私はウルフ沙織。王子お一人だけを見つめるのはお預けのようです。

西野歌夏

文字の大きさ
上 下
33 / 84
1.求婚 ダメ。王子の魅力は破壊力があり過ぎ。抵抗は難易度高な模様。

23 半分城の住人に

しおりを挟む
 魔歴22年の朝、わたしは自分の部屋で目が覚めた。

 急いで出勤用の服に着替えた。王子が贈ってくれた服を身につける。そのまま小走りで急いで部屋を出て、城に向かった。 セグウェイは城においてきている。わたしが隣の部屋にはいないことに気づいた王子と五右衛門はどう思うだろう。

 わたしは走るように通りを急いだ。

 今、ナディアからのゲーム召喚が来てしまったらどうしようと、恐怖がみぞおちあたりに込み上げて来るのを感じる。魔暦のわたしはドラキュラではない。血を求めて誰にも襲いかかろうとは思わない。  おそらく、人間の体だと耐性がないのだ。早くわたしは解毒剤を飲まないと、完璧な令和のドラキュラになってしまうだろう。

 そもそも令和でも、わたしが目覚めた多摩川河川敷土手からわたしの部屋は歩ける距離だった。私の部屋から城の王子の部屋までもおそらく徒歩圏内だ。

 とにかく、走って走って走って、一気に王子の住む城の城門についた。
 門番はわたしの顔を見ると慌てて、門を開けてくれた。秘密のお妃候補と知れ渡るのは良いことが多い。
 そのまま城内を走った。わたしとすれ違った衛兵たちは、驚いた表情を浮かべながらも敬礼をしてくれた。

 王子の部屋の前に着くと、王子とジョンは二人で崩れるように床で寝ていた。ベッドには子供が寝ている。
 良かった。二人はわたしの不在に気づいていなかったようだ。素早く薬をおいてあるはずのカゴを見た。

 ーーまだ薬が残っている!
 
 わたしは王子の部屋にあったコップに水を注ぎ、そこに薬を混ぜて一気に飲み干した。

 ーーお願い!薬よ効いて!
  
 もう1つだけ、薬をたもとにしまった。念の為、お昼ご飯の時にも飲もうと思ったのだ。

 わたしは薬を服用した安堵のあまりに、床にヘタリ込んでいた。

「あ、沙織。おはよ。」

 王子とジョンが目を覚ました。


 二人は身支度をしたわたしを見て、キョトンとした表情になったが、すぐさまベッドで寝ている子どもの様子を確かめた。

「大丈夫そうだな。」
「ええ、もう大丈夫でしょう。」
「さて、弁当を用意してもらいながら、朝ごはんを食べようか。」

 王子は朝ごはんの支度を3人分頼むために、部屋から出て行った。

 ジョンは王子が部屋から出て行ったのを見計らって、わたしに聞いてきた。

「夜、どこにいっていた?隣の部屋をのぞいたら沙織はいなかった。王子は知らない。」
「ちょっと城の中を歩いていたわ。眠れなくて。」

 ジョンはわたしの顔をじっと見つめていた。わたしの心のブロックは固くしまったままだ。わたしの心をジョンは読めないはずだ。わたしは嘘をついた。令和に生きているとは言えない。誰にも信じられない話なのだから。

「そういえば、沙織、昔のルーブルで首のところに子供からキスされなかったか?」

 ジョンははっと思い出したようだ。

「そうなの。だから、さっき薬を飲んだ。夜、眠れなかったのはそのせいかもしれない。」
「そうか。もう1つ薬をお昼に飲んだ方がいいかもしれない。」
「うん。ほら。持っている。」

 わたしはニッコリして、たもとからお昼に飲む予定の薬をジョンに出してみせた。

「そうか。なら良かった。」
「ご飯を食べて、奉行所に行こう。」
「そうだね。」 


***


 わたしが城から出勤するようになって早くも1ヶ月が経った。朝、セグウェイで城に行き、夜もセグウェイで城から部屋に寝るためだけに戻る。つまり、寝る時だけは、自分の部屋で寝るというのを王子に許してもらったのだ。

 令和のわたしは、雨の日だけ欲望がときどきうずくのを感じる程度までになった。わたしの中のドラキュラは少しだけ残ったが、日常生活には害がないほどまでに押さえ込まれていた。

 魔暦のわたしの服は新しく用意されたものになり、毎日城のお台所が用意してくれる弁当に変わった。

 子供を助けて以来、ナディアからの召喚が止まっていた、子供はすっかり元気になり、金髪の髪のくるくるの髪の毛も伸びたので、数日前にわたしが散髪してあげたばかりだった。子供はフィリップスという名だった。

「沙織!」
「フィリップス!危ないから戻って!」

 わたしが毎朝セグウェイで奉行所に出勤しようとすると、一緒にセグウェイに乗ろうとフィリップスは追いかけてくるのだ。

「フィリップス!」

 王子がうまくフィリップスの小さな体を抱き止めてくれて、わたしはその隙にセグウェイで飛び上がり、衛兵に守られて奉行所に向かった。


 青い空のもと奉行所まで飛んでいると、セグウェイで出勤していくいろんな人とすれ違った。
 わたしがお妃候補であることは、まだ秘密だった。会社の上司陣も黙って見守ってくれていた。

 王子とはあれから6回キスをした。なので、全部で8回キスをした。それ以上の進展はない。まだだ。最後のキスはフィリップスが駆け寄ってきたから慌ててやめた、中庭の木陰でだった。

 わたしたちはフィリップスを救うのに必死だったし、フィリップスが元気になると、わたしは仕事で忙しかった。

 王子はフィリップスがそばにいると、なぜわたしが命を狙われることになったのかの話の続きを聞いてこなかった。わたしもあまり自分から言いたい話ではないので黙っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】ある二人の皇女

つくも茄子
ファンタジー
美しき姉妹の皇女がいた。 姉は物静か淑やかな美女、妹は勝気で闊達な美女。 成長した二人は同じ夫・皇太子に嫁ぐ。 最初に嫁いだ姉であったが、皇后になったのは妹。 何故か? それは夫が皇帝に即位する前に姉が亡くなったからである。 皇后には息子が一人いた。 ライバルは亡き姉の忘れ形見の皇子。 不穏な空気が漂う中で謀反が起こる。 我が子に隠された秘密を皇后が知るのは全てが終わった時であった。 他のサイトにも公開中。

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

処理中です...