夫である伯爵に裏切られましたが、王家に輿入れすることになりました

村の子供用配給所（２）

「どうしてって。ちょっと様子を見にきたのよ。あなたがここの世話をしてくれているの？」

　私は絶句しそうなぐらいに驚いて、目を見張って私を見つめているアーニャを見つめ返した。アーニャの顔にはところどころパンのふくらまし粉がついていて、髪もほつれていた。顔立ちは相変わらず美しいが、私が知っているアーニャよりやつれている。

「あの……キャロラインの実家から支援してもらっているお金があまり使えなくて、ここの働き手を雇えなくなったの。だから、私がここにやってきて、せめて食事だけでもと思って作っていたの……ごめんなさいっ！」

　アーニャは恥ずかしそうにそういうと、涙ぐんだ。

「あぁ、アーニャ……」

　私はアーニャに駆け寄って抱きしめた。

　――知っているわ。イーサンが支援用のお金を巻き上げたのね。だから、あなたはせめて自分で子供たちに食事だけでもと思って……。

　私はアーニャの苦境を悟って、涙が溢れてしまった。

「アーニャ、大丈夫よ。支援は私が直接するわ。今まで頑張って維持してくれて本当にありがとう。それから……伯爵家の狩猟用の森があるでしょ？あの森を王太子閣下が買い取ってくださるわ。だから、そのお金もあなたに入るわ。契約書の条件に、伯爵家の妻に、つまりあなたに支払うと明記するわ」

　アーニャはポカンとした顔で私を見つめた。顔にはふくらまし粉がついていて、連日懸命にここを支えていたらしい疲労の跡が滲み出ていた。まだ若い顔はあいかわらず輝くように美しかったが、疲労がかいま見えた。