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3ー愛の着地

55 ドキドキのプロポーズ(王子視点)

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 ――センジロガハラに咲き乱れる野の花で作った花束を捧げてプロポーズしたのがまずかったのだろうか。綺麗な宝石のついた指輪を持ってくればよかった。

 ――沙織は、虚勢を張っているように見える。

 色とりどりの可憐な野の花の中で、ひざまずいた俺の目線の先に沙織の手があった。

 沙織の手は震えている。沙織の口元には笑みが浮かんでいたが、顔は真っ青で手の震えを止められないようだ。

「最強忍術が使えるわたしのような忍びに、王子はかないますか?私は頼れる方が良いのです。では、この話はなかったことにしましょう。聞かなかったことにしますわっ!」

 沙織は走って去ろうとした。

 ――だめだ。沙織!俺の愛しい人!

 沙織が嘘を言っているのだと俺には分かる。

 ――だめだ。沙織!行っちゃだめだ!

 俺は猛然とと沙織を追った。

 帝王学の中で俺の戦闘能力の強化は最優先課題だった。術を使う才能には恵まれなかったが、今の地球では違法とされている拳銃も使える。実際に今も空気砲のようなものを帯同している。心臓の鼓動が跳ね上がる。一気に最高レベルまで力を出して走った。

 ――なぜか、このまま行かせてはならない気がする。沙織を失ってしまう気がする。何かが起きる気がする。

 俺は走って追いついて沙織の手をつかんだ。

 吸血鬼の能力を使って走る沙織は信じられないほどのスピードで動いた。ジョンは間に合わない。俺は本気で沙織に突進して沙織の手の先をつかんで引き戻そうとした。

 沙織が俺を振り返った。

 振り返った沙織は何かを見つめて一瞬、恐怖の表情を浮かべた。同時に、ナディアの声が響いて、まさみの悲鳴にかき消された。

「あれ?トリケラー」
「キャー!」

 沙織が引き返そうと向きを変えた。
 俺も後ろを振り返った。全てがスローモーションのように見えた。

 草原の少し遠く離れたところで、ナディアが大型恐竜のトリケラトプスの前に立っていた。トリケラトプスはナディアが未知の生物であることを知っている。この地球上にはいないはずの人間だ。

 俺は帯同している空気砲が出る銃を抜いた。トリプラトプスの角がナディアに振り下ろされようとしたその瞬間、空気砲をトリケラトプスの顔スレスレの狙って放った。

 トリケラトプスが一瞬、驚いてビクッと体を後ろにそらして振り上げた角をナディアに振り下ろすのを躊躇した。

 その瞬間に吸血鬼の動きで忍び寄った沙織がナディアを遠くに突き飛ばした。

 ヒメとまさみと五右衛門の手裏剣がトリケラトプスに刺さった。忍びの威嚇行為いかくこういだ。

 共存する恐竜へ、「攻撃するな」という合図だ。平和に解決するならむやみに相手を傷つけてはならない。

 沙織は自分が突き飛ばしたナディアの元に走り寄った。

 俺は沙織とナディアの元に走り寄った。ナディアの手を取って、紗織と一緒にひっくり返っていたナディアを立ち上がらせた。

 そして、俺は深呼吸して沙織の顔をまっすぐに見つめて言った。

「沙織、今度は指輪を渡すよ。だから今はこれで許してくださいっ!綺麗な花だからどうか受け取ってください。君が何を言おうと俺の気持ちは変わらない。結婚しよう。俺は自分の身は自分で守れるから大丈夫だ。」

 沙織は俺をポカンとした表情で見つめた。そこへ、ナディアが助け舟を出してくれた。

「沙織はこの花束を王子から受け取って」

 ナディアは花束を持った俺の手を沙織の手に導き、俺の両手が沙織の両手を包み込むようにした。

 沙織の手は震えていた。

「俺は自分で自分を守れるから。沙織は心配しないで俺のそばにいてくれる?」

 俺はそう沙織にささやき、沙織の唇に熱烈な口付けをした。

 沙織が思わず俺の首の方に口元を持っていこうとしたのを「だーめ」と俺はそれを交わした。

 夢で沙織にベッドの中で噛みつかれたのが、生きたのだ。

 俺はニッコリ笑って沙織の手に花束を握らせた。沙織は涙をこらえた目で静かにうなずいた。

 俺たちはトリケラトプスに頭を下げて謝罪して、手裏剣を抜いてあげた。

 お詫びに幾許かのお金をあげた。
 彼の角で八つ裂きにされてもおかしくなかった。

 ーープロポーズは成功だっ!うわーっ!ついにっ!

 俺は心の中で雄叫びをあげた。
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