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第四章 幸せに
挙式の席順はループの後で フランSide
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「フランリヨンドのオットー陛下の代理でウィリアム王子とマリアンヌ妃がご参加くださるとのことです。それから……ジークベインリードハルトの次期皇帝になられるラファエル殿下とロザーラ妃がご参加くださいます。リシェール伯爵としての参加になりますね……いえ?もしかするともう戴冠している頃でしょうか。ちょっと詳しく調べます。失礼があってはならないので……」
ウォルター・ローダン卿の言葉が午後の穏やかな日差しとあいまり、私に眠気を催してきた。濡れがらすのように漆黒の衣装をビシッと着込んだ彼の格好は、今日もキマッている。
――ダークブロンドの髪を一体何を使って撫でつけ……
「それから飾る花ですが、基調とするのは春に咲く薔薇を……」
「デジャブだわ」
私は目が覚めた。
――この感じは前にもあったわ!
私は周りをサッと見渡した。今、確実に既視感があった。
「ウォルター!?」
私は疑惑の目を綺麗になでつけたダークブロンドの髪を、焦ったように再度なでつけているウォルター・ローダン卿に言った。
誰かが走ってくる。
「フラン!無事だな!?」
私とウォルターが結婚式の招待客の席順を決めるためにいるフォーチェスター城の小さな部屋に、ジョージ王子が息を切らして飛び込んできた。私はくしゃくしゃの髪の毛の隙間から心配そうに見開かれたジョージ王子の瞳を見つめた。
「私は無事にきまっているでしょう……何か隠しているわね?」
ジョージ王子は一瞬宙を見て、何かを逡巡した。私はそれを見逃さなかった。
ウェディングドレスの8回目の試着はこの後だ。昼食をたっぷり食べてはならないと思ったのにはわけがある。コルセットでウエストを絞りに絞らなければおそらくあの理想的なウェディングドレスは着れない。
――それなのに、フォーチェスター城のシェフが作るスフレが美味しすぎて私ったら食べすぎてしまって……
――今、そんなことはどうでもいいわ。
「戻したのはリサね?今日はリサも私の試着に付き合ってくれるくれることになっていたわ。彼女のベビーをミカエルが見てくれるというから……リサはまだフォーチェスター城に到着していないわね?」
私は半年前に第一子を産んだリサの姿がまだ見えないことに気づいた。彼女は子供を妊娠してからはとても幸せそうな様子で、私とは少しずつ違う容姿になった。リサの容姿に、私たちの祖母だけでなく、彼女の亡くなった母親の遺伝子も影響も現れ始めたのだ。私とリサを見た他の人は、姉妹かもしれないとは思うものの、同一人物だとは誰も思わなくなってきていた。
ここ最近、彼女の体重はだいぶ増えたのもある。しばらく、彼女は黒い仮面を全くつけていない。彼女のありのままの姿で幸せを謳歌していた。
「アネシュカだ。君が哀れに思ってアネシュカを先週牢獄から出しただろう?恩赦だと言って。あれがまずかった。君はループも合わせると既に2回も彼女に殺されていた。この国の世継ぎである俺も1回、ウォルターも1回、ミカエルも1回、リサも1回だ」
ジョージ王子は厳しい声で説明して、私の顔を見つめた。
「君とリサを乗せた馬車がライムストーンの壁が連なる村を通りかかった時、君がアネシュカに一思いに刺されたんだ」
「村人も御者も現場を見たんです」
ウォルターも乾いた声で私に説明している。
私は自分の喉の奥で奇妙な音が鳴るのを聞いた。そんなまさかという恐怖の音だ。
「道端を歩くアネシュカに気づいて、君が馬車から声をかけた。彼女はスモールソードで君を襲った。一思いにやられたから、君の記憶はなかったんだと思う。君に対する3回目の殺しが実行されたんだ」
