかし逃亡中、敵軍に追いつめられ二人は無残にも引き裂かれてしまう。架空ヨーロッパを舞台にした恋と陰謀 ロマンティック冒険活劇!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました

吉高 花
恋愛
◆転生&ループの中華風ファンタジー◆ 第15回恋愛小説大賞「中華・後宮ラブ賞」受賞しました!ありがとうございます! かつて散々腐れ縁だったあいつが「俺たち、もし三十になってもお互いに独身だったら、結婚するか」 なんてことを言ったから、私は密かに三十になるのを待っていた。でもそんな私たちは、仲良く一緒にトラックに轢かれてしまった。 そして転生しても奴を忘れられなかった私は、ある日奴が綺麗なお嫁さんと仲良く微笑み合っている場面を見てしまう。 なにあれ! 許せん! 私も別の男と幸せになってやる!  しかしそんな決意もむなしく私はまた、今度は馬車に轢かれて逝ってしまう。 そして二度目。なんと今度は最後の人生をループした。ならば今度は前の記憶をフルに使って今度こそ幸せになってやる! しかし私は気づいてしまった。このままでは、また奴の幸せな姿を見ることになるのでは? それは嫌だ絶対に嫌だ。そうだ! 後宮に行ってしまえば、奴とは会わずにすむじゃない!  そうして私は意気揚々と、女官として後宮に潜り込んだのだった。 奴が、今世では皇帝になっているとも知らずに。 ※タイトル試行錯誤中なのでたまに変わります。最初のタイトルは「ループの二度目は後宮で ~逃げるための後宮でしたが、なぜか奴が皇帝になっていました~」 ※設定は架空なので史実には基づいて「おりません」

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...