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2ー解毒術の権威
41 絶滅危惧種ばっかりじゃん
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「いいか?」
二十歳の王子は10歳の王子に言った。
「柳原教授に聞いてくれ。大事なことなんだ。この人が悪質な蚊に噛まれたけど、解毒が間に合わなかったんだ。その場合の対象法を教授に聞いて欲しいんだ」
二十歳の王子はわたしの肩に手を置いて10歳の王子に頼んだ。 10歳の王子はわたしをじっと見つめて恐れをなした表情で聞いてきた。
「吸血鬼になっちゃったの?」
「うん、半分だけね。まだ大丈夫だけど」
わたしは正直に答えた。貧乏だったので、貧乏と吸血鬼になったこととどちらが恥ずかしいことなのか分からなかったけれども。わたしの家の貧乏談は凄まじすぎて、吸血鬼に勝りそうな恥ずかしさを常に強烈にわたしに強いてきたので。
「わかった。僕、聞いてくるよ」
10歳の王子は潔く走って教室に戻って行った。
わたしたちは、足元の花を踏み潰さないように気をつけながら窓辺に張りついた。壁に張りつくとさすがに目立つので、窓の下からそっとのぞいている状態だ。
教室をのぞくわたしたちの目に、片付けを始めていた柳原名誉教授の元に、教室に戻ってきた10歳の王子が歩みよる様子が見えた。
「教授、悪質な蚊に噛まれたけれど、解毒が間に合わなかった場合はどうしたら良いのでしょうか。僕はずっと存在自体が狙われる状況なので、是非知っておきたいです!」
10歳の王子は子供らしい表情ながら、真剣さが滲み出る様子で教授に聞いた。目を輝かせて、さっきまで鼻をほじっていた様子からは想像できないほどの真剣さが表れている。その真剣さにわたしは胸を打たれた。
「ほほう、さっきの続きですな」
柳原名誉教授は片付けの手を止めて、王子の様子をしげしげと眺めた。
「良いでしょう。まず、解毒に間に合わなかった場合、ほぼ実現不可能なのですがー」
教授が話し始めた。
わたしと五右衛門と王子は持ってきたノートにそれぞれメモをとり始めた。ナディアはわたしたちのそれぞれのノートをのぞき込んで言った。
「へー、読めない・・・・・」
「忍び速記法です」
わたしはこっそりナディアにささやいた。
「一つ、ネアンデルタール人の石器の破片ですりつぶすこと、二つ、アラビカ種のコーヒー豆、三つ、マーコールのヤギのミルク、四つ、納豆、五つ、ニンニク」
柳原名誉教授は解毒術の権威だ。
しかし、今言ったのは絶滅種のものが多く含まれていた。今の地球にあるものは納豆とニンニクだけ。平成のナディアから見ても、令和のわたしから見ても、絶対に手に入らないものが含まれている。
「教授、ありがとうございます!」
10歳の王子は素直に礼を教授に言った。教授の顔をしげしげと見上げている。何か言いたげだ。
「教授はこれらが手に入らないものばかりだとご存じですよね?納豆とニンニクしか僕は手に入れられません。」
10歳の王子は正直な意見を言った。
「これは本当のことでしょうか?対処法とは言えないのではないでしょうか?僕が噛まれた場合、解毒が間に合わなかったら、それはもう諦めて吸血鬼になるしかないということでしょうか?」
その通りだ。もはやファンタジーだ。そんな調合は無理難題だ。実現不可能な調合となっている。
「あー、難しすぎて俺は覚えられなかったのか。珍しい絶滅危惧種が含まれているから。」
二十歳の王子はわたしの横でうめいた。自分がメモした6つの材料を睨むように眺めている。
白髪で白髭の柳原名誉教授はハハっと笑い出した。その姿にわたしはどこかで見たような見覚えを感じた。いや、わたしだって教授の教え子だ。魔法寺小屋時代に教授に解毒術を数回は習っている。わたしの場合は教科書に書いてあることばかりだったけれど。
でも、その知っているとは違う、誰か別の人に似ているような不思議な予感がわたしの中に突然生まれたのだ。
「ふふっ。わたしは73歳じゃよ」
柳原名誉教授はちゃめっけたっぷりに10歳の王子を見つめていた。
「10歳の王子は二十歳の王子には会えまい。本当なら。でも本当に会えないのかな?」
10歳の王子はポカンとした表情で教授を見上げた。わたしたちもギョッとして動きを止めた。
「えーっ、バレてる?」
ナディアがささやいた。
「73歳の王子に10歳の王子が会えないのだろうか。そんなことはないのじゃよ。できないと思ったらそれまでのことじゃ。本当に必要なことならば、できる方法が常に用意されているものじゃ。」
柳原名誉教授はそう10歳の王子に言って、授業の荷物をまとめるとさっさと教室を出て行った。
「今のどういう意味?」
ナディアが口を押さえて、はっとした表情をした。
「10歳の王子、二十歳の王子、73歳の王子!?」
すっとんきょうな声でそう言ったナディアに、ジョンと王子が「まさかあ」「いや、それはないっしょ」とそれぞれ否定した。
「解毒が間に合わなかった場合の対処法を聞いたよ」
10歳の王子は教授が教室を出ていくのを見届けると、くるっと窓の方を振り向いて、わたしたちに満面の笑顔で言った。