ジョージ王子のカラカラの奇妙な声が遠くで聞こえる。頭が割れそうに痛い。耳がよく聞こえない。呼吸がしづらい。
「さっき、泣きながらリサがほんの少しだけ時間を戻した。アネシュカは今頃、あの村を歩いているはずだ。陛下の兵に捕まえられてその場で処刑される」
遠くの方でジョージ王子が私に話しかけているのが聞こえる。ベーコン男爵家はとっくに取り潰しがきまっていた。私の母の実家だろうと、そこは関係ない。
「申し訳ないけど、今日のドレスの試着はやめるわ」
私はそれだけを言って、椅子から立ち上がろうとしてそのまま気を失った。
誰かが私の髪の毛を撫でている。
私はそっと目を開けた。リサだった。
「ジョージ王子はさっきまでいたのよ」
私たちは抱き合って泣いた。
今回はリサが時を戻してくれなければ、私は永遠に命を失ったままだっただろう。自分でも時を戻す余裕もなく一瞬で命を失ったのだろうから。
「ありがとう、リサ」
「フラン。当たり前でしょう。あなたは私の身に危険が及ぶと思って、あの時危険を知らせに戻ってきたでしょう?あなたとジョージに何かあれば、私はまた時間を戻すわよ」
「私も、リサに何かあれば頑張って戻すわよ」
私たちは抱き合った。
「でも、ミカエルは……そうねぇ、ベビーに頼まれたら仕方ないからやってもいいけど……」
私たちはここで吹き出した。
「結婚式のドレスだけれど、明日また試着に行きましょう。アネシュカはもういないわ」
リサの言葉は少しぎこちなかったけれど、私を励まそうと懸命に明るく振る舞ってくれているのが分かった。
『アネシュカはもういないわ』
そうだ、私に仕返しをしようとした彼女はこの世から完全に消えたのだ。
フォーチェスター城の1年はあっという間に過ぎた。私は挙式の準備に明け暮れ、『日の沈まぬ国』を破った女王陛下の艦隊が世界を席巻するさまを驚きの思いで見つめていた。
昨年は海上で過ごしたから知らなかった夏のフォーチェスター城も、秋のフォーチェスター城も雪のちらつくフォーチェスター城も、素晴らしかった。ジョージ王子と私の愛はゆっくりと深まって行った。
そして、フォーチェスター城にあの素晴らしいライラックの花の季節がやってきた。いよいよ挙式の日がやってきたのだ。
最愛の人と、私が恋した人と、結婚しよう。
ウォルター・ローダン卿の言葉が午後の穏やかな日差しとあいまり、私に眠気を催してきた。濡れがらすのように漆黒の衣装をビシッと着込んだ彼の格好は、今日もキマッている。
――ダークブロンドの髪を一体何を使って撫でつけ……
「それから飾る花ですが、基調とするのは春に咲く薔薇を……」
「デジャブだわ」
私は目が覚めた。
――この感じは前にもあったわ!
私は周りをサッと見渡した。今、確実に既視感があった。
「ウォルター!?」
私は疑惑の目を綺麗になでつけたダークブロンドの髪を、焦ったように再度なでつけているウォルター・ローダン卿に言った。
誰かが走ってくる。
「フラン!無事だな!?」
私とウォルターが結婚式の招待客の席順を決めるためにいるフォーチェスター城の小さな部屋に、ジョージ王子が息を切らして飛び込んできた。私はくしゃくしゃの髪の毛の隙間から心配そうに見開かれたジョージ王子の瞳を見つめた。
「私は無事にきまっているでしょう……何か隠しているわね?」
ジョージ王子は一瞬宙を見て、何かを逡巡した。私はそれを見逃さなかった。
ウェディングドレスの8回目の試着はこの後だ。昼食をたっぷり食べてはならないと思ったのにはわけがある。コルセットでウエストを絞りに絞らなければおそらくあの理想的なウェディングドレスは着れない。
――それなのに、フォーチェスター城のシェフが作るスフレが美味しすぎて私ったら食べすぎてしまって……
――今、そんなことはどうでもいいわ。
「戻したのはリサね?今日はリサも私の試着に付き合ってくれるくれることになっていたわ。彼女のベビーをミカエルが見てくれるというから……リサはまだフォーチェスター城に到着していないわね?」
