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癒し(4)

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 私はあなたの妻だと言いたかったけれども、会長としての自分がまるで記憶にないので申し訳ないと思いながら、そう言った。

「会長は、マフィアのトップですよ。表の顔は売れっ子俳優ですよ。覚えていますか」
 
 イーサンは焦った様子で私に聞いていたが、もちろん記憶にない。記憶にあるのは伯爵家に嫁いだ令嬢の私だけだ。イーサンに裏切られた二十歳の妻の記憶だけだ。今のマフィアとやらがなんなのかも分からない。

「まずいなあ」

 イーサンは天を仰いだ。そんなにイーサンに自分のことを心配されたことが今までなかったので、私はなんだか新鮮に感じた。

「とにかく、病院ですよ。会長、着替えてっ!」

 イーサンはベッドから飛び起きた。
 私は何をどう着替えるのかさっぱり分からない。呆然として立ち尽くしていた。

「もう、着替えから?」
 
 イーサンは焦った様子で、私の手を引いて歩いて別の部屋に連れて行った。扉を開けると服のオンパレードだった。整然と服が並べられている。でも、男性の服しかない。少々凄みがあるというか、渋めの派手さがあるというか、伯爵家の妻であった私からすると見たこともない代物の服ばかりだった。

「じゃあ会長はこれを着て。アーン、もう着方が分からないの?あのね、じゃあ。こうやって脱いで。ほらこのボタンを外して」

 甲斐甲斐しくイーサンは私の着替えを手伝ってくれた。どうやら、会長の私とリョータというイーサンは、ごく親しい者同士のようだ。

 イーサンは、妻である私に示したこともないほどの愛情をたっぷりと、会長である私に注いでいた。言葉の端々、私を見つめる瞳、世話をあれこれとやくさま。全てにイーサンの愛情を感じた。
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