上 下
46 / 71
第二章 恋

三度目のループ 切り抜ける フランSide(2) 

しおりを挟む
 私は大急ぎで懐かしい我が家を走り、二人の弟を騎士団に保護してもらった。そして、母の寝室に急いだ。母は寝ていた

 私は王子と騎士団に待ってもらって、母の薬草室で母に昔習ったように薬を作った。確かに今までできなかったような薬ができた。私は薬を作る力があるようだ。母の役に立てて私は嬉しかった。

 それを母に飲ませた。母は私の姿を見ると嬉しそうだった。

「あなたはフランね。リサに会ったわ。彼女に会わせてくれて、そして二人で協力して私を救おうとしてくれて、本当に嬉しかった。ありがとう」

 母はそれだけ言うと、また目をつぶってしまった。ウォルター・ローダン卿が母を抱き上げて、馬車まで運んでくれた。

 私は女王陛下の元に行くことになったと公爵邸の執事に告げて、信頼できる侍女3人連れて公爵邸を後にしようとした。

「お嬢様、その指輪は……?」

 執事は私にそっと尋ねてきた。


「申し遅れました。ジョージと申します。女王陛下のお許しを受けて、我が王朝にフラン嬢を妃に迎え入れることになりました」

 ジョージは執事にそっと囁いた。どこからか赤い鷲に漏れると問題になるかもしれないので、ジョージは人差し指を口元に当てて、内緒の話だと執事に合図をした。

「おっおっお嬢様っ!まことでございますかっ!それは大変名誉なことでございます。お嬢様がお幸せになってくださるなら、ロベールベルク公爵様もこれ以上ない喜びを……」

 執事はそれ以上言えずに声を震わせて泣いた。

「そういうことなの。しばらく留守にするわ。それから、ミカエルとは婚約破棄したのよ。急な話でごめんなさない」

 私はそっと執事に告げた。

「しょ、承知いたしました」

 執事はグッと口を固く結び、秘密は守るといった様子でうなずいた。

「お願いしますね。それからお母様の薬草室からいくつか薬草をいただいて行くわ。お母様の薬を作らなければならないから」

 執事は静かにうなずいた。

 私は急いで薬草室にある薬草をかき集めて、母を乗せた馬車まで戻った。

「あなたは……」

 馬車の中で、母は目の前に座っているくしゃくしゃの髪をしたジョージ王子を見て不思議そうな顔をした。

「申し遅れました。フラン嬢との結婚をお許しいただきたいと願っております、ジョージと申します。女王陛下にはお許しをいただきました」

 ロサダマスケナのピンクの花が咲き乱れるロベールベルク公爵家の門を女王陛下の騎士団と私たちの馬車が出た時、母はぽかんとしてジョージ王子を見つめていた。

 濡れがらすのように漆黒の流行りの衣装を着たウォルター・ローダン卿が笑みを浮かべて、会話に割り込んだ。

「ロベールベルク公爵夫人、私は父がいつも薬を処方いただいているローダン家の者です。父がいつもお世話になっています」
「あら、お父様はお元気かしら。あなたがローダン伯爵の息子さんでしたか」

 母はウォルター・ローダン卿に戸惑いながらも微笑んだ。

「こちらは、ジョージ王子でございます。女王陛下はフラン様をジョージ王子の妃にすることをお許しになりました」

 しばし、馬車の中に沈黙が訪れた。

「あなたはあのジョージさま……?」

「はい、お義母様。フラン嬢なしではわたくし生きてはいけぬほど彼女を愛しております。婚約をお許しください。結婚したいと考えております」

 ジョージ王子は真剣に母に許しを請うた。

「フラン、そうなの?」

 母は私を見つめて囁くように聞いてきた。

「はい、お母様。私はジョージ王子を愛しております。共に人生を歩いていきたいのです」

 母は嬉しそうに微笑んだ。
 
 小さな声でジョージ王子に「娘をよろしくお願いします」と言った。母は安心したかのように目をつぶった。色々起きて疲れたのだろう。



 アネシュカは、貧民街を訪れるような出立ちでロベールベルク公爵邸を訪問して、カゴに入ったパンをくれた。私たちが土地も森も失って、路頭に迷うと彼女は知っていたからだろう。ミカエルを自分のものにするために、彼女は色んな手を使ったのかもしれない。
 
 
 馬車の中で、私とジョージ王子は手を握り合って見つめあった。私はさっき時間が戻る直前にみた夢のような光景を思い出して一人で顔を赤らめた。

 私はまもなく16歳になる。婚約して、その先の将来、私は少し大人になったジョージと結ばれるのだ。

 あれが予知であってほしいと私は願う。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

処理中です...