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1.求婚 ダメ。王子の魅力は破壊力があり過ぎ。抵抗は難易度高な模様。
19 命がねらわれることになった理由
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王子は、綺麗に箱に包まれたケーキを取り出した。
箱から赤いイチゴの乗ったケーキをわたしの前に置いた。
「ジョンのもあるよ。」
王子はジョンにはモンブランを差し出した。
自分はキャラメルソースのかかったシフォンケーキを置いた。
「交換できるよ。沙織はどれが食べたい?」
王子は優しいまなざしでわたしを見つめて言った。
「いちご。」
わたしはそれだけ言った。
そうか、奉行所の昼休みに豪勢なお弁当とデザートにケーキをもらう代わりに、わたしはあの秘密を話さなければならないのだ。
王子はさりげなくバリアを張った。
天井桟敷のランチスペースには他の人もちらほらいたが、彼らにはわたしたちが会話している内容は決して聞こえない。バリアの能力は王子にだけ備わっているという噂を耳にしていたが、どうやら噂は本当のようだ。
天井桟敷からは青い空と白い雲が見えた。遠くに五重塔も見える。空を自由に飛び交う翼竜たちと、ときおり楽しげに風を切って飛んでいくセグウェイに乗った忍びたちも見えた。
わたしは深いため息をついた。
***
それは五回目の召喚のときだった。
煌めく太陽に眩暈を覚えるような暑い日だった。一度、21世紀の猛暑の白浜海岸というところを体験したあとに、わたしは颯介とふたたび中世ヨーロッパに潜っていた。
中世ヨーロッパでは太陽はそれほど照りつけておらず、穏やかに晴れており、市場では賑やかに果物や野菜が売られていた。
颯介がミッションをこなしている間、わたしはプテラノドンのなりきる術を解き、その辺りを散策していた。喉が渇いてきて、確かどこかで水をもらおうと思って歩きまわるうちに、うすよごれた街並みに変わったことに気づいた。
「よう、ねえちゃん。」
話しかけられて、気づいたときには遅かった。
うす汚い服を着た連中に取り囲まれていた。わたしは疲れていた。二十一世紀の酷暑は尋常ではなかったし、そこからさらに中世ヨーロッパにワープして、数時間プテラノドンになり切って飛んだのだ。休みたかった。
壁を走って逃げようとした。しかし、髪をつかまれて引きずりおろされた。短剣を取り出して戦おうとしたが、その前に頭を思いっきり殴られた。吐き気がするほど頭がいたかった。
そうして汚い路地裏で服をぬがされた。実質的な被害は服をぬがされただけ、それと頭をなぐられたこと、髪をつかまれて引きずられたこと、それだけですんだ。
そのとき、助けの声がしたのだ。
「君たち!何をしている!」
遠のく意識の中で、男性の声がしたと思った。すぐに馬車に乗せられたように思った。
しかし、その後の記憶がない。
気づいた時には天蓋付きの白いレースのかかったベッドに寝かされていた。
***
わたしがここまで話したところで、奉行所のお昼休みは終わりになった。
王子はこぶしをにぎり締めて黙って聞いていたが、かたい表情のままだった。
「王子?昼休みが終わってしまったので、この後の話はまた。」
わたしはそう声をかけた。
「わかった。」
王子の表情は読めなかった。怒っているようにも見えた。
わたしとジョンは空になった弁当箱を綺麗にまとめて、ケーキの置かれた皿を片手に天井桟敷からはなれた。
振り返ると、王子はまだそこにキャラメルソースのかかったシフォンケーキを前にすわっていた。
箱から赤いイチゴの乗ったケーキをわたしの前に置いた。
「ジョンのもあるよ。」
王子はジョンにはモンブランを差し出した。
自分はキャラメルソースのかかったシフォンケーキを置いた。
「交換できるよ。沙織はどれが食べたい?」
王子は優しいまなざしでわたしを見つめて言った。
「いちご。」
わたしはそれだけ言った。
そうか、奉行所の昼休みに豪勢なお弁当とデザートにケーキをもらう代わりに、わたしはあの秘密を話さなければならないのだ。
王子はさりげなくバリアを張った。
天井桟敷のランチスペースには他の人もちらほらいたが、彼らにはわたしたちが会話している内容は決して聞こえない。バリアの能力は王子にだけ備わっているという噂を耳にしていたが、どうやら噂は本当のようだ。
天井桟敷からは青い空と白い雲が見えた。遠くに五重塔も見える。空を自由に飛び交う翼竜たちと、ときおり楽しげに風を切って飛んでいくセグウェイに乗った忍びたちも見えた。
わたしは深いため息をついた。
***
それは五回目の召喚のときだった。
煌めく太陽に眩暈を覚えるような暑い日だった。一度、21世紀の猛暑の白浜海岸というところを体験したあとに、わたしは颯介とふたたび中世ヨーロッパに潜っていた。
中世ヨーロッパでは太陽はそれほど照りつけておらず、穏やかに晴れており、市場では賑やかに果物や野菜が売られていた。
颯介がミッションをこなしている間、わたしはプテラノドンのなりきる術を解き、その辺りを散策していた。喉が渇いてきて、確かどこかで水をもらおうと思って歩きまわるうちに、うすよごれた街並みに変わったことに気づいた。
「よう、ねえちゃん。」
話しかけられて、気づいたときには遅かった。
うす汚い服を着た連中に取り囲まれていた。わたしは疲れていた。二十一世紀の酷暑は尋常ではなかったし、そこからさらに中世ヨーロッパにワープして、数時間プテラノドンになり切って飛んだのだ。休みたかった。
壁を走って逃げようとした。しかし、髪をつかまれて引きずりおろされた。短剣を取り出して戦おうとしたが、その前に頭を思いっきり殴られた。吐き気がするほど頭がいたかった。
そうして汚い路地裏で服をぬがされた。実質的な被害は服をぬがされただけ、それと頭をなぐられたこと、髪をつかまれて引きずられたこと、それだけですんだ。
そのとき、助けの声がしたのだ。
「君たち!何をしている!」
遠のく意識の中で、男性の声がしたと思った。すぐに馬車に乗せられたように思った。
しかし、その後の記憶がない。
気づいた時には天蓋付きの白いレースのかかったベッドに寝かされていた。
***
わたしがここまで話したところで、奉行所のお昼休みは終わりになった。
王子はこぶしをにぎり締めて黙って聞いていたが、かたい表情のままだった。
「王子?昼休みが終わってしまったので、この後の話はまた。」
わたしはそう声をかけた。
「わかった。」
王子の表情は読めなかった。怒っているようにも見えた。
わたしとジョンは空になった弁当箱を綺麗にまとめて、ケーキの置かれた皿を片手に天井桟敷からはなれた。
振り返ると、王子はまだそこにキャラメルソースのかかったシフォンケーキを前にすわっていた。
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