私は半年前に第一子を産んだリサの姿がまだ見えないことに気づいた。彼女は子供を妊娠してからはとても幸せそうな様子で、私とは少しずつ違う容姿になった。リサの容姿に、私たちの祖母だけでなく、彼女の亡くなった母親の遺伝子も影響も現れ始めたのだ。私とリサを見た他の人は、姉妹かもしれないとは思うものの、同一人物だとは誰も思わなくなってきていた。
ここ最近、彼女の体重はだいぶ増えたのもある。しばらく、彼女は黒い仮面を全くつけていない。彼女のありのままの姿で幸せを謳歌していた。
「アネシュカだ。君が哀れに思ってアネシュカを先週牢獄から出しただろう?恩赦だと言って。あれがまずかった。君はループも合わせると既に2回も彼女に殺されていた。この国の世継ぎである俺も1回、ウォルターも1回、ミカエルも1回、リサも1回だ」
ジョージ王子は厳しい声で説明して、私の顔を見つめた。
「君とリサを乗せた馬車がライムストーンの壁が連なる村を通りかかった時、君がアネシュカに一思いに刺されたんだ」
「村人も御者も現場を見たんです」
ウォルターも乾いた声で私に説明している。
私は自分の喉の奥で奇妙な音が鳴るのを聞いた。そんなまさかという恐怖の音だ。
「道端を歩くアネシュカに気づいて、君が馬車から声をかけた。彼女はスモールソードで君を襲った。一思いにやられたから、君の記憶はなかったんだと思う。君に対する3回目の殺しが実行されたんだ」
ジョージ王子のカラカラの奇妙な声が遠くで聞こえる。頭が割れそうに痛い。耳がよく聞こえない。呼吸がしづらい。
「さっき、泣きながらリサがほんの少しだけ時間を戻した。アネシュカは今頃、あの村を歩いているはずだ。陛下の兵に捕まえられてその場で処刑される」
遠くの方でジョージ王子が私に話しかけているのが聞こえる。ベーコン男爵家はとっくに取り潰しがきまっていた。私の母の実家だろうと、そこは関係ない。
「申し訳ないけど、今日のドレスの試着はやめるわ」
私はそれだけを言って、椅子から立ち上がろうとしてそのまま気を失った。
誰かが私の髪の毛を撫でている。
私はそっと目を開けた。リサだった。
「ジョージ王子はさっきまでいたのよ」
私たちは抱き合って泣いた。
今回はリサが時を戻してくれなければ、私は永遠に命を失ったままだっただろう。自分でも時を戻す余裕もなく一瞬で命を失ったのだろうから。
「ありがとう、リサ」
「フラン。当たり前でしょう。あなたは私の身に危険が及ぶと思って、あの時危険を知らせに戻ってきたでしょう?あなたとジョージに何かあれば、私はまた時間を戻すわよ」
「私も、リサに何かあれば頑張って戻すわよ」
私たちは抱き合った。
「でも、ミカエルは……そうねぇ、ベビーに頼まれたら仕方ないからやってもいいけど……」
私たちはここで吹き出した。
「結婚式のドレスだけれど、明日また試着に行きましょう。アネシュカはもういないわ」
リサの言葉は少しぎこちなかったけれど、私を励まそうと懸命に明るく振る舞ってくれているのが分かった。
『アネシュカはもういないわ』
そうだ、私に仕返しをしようとした彼女はこの世から完全に消えたのだ。
フォーチェスター城の1年はあっという間に過ぎた。私は挙式の準備に明け暮れ、『日の沈まぬ国』を破った女王陛下の艦隊が世界を席巻するさまを驚きの思いで見つめていた。
昨年は海上で過ごしたから知らなかった夏のフォーチェスター城も、秋のフォーチェスター城も雪のちらつくフォーチェスター城も、素晴らしかった。ジョージ王子と私の愛はゆっくりと深まって行った。
そして、フォーチェスター城にあの素晴らしいライラックの花の季節がやってきた。いよいよ挙式の日がやってきたのだ。
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