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わざとね ※

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 隣の部屋から裏切りの音がせわしなくしている。
 甘いけど獣のような声。女はわざと声を出している。私に聞こえるようにだ。男がやってきてから数分と立っていない。男は私の夫。私がここに潜んでいて、彼らのことを聞いているのを彼女は知っている。

 やぁあんっ……
 やんっ……んっ……ぁんっ……っあンっ!

 私が好きではない男と女。
 涙で前がよく見えない。頭に血がのぼり、震える手で必死に壁に手をつき、倒れないようにしているのが精一杯だ。息がしづらい。今、ここで座り込んでしまったら、二度と床から起き上がれないような気がした。
 
 私の夫は爵位を持っている。彼女は私の親友、だと思っていた人。ずっと私を裏切っていた。そんなことってあるかしら?

 私の親友のフリをし続けながら、ずっと私を裏切るということが本当にできるのかしら?さっきまでそう思っていた自分がバカだった。

 夫は私には興味がない。夫と私は一緒の寝室で寝たことは一度もない。その相談を彼女にずっと私はしていた。夫はただただ、私の持っている土地が欲しかっただけ。夫が持っているのは爵位だけ。私が持っているのは土地とそこから毎年産み出される莫大な富。私と夫の結婚で、夫が欲しかったのはそれだけだ。私ではない。
 
 彼女はわたしの悩みを慰めて、親身になっているフリをしながら、その裏で笑っていたのだろう。だって、こうやって自分が夫と楽しんでいるのだから。

 彼女の名前はアーニャ、私の十三歳の時から親友だった人。夫はわたしが十五歳の時から私の恋人だった人。私は夫との清く正しい交際を経て、結婚をした。

 アーニャは綺麗な子だった。今も綺麗だ。いつも綺麗にしている。素敵な体つきをしている。私は親友のアーニャが自慢だった。彼女ほど素敵な友達はいないとずっと思っていた。

 私がおめでた過ぎるのかしら?私には見えていない何かがずっとあったのだ。でも、あんなにうまく二人で私を騙せるもののかしら?

 私があんまり気づかないものだから、ついにアーニャは癇癪を起こして、私に事の事態を把握させようとしたらしい。

 彼女は夫が欲しいのだ。きっと私から奪いたいのだ。私はこんな夫もこんな親友も要らない。ただ、身体が思うように動かない。頭が痛い。倒れてしまいそう。吐き気がするような気がする。

 私はよろよろとその部屋を出た。必死に這うような思いで、そこを出た。なんとかあの二人から遠ざからなければ。

 建物から出た。馬車の往来が激しい。

「奥様、お顔が真っ青ですっ!」
 馬車のところで待っていてくれたマリアが叫んだ。

 マリア…………。
 私は吐き気をどうも抑えきれない。頭が割れそうに痛い。よろよろとマリアの方に向かって歩こうとした。

 しかし、私はそのままぬかるみに倒れた。

「きゃあっ!奥様っ!」

 マリアの悲鳴と、周りの人々の悲鳴が聞こえた。
 馬のいななきと、「止まれーっ!」と叫ぶ音がした。轟音が私の耳に迫る。

 私は何かとてつもなく重いもので轢かれた。
 そのまま気を失った。
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