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第三章 葛藤と冠へ

スルエラ上陸 フランSide

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「おぉ、リサ、また会えるなんて本当に嬉しいよ」

 ペリ2世は下心満載の笑顔で私に言った。私は大胆にペリ2世の膝にまたがって腰掛けた。黒い仮面をとって、唇を舐めて上目遣いになる。

 内心は吐き気がするが、父のためだ。

「やっぱりあなたの愛人になるわ」

 私は寄せてあげた胸を強調して、ペリ2世に膝の上からささやいた。この壮麗な修道院は彼が『日の沈まぬ国』の執務をするために建てられたと聞く。

「おぉ、そうか、そうか。それは嬉しい」
「でね、一応私の父親の居場所を教えてくれないかしら?あなたの愛人になる前に父親に会いたいのよ」

「そうか?」

 ペリ2世は面食らった顔をしたが、私の顔を見ると頬を完全に緩ませた。頬が興奮で赤らみ、鼻の下も完全に伸びている。

 私は鳥肌が立たないようにするので必死だった。

「デルカナ修道院の蔵に閉じ込めている」

 ――!!!


***

 リサは海の上で私に懺悔した。

 私は二度目のループの時にアネシュカが犯人だと分かった。あの謀略で私のそばで得をしたのは彼女だけだったから。きっかけは、あの日アネシュカがしていた貧民街を訪れるような格好と、彼女が持ってきたパンのかごだ。ロベールベルク公爵家にパンのカゴをあげるのはいくらなんでも変だ。弟のカールはパンをもらって喜んでいたけれども。

 そして、もう一つ。私にはリサの行動で分からないところがあった。私は二週間前に戻る直前に、入れ替わる必要はないのではないかと確かに思った。それを思い出したのだ。

 ずっと、今までこの計画で一つだけ分からないことがあったのだ。私とリサが入れ替わる必要性だ。

 哀れなアネシュカは、完全にリサを私だと信じ込んでいた。私がミカエルと通じ合ったと思ったから、私を殺す指示をベーコン男爵家の御者にしたのだ。ミカエルもリサを私だと信じ込んでいた。

 エヴァがリサについてデジャブだと言った時に、私はリサの時間操作術に少し違和感を覚えた。

 ――もしかしたら?

 ――もしかしたら、リサは他にもこの計画を知らせていた人物がいるとした?

 ――もしかしたら、地理的に大きく離れた地にいる者に計画を共有しなければならなかったとしたら?

 ――例えば海を超えて遠く離れた地にいる者に共有するとしたら?

 だから、エヴァのように記憶を有する者が予想外に出てきてしまった?無理が生じたから?


 私は自分がずっと分からないと思っていた疑問点を思い出した。

 公爵令嬢の立場を入れ替わる必要性は何だった?

 ――リサとスルエラはもしかすると別の計画を持っていたのではないかしら?

 心臓が早鐘のように打った。信頼していた人物に疑惑の目を向けるのは、とても嫌なことだ。

 背筋が寒くなり、頭がカッと熱くなる。

 出航してから長旅の道中、海を進む船の上で私はリサに直接尋ねた。船が進むたびに白波が船ね周りにできるのを見つめていると、リサがくしゃくしゃに顔を歪ませて、泣きながら白状した。

 スルエラのペリ2世と交わしたやりとりを告白してくれたのだ。

「初めて会った日のことを覚えいる?あなたが一度でいいから貧乏な暮らしがしたかったと言った時よ。あらラッキーと思ったの」

 リサは私にそっくりな目で私を見つめた。

「でも、正直なあなたを見ていてあなたに好感を持って、私にそっくりなあなたが私の分身に思えたの。いつしか本気であなたを守りたいと思ったのよ」

 リサは声を震わせて泣きじゃくった。

「フラン、本当にごめんなさい。私があなたにやろうとしたことを許してとは言わないわ。あなたのことを誤解していたの。自分の気持ちに正直になったら、私はあなたの永遠の味方だと気づいたの。本当にごめんなさい。後悔しているの。私が馬鹿だったわ」

 リサは泣きながら平謝りした。

「いいわ。後悔しているなら許せるわ」

 私はこちらを心配そうに見つめているウォルター・ローダン卿に安心するようにうなずいた。彼の船酔いは酷かったが、私の処方した薬で全快している。

 ジョージ王子には夜に話そう。看板でロマンティックな星あかりで二人で甘い時間を過ごすのが最近のお気に入りなのだ。星座を彼に教わっていた。

 それでいうなら、エヴァもウォルター・ローダン卿に教わっていたけれども。

「入れ替わったことで得るものがたくさんあったの。ジョージに出会ったし、ヘンリードは私の才能を初めて発揮してみんなが認めてくれた場所だわ。私は本気を出して自分に向き合うことの大切さを学んだのよ」

