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2ー解毒術の権威

42 毛皮を着てネアンデルタール人に混ざって

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 洞穴は薄暗く、わたしたちは毛皮を着て、静かに夜明けを待っていた。星と月の代わりに太陽がゆっくりと顔を出した。

 ゆっくりとゆっくりと夜が開けていき、青みがかかった空が姿をあらわしていく。洞窟の中には静寂が漂い、毛皮で暖をとるわたしたちは無言で夜があけるさまを眺めていた。

 私たちは魔暦10年の柳原名誉教授の王子王学コースの解毒術クラスで聞いたとおりに、一つ目の材料を集めにやってきていた。平成からは30万年前にやってきていた。

「ネアンデルタール大先輩は約36万年も地球で生息し、地球を破壊せず、特段紛争も起こさずに生きながらえたわ。それに対してホモサピエンスはせいぜい30万年弱で絶滅した。我らが忍びは15万年目。やはりネアンデルタール大先輩から最初に挨拶しておきたい。」

 となり、全員一致でやってきたのだ。

「いつ、ここを出る?」
「しいーっ、ミキが起きるから」

 ナディアが口に指を当てて、静かにするようにジョンに言った。

 ネアンデルタール人の家族が病におかされていたのを発見し、忍びの薬草学をフル活用して助けようとして3日目だ。父親、母親、子供が4人いた。既に6人の子供が亡くなったと聞いた。

 わたしたちは、薬草を教えて狩をし、火の起こし方をネアンデルタール人の家族に教えた。

 目的の石器を彼らからもらうつもりにはとてもじゃないがなれなかった。あまりにミキの家族は哀れな状況だったのだ。さらに状況を知ってこのまま放ってもおけなかった。それで、私たちはここで一緒に暮らして、彼らをサポートしていた。
 
「ネアンデルタール人の石器をわけてもらいに、他のリッチな家族を探しに行きましょう」

 今日は別の家族を探すために、遠出をする予定だった。

 雨が降ると、ますますわたしは完全なる吸血鬼に近づく。のんびりしていて良いわけがない。恋する吸血鬼は、ホモサピエンスの平安時代が誇る『源氏物語』を地でいくと誉高い、若き王子を襲いかねない状況だった。

 この家族を見捨てることは出来なかったが、看病のおかげであと2日もすれば全員が回復できそうだ。

「30万年前のスペインは、こうだったのね」

 小さな声でナディアがぽつんとつぶやいた。草原と森林しかない大地が目の前に地平線まで開けていた。
 
「ホモサピエンスの先祖が弓矢を使ったのは、もっとあとよね?」
「あとだったと思う。だから今は弓矢が飛んでくることはないと思う。そもそも私の祖先は、今頃はアフリカあたりにいるんじゃなかった?」

 ナディアはつぶやいた。

「あーそうだった。スペインにはまだいないはずだ。じゃあ突然襲われるとしたら、ネアンデルタール人か獣しかないな。」

 王子が少し安心したように小さな声で言った。
 
 風がそよぎ、雲が夜明けの太陽を隠した。雨が降り出しそうだった。わたしはムズムズしてきていた。まずい……発症しそうだ。ジリジリとした焦りを感じる。

 突然、槍のようなものを構えた人影をわたしたちは捉えた。忍びの目はとらえたが、ナディアは気づいたか分からない。

 彼らが持っているのは剥片石器を木の棒にくくりつけたもので、獲物の肉を切り裂けるはずだ。その槍のようなもので襲われたらナディアはひとたまりもない。彼女のことだから銃を持っているのは知っていたけれども。
 
 わたしたちは相手の動きをじっとうかがいながら、風を読んだ。方角からして、洞穴の入り口にいるナディアのところまで武器が到達するのは、難易度高い。ただ、この時代のネアンデルタール人の戦闘能力をわたしたち魔女忍も知らない。

「ね、なんでホモサピエンスは滅んだわけ?」

 ナディアはホモサピエンスを代表してといった調子で、小さな声で王子に聞いてきた。
 
「『妄想』という病に冒されていたから。それに比べてネアンデルタール大先輩は『妄想』は病であり、『想像』と『妄想』をキッパリ分けるだけの分別があった。ネアンデルタール人は進化していないとホモサピエンスは言うけど、どっちが幸せだったのかは一言では言えない。宗教とか、聖地をめぐる争いとか、ホモサピエンスは常に『妄想』という脳の病が蔓延して争いを始めていたんだよね。」

 二十歳の王子はつぶやいた。

 それを合図に、わたしはそのまま全力疾走して、槍のようなモノを構えたネアンデルタール人に突進した。ミキの家族を守るのだ。

 と同時に、王子とジョンはなりきる術で翼竜にそれぞれなり、飛び上がった。

 一瞬で槍のようなものが飛んできた。
 ネアンデルタール人の腕力は、すごい馬力だとしか言いようがなかった。弧を描いてまっすぐに洞穴の入り口に飛んできた。
 
 
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