私はウルフ沙織。王子お一人だけを見つめるのはお預けのようです。

２ー解毒術の権威

43 １つ確保

「沙織！」

　王子とジョンが叫ぶ声が聞こえた。
　わたしは飛び上がって回転しながら、槍のような武器を空中で捉えた。

「6名潜んでいる！」

　頭上のシノマクロプス・ボンディとプテラノドンから情報が伝えられた。

「御意！」

　わたしは答えた。吸血鬼の生物熱感知能力を使ってネアンデルタール人が潜む場所を正確に捉えると、風のように木々や草むらを走り抜けて次々に武器をひったくってきた。

　合計7つの槍を集めた。息が切れる。ゲーム召喚中は寝ても令和には戻らない。その代わりゲーム召喚中に夜を越すとひどく疲れた。

　令和に戻ったのは、王子の隠れ家の別荘で寝て起きたら令和の箱根の旅館の廊下だった時以来だ。あのときは、朝、温泉に入って朝早くの電車を乗り継いで二子玉川まで戻り、リモートワークでの始業に間に合った。

　そのあとは、まだ戻っていない。そろそろ体力の限界を迎えそうだ。だから、余計に吸血鬼側の力を使っているのかもしれない。


　ジョンのプテラノドンは、猛烈なスピードで急襲を仕掛けてきたネアンデルタール人のところに舞い降りるのを繰り返していた。彼らは初めての生物に怯えて、声にならない恐怖の叫び声をあげて逃げ帰って行った。

　地面にすわりこんだわたしのすぐそばに王子が舞い降り、すぐになりきる術を解いてわたしを抱きしめた。

「疲れたか。この槍を一つもらったら魔暦に帰ろう」
「はい。明日、少しミキの家族が回復していたら帰りましょうか」

　わたしは力なく笑った。
　もう一晩は洞穴だ。ただ、ミキの家族はこの6本の槍を見たら元気になるだろうと思うと、その想像にわたしは力づけられた。

　令和の自分の部屋が恋しかったけれども。