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癒し(1)

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 目を開けると、ベッドで寝ていた。大きな窓についたカーテンの隙間から明るい日差し漏れ出て、部屋まで差し込んでいた。天蓋付きのベッドだ。
 
 私の隣には誰かが寝ていた。黒髪の男性だ。

 この人は誰だろう?



 男性の顔をそっと覗き込んだ私は息を飲んだ。

 長いまつ毛、すっと通った高い鼻筋、柔らかいハリのある肌に彫刻のようなバランスの取れた骨格。この美貌を誇る男性は私の夫のイーサンだ。でも、金髪から黒髪に変わっている。イーサンは胸をはだけてはいるものの服らしきものを着て、穏やかな寝息を立てていた。

 私は今まで一度もイーサンの寝顔を見たことがなかった。一緒に寝たことが皆無だったから。

 思わず「イーサン」と声をかけようとして、ハッとした。
 
 自分の手がひどい。イーサンの肩あたりに伸ばした手が信じられないほど日に焼けている。どう見ても男性の手だ。私は二十歳だ。水仕事を一度もしたことのない、大事に育てられた令嬢だった。結婚してからも私に仕えてくれる方はたくさんいて、私のお世話をしてくれていた。私の手は白くてよく手入れが行き届いていて、水仕事など一度もしたことのない、白魚のような綺麗な手だったはず。それなのにー。

 ――見る影もない手に変わっている!
 
 私は自分の体を見回した。馬車に轢かれたような気がしたのに、体は普通に動くようだ。でも、何かが変だ。見たことのない服を着ている。シルクのようだが、男性のズボンを履いている。しかもなんだが私が知っている物とは雰囲気がだいぶ違う。二十歳の伯爵家の奥様だった私からすると、危険な香りがするほど自分を上から眺めた時の雰囲気が違う。

 私はベッドからそっとおりた。知らない部屋だ。家具も何かも今までの人生で見たことも聞いたこともないものが置かれている。

 そっと床を歩き、ベッドから見えていた扉の方に向かった。広い部屋だ。小間使いの部屋などではないことは分かる。
 扉をそっと開けると、目の前に大きな鏡があった、と思った。
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