私はウルフ沙織。王子お一人だけを見つめるのはお預けのようです。

1.求婚 ダメ。王子の魅力は破壊力があり過ぎ。抵抗は難易度高な模様。

忍術の復習と特訓①

　ピアノの練習に似ている。何度も反復練習するのは同じ。

「沙織の指はよく動くよね。」
　まさみがため息をつきながら言った。

「牡丹姫には聞いていたけど、あんたは超絶難解な忍術がやたら得意よね。」
　まさみは肩と首を回しながら言った。
　わたしは人を操る術が得意だ。特に大勢にかけてしまう事ができる忍術が得意だ。わたしは荒く乱れた息を整えていた。

　まさみには言えないが、ショパンやリストの難解曲を弾くのと同じだ。

　こっちの世界の沙織は貧乏過ぎて、ピアノなんて習っていない。ピアノに似た楽器があるにはあって、金持ちの牡丹は習えるはずだ。

　まさみは牡丹に頼まれて、わたしの訓練に付き合ってくれていた。

「沙織は私の大切な王子を巻き込んじゃったから、もう死なれては困る。」
　そう言って、奉行所の昼休みにまさみはわたしの忍術の訓練と復習に付き合ってくれた。

「じゃあ、壁はもういいから次は水上術よ。タイムを計るから沙織は自分のタイミングで準備が出来たら走って。」

　二重スパイのまさみは、奉行所の隣にあるプールを昼休み時間は貸し切りにしていた。昼休みの残り時間いっぱいを使って、わたしは水の上を何回も全速力で走らされた。

　水着で。
　水着で空中を走るのは、まさみが仕組んだいじめなような気がしたけど、失敗したら水に落ちるのだから、理にはかなってはいる。

「あーら、もっと早く走らないとお胸が揺れているのが目立つわよ。」

　この発言をプールサイドで繰り返すまさみには若干悪意があると思う。

　まさみは恋のライバルだ。王子が私の彼氏になるのを本当に快く思っていない。でも、まさみの大好きな王子が私をお妃候補に任命したので、仕方なく私の訓練に付き合ってくれているのだ。