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1.求婚 ダメ。王子の魅力は破壊力があり過ぎ。抵抗は難易度高な模様。
12 誤解を招く発言はやめてっ!
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仕事をさっさと終えて部屋に戻ると、わたしは着替えをした。五日程度外泊する想定で荷物をまとめるついでに、シャワーも浴びて髪も洗った。髪は手拭いで拭き取っただけでそのままおろしただけにした。湯上がりの浴衣生地の袴と着物に着替えたいところだが、少し上等な外出着を着た。そして、約束を守るために城へ向かった。
すぐに行かなければ、きっと大げさな迎えが城からやってくるだろう。
わたしは急いで部屋を出て、歩いて城に向かった。途中で銀行に立ち寄って記帳をした。口座にみたこともない金額が振り込まれているのを確認して、しばらく身動きが取れなかった。よろよろの父の姿が頭に浮かんだ。「父ちゃん、もう少しで借金返せるから」そう心の中で思った。
わたしは記帳された残高に心の底から感動した。実際に記帳された金額を見ると、気合い十分になった。お金のために、命を賭けたゲーム召喚のなかに王子を招き入れよう。「父ちゃん、待っていて」父が喜ぶ姿も想像して、気合いが尚更入った。
そのとき、わたしを呼ぶ声がした。振り向くと、ジョンが走って追ってきていた。
「待って、沙織!」
「部屋に行ったらもういなかったから。探しながら走ってきた。」
「沙織がまた襲われたら大変だから、城まで送っていくよ。」
「ええ?ありがとう。」
ぜいぜいと荒い息を吐き、ジョンは膝に手をついて呼吸を整えようとしながらわたしに送っていくと言ってくれた。
「確認したら、振り込まれていた。」
「うん。よかったじゃない。」
「嬉しい。」
私は記帳したばかりの通帳を胸に抱きしめ、そっと袂に大事にしまった。
「俺のセグウェイで行こうよ。」
ジョンは銀行の前に止めたセグウェイを指差した。私はお金がなさすぎて買えないが、ジョンは普通にセグウェイで奉行所に出勤していた。空をセグウェイで飛んで、城まで送ってくれるらしい。
「ありがとう。」
ジョンのセグウェイに二人で乗った。二人乗りまでは法令で許されている。ジョンは私の着替えを入れた風呂敷包みをしっかりとセグウェイのハンドルに巻きつけ、夜空に向かって飛び立った。
もう日はとっくに暮れて、星空が輝く夜になっていた。
風を切って飛ぶセグウェイは、市中のど真ん中に広大な敷地を持つ、城の門に向かって飛んだ。横を見ると、五重塔の辺りをまだ色んな翼竜が飛び交っていた。
「沙織、気をつけなよ。」
「うん、分かっている。」
ジョンの背中につかまって後ろに立っている私を振り返って言った。
その時だ。目の前に同じくセグウェイに乗った王子が、翼竜に乗った衛兵たちから守られながら飛んでやってきたのだ。
「遅いっ!あんまり遅いから、迎えにやってきた。」
「入れ違いにならなくて良かったですね。」
王子はわたしとジョンを見るなり、機嫌悪そうに言った。ジョンはニコニコして言った。
「仕事を片付けていたらちょっと遅くなった。ごめん。」
私はそう言い訳した。
「まあ、無事で良かったけど?でも、これからは、お妃候補だから護衛がつくからね。」
王子は冷たい声でそう言い放つと、向きをさっさとかえて城の方向に飛び始めた。
ジョンも王子と並んで飛び、その周囲を衛兵がぐるっと取り囲んで飛んでいる。
私の濡れっぱなしでおろしてきた髪は、いい感じに夜風になびき、このままだと乾いてくれそうだと私は思った。
「今晩からやるか。」
「もちろん」
王子がわたしに言って、私も了承した。
衛兵たちは、思ってもない言葉を聞いてしまったというように、サッともう1メートル離れた。完全に夜の愛撫の方と誤解されている。
――違う、違う。誤解だよ。
私は否定したかったが、ゲーム召喚の話をするわけにもいかず、結局黙っていた。衛兵たちからすると、湯上がりの女は、王子のお妃候補なのだ。ここで何を言っても誤解してしまうだろう。
「楽しみだ。」
王子はニンマリとほくそ笑むと、私に向かって意味ありげに目配せした。
――だーかーら、その誤解を招く発言はやめてって!
