私はウルフ沙織。王子お一人だけを見つめるのはお預けのようです。

西野歌夏

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1.求婚 ダメ。王子の魅力は破壊力があり過ぎ。抵抗は難易度高な模様。

20 仕事おわりにワープ

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「ねえ、沙織さんってば。」

 わたしは二ノ宮さんから強めに話しかけられて、ハッとして顔をあげた。

「さっきから声かけているのに、反応しないんだもん。」

 二ノ宮さんは、不服そうな心配そうな複雑な表情でわたしを見つめていた。

「ごめんなさいっ!ちょっと疲れていて、申し訳ないです。」


 ゲームに使われているタイムスリップ技術について考えているうちに、いつしか手元は止まり、寝ているような考えているようなぼうっとした状態になっていたようだ。


 二ノ宮さんはわたしに栄養ドリンクをくれた。疲れた顔をしているから気遣っているのだろう。わたしは素直に礼を言って、その場ですぐに飲んだ。疲れているのは間違いないのだから。

 それから思い出したように、王子に差し入れてもらったイチゴの乗ったケーキを美味しくいただいた。飲み物は奉行所のただのお茶だ。信じられないほど甘くて美味しかった。城には、とんでもなく腕のいい料理人が揃っているようだ。

 わたしは術の一つである『縮地之秘法しゅくちのひほう』という術とは全く違うタイムスリップ技術について考えるのはすっぱりやめた。仕事に集中しなければならない。
 

 こうして午後の時間は平和に過ぎていった。
 今日は部屋に帰ったら仮眠しよう。そう心に決めた。一旦は体力回復に努めよう。城に行くのを断るかどうか、それからよく考えよう。また多摩川の河川敷の土手で目が覚めて良いとは思えなかった。令和の東京が雨という可能性もある。昨日、寝る前に天気予報をチェックするのを忘れていた。

「お疲れさまー」
 二ノ宮さんはみんなに真っ先に声をかけて帰宅して行った。

「お疲れっす。」
「おつかさまです!」

 あちこちで声がかかり始めて、みんなが帰りはじめた。わたしはその波に乗ってさっさと帰る支度をはじめた。仕事中のサンダルから、今朝、服と一緒に王子が用意してくれていた高そうなブーツに履き替えて、弁当箱の包みを手にセグウェイ置き場まで急いだ。

 新品のセグウェイ。王子がプレゼントしてくれたセグウェイ。わたしの心は浮き立った。後ろからジョンが追ってきて、セグウェイ乗り場にやってきた。
 
「王子は気前がいいな。」
「そう。服もブーツもそうだから、気前がいいよね。ありがたいよね。」
「いいところあるよな。王子って。」
 
 ジョンは素直に王子を褒めた。

 ピンク色の夕暮れが広がる空に向かって、他の翼竜が飛び交う中、二人で一気にセグウェイに乗って飛びたった。ジョンの乗るセグウェイがピタリとわたしの乗るセグウェイの横に並んでいる。

「気持ちいいっ!」
「うん。地球ってやっぱ最高だよな。」

 すぐさま護衛の衛兵の乗るプテラノドンが、わたしのそばに空中で駆け寄ってきた。空中でかけよるとは変な表現だが、他に言いようがない。奉行所の終了時刻に合わせて待機してくれていたようだ。

 一緒に飛び始めようとしたそのときだ。強い力で何かにぐわんとつかまれた。夕暮れの空がゆがむ。何かに引っ張られて沈む。

「ゲーム召喚っ!」

 わたしはジョンに向かって小さく叫び、ジョンがセグウェイから手を離してわたしに飛びついた。その瞬間、二人でぐうっと暗闇に引きずられて、はるか昔の地球にワープした。
 
 目を開けると、昔のパリのルーブル美術館の前身の館の前にいた。
 
 ――十三世紀?十四世紀?十五世紀?
 ――ここは一体いつだ?

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