 公爵令嬢の立場を入れ替わらなければ私の能力は開花しない。ジョージ王子と出会ってもいない。馬番ジョージだと思い込んで彼に熱烈に恋をすることもない。

 ジョージ王子に愛されて結ばれてもいない。女王陛下が私の姑になることもない。

 だから私はリサには結果的にとても感謝している。

 リサは女王陛下の船に残った。リサは自分も父親であるロベールベルク公爵を助け出すと言って聞かなかったが。

 女王陛下の29隻は赤い鷲の艦隊の財宝を根こそぎいただいて帰路についている。

 
 奪い方は単純だった。易しいものだった。

 夜の闇に紛れてそっと私たちは赤い鷲に近づいた。赤い鷲がスルエラの港の近くまでやってきていたのは分かっていた。

 いただく積み荷は金、銀やスパイス、絹やビロードや陶磁器だ。スパイスは貴族たちの間で病を治せる薬として求められていた。

 甲板に引っ掛けられた縄を頼りに、するすると海賊たちが音もなく登っていく。彼らは慣れたものだ。エヴァとジョージ王子とメアリー・ウィンスレッドの浮遊術で甲板にいた赤い鷲たちが次から次に海の上に漂い始めた。

 ヘンリード校の残りの皆で、手分けして海を漂う赤い鷲の乗組員につかまるための木材を次々に投げ込んであげた。海の水は冷たくない。今は夏だ。スルエラと違って、女王陛下は敵の命までは頂かない。根こそぎいただくのはスルエラの財宝だけだ。

 満天の星空の元、私たちは静かな攻撃を仕掛けた。港が近く、赤い鷲が襲撃を受けていることを誰かに知られてはならなかった。

「よし、いいぞ!皆、運べ!」
「よっしゃあ!いただくぞ!」

 海賊たちは財宝を私たちの30隻の船に移し始めた。今宵、赤い鷲は完全に油断していたようだ。フレッシュ・ウォーターが足りなくなったらしく、ワインをしこたま飲んでいて、千鳥足だった。そんな中、私たちは彼らが溺れないように大慌てした。

 空一面の星空はとても美しかった。ペルセウス座流星群のおかげで、流れ星がいくつも見える夜だった。バスク地方から目的の雪山を目指すことを決めていたが、一体どこに父が連れて行かれているのか私には分からない。誰にも分からなかった。赤い鷲のリーダーは知っているのだろうか。

 くしゃくしゃの髪のジョージ王子が煌めく瞳で私を見つめた。私たちは熱い口付けを交わした。この航海が終われば結ばれるのだ。結婚するのだ。もう一息だ。

 私たちは赤い鷲の船の甲板に立った。私は顔にリサの仮面をつけている。ウォルター・ローダン卿とエヴァとルイも一緒に乗り込んだ。透視ができるジョンも一緒についてきてくれた。ここから先は私たち6人だけの秘密作戦の決行となった。

「いつもの濡れがらすではないウォルターは新鮮だな」
「ご冗談を。これから憎き敵国に忍び込みに行くのですから、いくら何でもいつもの格好ではバレますので」

 ジョージ王子とウォルター・ローダン卿は冗談を言い合っていた。ウォルター・ローダン卿は、ダークブロンドの髪まで寝癖がついたようにボサボサにしていたのだ。

「じゃあな!馬番ジョージとリサ、頑張れよっ!」

 私のことをリサだと思い込んでいる女王陛下の船の乗組員たちは、私たちに手を振っていた。女王陛下の小さな船が離れていった。

 29隻が奪った財宝を乗せて我が国に戻った。1隻が私たちの帰りを隠れて数日待っているところだ。雪山のルートからすると、ジークベインリードハルト側で私たちは合流するだろうと予測できた。だから、船はバスク地方を超えて、ジークベインリードハルト側の港で待つことになっていた。透視できるフランシスが私たちの動きを船から見守ることになっているところだ。

 積み荷を失った赤い鷲の船に、海に漂う赤い鷲のメンバーが戻るのを手伝った。この時、赤い鷲のリーダーに私は呪文をかけた。

 私は腕組みをして赤い鷲のリーダーにそっと近づき、目を見つめた。私は本気でメアリー・ウィンスレッドに教わった呪文を唱えた。紫色に輝く気体がゆらめいた。

「何だよ」
「私の目を見なさい」

 私は仮面越しに赤い鷲のリーダーの瞳を見つめた。赤い髭が特徴的なリーダーの彼だ。

 この時、生まれて初めて人にかけた呪文が効くのかどうかが心底怖かった。ここで効いてくれないと困る状態だった。

 だが、呪文は初めて効いた。紫の煌めく気体は私が次のステップに上ったことを示していた。

***

  そして父の居場所を探るために、ペリ2世に私は会いにきたのだ。

 部屋の外で、ジョージ王子は狂ったように焦れているだろう。早くこの部屋から退出して逃げ出さなければ。

 私はペリ2世に薬をあげるつもりはなかった。彼の膝にまたがったまま「私の目を見て」と甘くささやいた。

 紫色の煌めく気体がゆらめいた。

 成功したようだ。



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