私はさらに赤面する衛兵たちに取り囲まれて、どうすることもなく、ジョンの背中に捕まって黙って飛んだ。
星がとても綺麗な夜だった。
すぐに行かなければ、きっと大げさな迎えが城からやってくるだろう。
わたしは急いで部屋を出て、歩いて城に向かった。途中で銀行に立ち寄って記帳をした。口座にみたこともない金額が振り込まれているのを確認して、しばらく身動きが取れなかった。よろよろの父の姿が頭に浮かんだ。「父ちゃん、もう少しで借金返せるから」そう心の中で思った。
わたしは記帳された残高に心の底から感動した。実際に記帳された金額を見ると、気合い十分になった。お金のために、命を賭けたゲーム召喚のなかに王子を招き入れよう。「父ちゃん、待っていて」父が喜ぶ姿も想像して、気合いが尚更入った。
そのとき、わたしを呼ぶ声がした。振り向くと、ジョンが走って追ってきていた。
「待って、沙織!」
「部屋に行ったらもういなかったから。探しながら走ってきた。」
「沙織がまた襲われたら大変だから、城まで送っていくよ。」
「ええ?ありがとう。」
ぜいぜいと荒い息を吐き、ジョンは膝に手をついて呼吸を整えようとしながらわたしに送っていくと言ってくれた。
「確認したら、振り込まれていた。」
「うん。よかったじゃない。」
「嬉しい。」
私は記帳したばかりの通帳を胸に抱きしめ、そっと袂に大事にしまった。
「俺のセグウェイで行こうよ。」
ジョンは銀行の前に止めたセグウェイを指差した。私はお金がなさすぎて買えないが、ジョンは普通にセグウェイで奉行所に出勤していた。空をセグウェイで飛んで、城まで送ってくれるらしい。
「ありがとう。」
ジョンのセグウェイに二人で乗った。二人乗りまでは法令で許されている。ジョンは私の着替えを入れた風呂敷包みをしっかりとセグウェイのハンドルに巻きつけ、夜空に向かって飛び立った。
もう日はとっくに暮れて、星空が輝く夜になっていた。
風を切って飛ぶセグウェイは、市中のど真ん中に広大な敷地を持つ、城の門に向かって飛んだ。横を見ると、五重塔の辺りをまだ色んな翼竜が飛び交っていた。
「沙織、気をつけなよ。」
「うん、分かっている。」
ジョンの背中につかまって後ろに立っている私を振り返って言った。
その時だ。目の前に同じくセグウェイに乗った王子が、翼竜に乗った衛兵たちから守られながら飛んでやってきたのだ。
「遅いっ!あんまり遅いから、迎えにやってきた。」
「入れ違いにならなくて良かったですね。」
王子はわたしとジョンを見るなり、機嫌悪そうに言った。ジョンはニコニコして言った。
「仕事を片付けていたらちょっと遅くなった。ごめん。」
私はそう言い訳した。
「まあ、無事で良かったけど?でも、これからは、お妃候補だから護衛がつくからね。」
王子は冷たい声でそう言い放つと、向きをさっさとかえて城の方向に飛び始めた。
ジョンも王子と並んで飛び、その周囲を衛兵がぐるっと取り囲んで飛んでいる。
私の濡れっぱなしでおろしてきた髪は、いい感じに夜風になびき、このままだと乾いてくれそうだと私は思った。
「今晩からやるか。」
「もちろん」
王子がわたしに言って、私も了承した。
衛兵たちは、思ってもない言葉を聞いてしまったというように、サッともう1メートル離れた。完全に夜の愛撫の方と誤解されている。
――違う、違う。誤解だよ。
私は否定したかったが、ゲーム召喚の話をするわけにもいかず、結局黙っていた。衛兵たちからすると、湯上がりの女は、王子のお妃候補なのだ。ここで何を言っても誤解してしまうだろう。
「楽しみだ。」
王子はニンマリとほくそ笑むと、私に向かって意味ありげに目配せした。
――だーかーら、その誤解を招く発言はやめてって!
私はさらに赤面する衛兵たちに取り囲まれて、どうすることもなく、ジョンの背中に捕まって黙って飛んだ。
星がとても綺麗な夜だった。
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