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第三章 葛藤と冠へ

海の旅路 フランSide

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 ロベールベルクの森から帰った日、私たちは午後の昼食に間に合った。

 女王陛下はお怒りだった。しかし、全員うまく逃げ仰たことで最終的には陛下は満足してくれた。私と女王陛下の話し合いは短かった。女王陛下は既に覚悟を決めていた。

 我が国の民を貧しさから脱却させるために、覚悟を決めたと私に話してくれた。私は家族を守るために、本気の力を惜しみなく出す覚悟ができたと陛下に話した。私の目的と女王陛下の目的はこうして一致した。

 私が初めて知った事実がある。私の父は、幼い私が偶然発揮した力をスルエラに知られて、自分が作った薬だと誤魔化したという。それからスルエラに連れ去られた。私は胸が痛んだし、とても悲しかった。

 私を信じなかった最大の犯人は私だ。私は自分の力をまるで信じていなかった。

 私はそのことを深く反省している。本気で物事に立ち向かわなかったことを反省している。自分の力は出して見なければ誰にも分からない。自分にすら分からないのだ。



***
 金、銀、スパイス、絹、ビロード、陶磁器がつまれた赤い鷲の艦隊を見つけて二日。私たちは辛抱強く追っていた。小さな船に射程の長い軽砲が特徴である女王陛下の船は、小気味よく海上を滑るように進んだ。

 こちらの兵の総力は約2500人を上回るぐらいだ。ヘンリード校の者もエヴァを始めて11人乗り込んでいた。船酔いや風邪を引いたものは、全て私の作った薬で面倒を見た。私が作った薬の効果は的面だった。私は毎回顔を赤らめるほど、褒められた。

 つまり、女王陛下の船にはヘンリード校のほぼ半分が乗船したことになった。既に4ヶ月が経とうとしているが、海賊と協力して赤い鷲をひたすら追っていた。メアリー・ウィンスレッドとバロン教授も乗船していた。私たちは航路を進む間、毎日レッスンを受けて訓練を続けたのだ。

 私は薬草学以外では相変わらず落第しそうな勢いだった。そうなのだ。授業では薬を作る以外は相変わらずできなかった。

 力の出し方がまだ分からない。



 潮を感じる。帆がはためき、空はどこまでも続き、水平線は空と溶けてあっていた。まもなく夕日が水平線に落ちる。私のスカーフが潮風にはためき、隣に立つハンサムな男性の頬をかすめた。

「綺麗な夕日だな」
「ええ」

 私たちは抱き合うようにして地平線に沈む赤い夕日を見つめていた。

 私たちは小型の三十隻の船で目標に向かって進んでいた。ヘンリード校の3期生で透視ができるジョンとフランシスが、航路上どこに進むかを明確に決めていた。

 ジョンとフランシスの予測では、ついに、今日の日没直前に目的の荷を積んだ赤い鷲の艦隊を視界にのぞむことができると言う。

 潮風を受けて看板に立つ私の隣で私に寄り添って微笑んでいるのは最愛のジョージ王子だ。フォーチェスター城の馬番ジョージとして、ヘンリード校の3期生としていてくれたのだ。

 ジョージ王子の乗船はやっとの思いで女王陛下のお許しが出た経緯がある。

「ならぬ」

 当初、女王陛下はジョージ王子の乗船にそう言って猛反対を続けた。最後は私とジョージ王子と女王陛下とウォルター・ローダン卿の4人だけで話し合った。
 

「母上、私はフランとなら、何事であっても乗り越えられると考えています。私の戦いでもあるのです。私が幼い頃に仕掛けられた私の暗殺計画を母上も覚えてらっしゃるでしょう。スルエラを許せないのです。そしてフランのそばにいたいのです」

 結局は、女王陛下は最後の最後で折れてくれた。帰国したらすぐに国をあげての挙式だと約束をさせられた。そして必ず無事に帰ってくると、私たちは約束させられた。私たちの出発の見送りの際、女王陛下の瞳には涙が溢れていた。

 エヴァとウォルター・ローダン卿ももちろん乗船していた。

 そしてリサとミカエルも一緒に乗船してくれている。リサは皆の前に出る時だけは相変わらず黒い仮面をつけていた。馬番ジョージがジョージ王子である秘密をリサとミカエルも守ってくれていた。

 私はミカエルを見ると顔が引き攣る状態を回避できたとは到底言えない。失望と裏切られて悲しみをおぼえたこと、盗みと母の誘拐を仕掛けたことを許せるはずもない。だが、彼が命をかけて私を守ろうとしてくれた時のことも覚えている。だから、なんとか彼の存在を許そうと努力している。

 私が絶対に許せないのはスルエラと赤い鷲だからだ。父を連れ去り、母の誘拐計画を実行しようとし、カールをあろうことかロベールベルク所有の森に連れ去ったのは、あのスルエラと赤い鷲が仕掛けたことだと知っているからだ。

 スルエラに近づいた時に私が何をするのかが、正直わからない。

 怒りは私の奥深くまで到達していて、赤い鷲を再度見たら自分でも何をするのだろう?と思ったぐらいだ。

 4ヶ月の船旅で、立ち寄った港でフレッシュウォーターとワイン、ビスケット、塩漬けの肉、大麦等を仕入れて減った分を補充しながら航海した。異国の港は賑やかで、珍しい物に溢れていて、私とジョージは甘い時間を含めてヘンリード校の皆と楽しい時間を過ごした。

 私は意外と船旅が好きだった。
 遠く祖国を離れた私の祖父も、船旅が好きだったのだろう。

 夕日が沈んで星あかりになった頃、真っ黒な海の上を音もなく私たちの小型船30隻が赤い鷲に近づく。

 さあ、正念場だ。奇襲でスルエラの痛いところを突くのだ。

 公爵令嬢フラン・マルガレーテ・ロベールベルクは、今宵、本気で立ち向かおう。夕日が沈みかけて、空には一番星が輝き始めた。



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