「うん、ありがとね」
わたしは力が抜ける思いだったが、10歳の王子にお礼を言った。
二十歳の王子は10歳の王子に言った。
「柳原教授に聞いてくれ。大事なことなんだ。この人が悪質な蚊に噛まれたけど、解毒が間に合わなかったんだ。その場合の対象法を教授に聞いて欲しいんだ」
二十歳の王子はわたしの肩に手を置いて10歳の王子に頼んだ。 10歳の王子はわたしをじっと見つめて恐れをなした表情で聞いてきた。
「吸血鬼になっちゃったの?」
「うん、半分だけね。まだ大丈夫だけど」
わたしは正直に答えた。貧乏だったので、貧乏と吸血鬼になったこととどちらが恥ずかしいことなのか分からなかったけれども。わたしの家の貧乏談は凄まじすぎて、吸血鬼に勝りそうな恥ずかしさを常に強烈にわたしに強いてきたので。
「わかった。僕、聞いてくるよ」
10歳の王子は潔く走って教室に戻って行った。
わたしたちは、足元の花を踏み潰さないように気をつけながら窓辺に張りついた。壁に張りつくとさすがに目立つので、窓の下からそっとのぞいている状態だ。
教室をのぞくわたしたちの目に、片付けを始めていた柳原名誉教授の元に、教室に戻ってきた10歳の王子が歩みよる様子が見えた。
「教授、悪質な蚊に噛まれたけれど、解毒が間に合わなかった場合はどうしたら良いのでしょうか。僕はずっと存在自体が狙われる状況なので、是非知っておきたいです!」
10歳の王子は子供らしい表情ながら、真剣さが滲み出る様子で教授に聞いた。目を輝かせて、さっきまで鼻をほじっていた様子からは想像できないほどの真剣さが表れている。その真剣さにわたしは胸を打たれた。
「ほほう、さっきの続きですな」
柳原名誉教授は片付けの手を止めて、王子の様子をしげしげと眺めた。
「良いでしょう。まず、解毒に間に合わなかった場合、ほぼ実現不可能なのですがー」
教授が話し始めた。
わたしと五右衛門と王子は持ってきたノートにそれぞれメモをとり始めた。ナディアはわたしたちのそれぞれのノートをのぞき込んで言った。
「へー、読めない・・・・・」
「忍び速記法です」
わたしはこっそりナディアにささやいた。
「一つ、ネアンデルタール人の石器の破片ですりつぶすこと、二つ、アラビカ種のコーヒー豆、三つ、マーコールのヤギのミルク、四つ、納豆、五つ、ニンニク」
柳原名誉教授は解毒術の権威だ。
しかし、今言ったのは絶滅種のものが多く含まれていた。今の地球にあるものは納豆とニンニクだけ。平成のナディアから見ても、令和のわたしから見ても、絶対に手に入らないものが含まれている。
「教授、ありがとうございます!」
10歳の王子は素直に礼を教授に言った。教授の顔をしげしげと見上げている。何か言いたげだ。
「教授はこれらが手に入らないものばかりだとご存じですよね?納豆とニンニクしか僕は手に入れられません。」
10歳の王子は正直な意見を言った。
「これは本当のことでしょうか?対処法とは言えないのではないでしょうか?僕が噛まれた場合、解毒が間に合わなかったら、それはもう諦めて吸血鬼になるしかないということでしょうか?」
その通りだ。もはやファンタジーだ。そんな調合は無理難題だ。実現不可能な調合となっている。
「あー、難しすぎて俺は覚えられなかったのか。珍しい絶滅危惧種が含まれているから。」
二十歳の王子はわたしの横でうめいた。自分がメモした6つの材料を睨むように眺めている。
白髪で白髭の柳原名誉教授はハハっと笑い出した。その姿にわたしはどこかで見たような見覚えを感じた。いや、わたしだって教授の教え子だ。魔法寺小屋時代に教授に解毒術を数回は習っている。わたしの場合は教科書に書いてあることばかりだったけれど。
でも、その知っているとは違う、誰か別の人に似ているような不思議な予感がわたしの中に突然生まれたのだ。
「ふふっ。わたしは73歳じゃよ」
柳原名誉教授はちゃめっけたっぷりに10歳の王子を見つめていた。
「10歳の王子は二十歳の王子には会えまい。本当なら。でも本当に会えないのかな?」
10歳の王子はポカンとした表情で教授を見上げた。わたしたちもギョッとして動きを止めた。
「えーっ、バレてる?」
ナディアがささやいた。
「73歳の王子に10歳の王子が会えないのだろうか。そんなことはないのじゃよ。できないと思ったらそれまでのことじゃ。本当に必要なことならば、できる方法が常に用意されているものじゃ。」
柳原名誉教授はそう10歳の王子に言って、授業の荷物をまとめるとさっさと教室を出て行った。
「今のどういう意味?」
ナディアが口を押さえて、はっとした表情をした。
「10歳の王子、二十歳の王子、73歳の王子!?」
すっとんきょうな声でそう言ったナディアに、ジョンと王子が「まさかあ」「いや、それはないっしょ」とそれぞれ否定した。
「解毒が間に合わなかった場合の対処法を聞いたよ」
10歳の王子は教授が教室を出ていくのを見届けると、くるっと窓の方を振り向いて、わたしたちに満面の笑顔で言った。
「うん、ありがとね」
わたしは力が抜ける思いだったが、10歳の王子にお礼を言った。
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