【完結】美人悪役公爵令嬢はループで婚約者の謀略に気づいて幸せになって、後悔させる

西野歌夏

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第一章 破綻と出会い フランと王子Side

ご提案がございます、一度貧乏を味わってくださる(2)

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「……それは私ですらつい先ほど知ったところですわ。あなたがなぜそれを?」

「私も父の娘ですから、ロベールベルク公爵家が一文無しになるのは困るのです。私は父の公爵家を調べていて、偶然にこの謀略を知ったのです。そこでご提案がございます。あなたの代わりにこの謀略を防ぎます。あなたは、私の代わりにアイビーベリー校に行って頂きたいのです」

 私はポカンとして仮面姿のリサを見つめた。

 ――この娘は一体何を言っているの?うちの財産が婚約者に盗まれる謀略を防いでくれるというけれど、どうやってかしら。


「それは、私は一時的な貧乏生活をするということかしら?」
「そういうことになります。ご提案は、一度貧乏を味わって頂けますか、となります。私と公爵令嬢の立場を入れ替わっていただきたいのです」

「あぁ、それなら憧れだったの。私はずっととんでもないお金持ちの貴族令嬢で過ごしてきたでしょう。だから、一度でいいから貧乏生活をしてみたかったのよ。それも期間限定でね。いえ……」

 私はハッとした。そういうお気楽な話ではない。


「今はそんなことどうでもいいわ。一体、なぜあなたならこの謀略を防げるのかしら?」

 リサは私の貧乏が憧れだったという発言にたじろいだ様子だ。

 貧乏をナメていると言われても仕方がないが、私からすれば、お金がない生活というのを一度で良いから味わってみたいと常々思っていた。冒険のように感じた。祖父のように財宝を目指して海に出るのもよい。ないものねだりと言われればそれまでだ。

 私の発言に目の前のリサは黙り込んでいた。

「でも、なぜ、あなたならこの謀略を防げるのか教えてほしいわ」

「それは私が選ばれし者だから、です。女王陛下の設立された学校では、その中でも特別な能力を有する者を集めています。海を超えて艦隊を出すためにと聞いております」

 リサは仮面の奥からエメラルドの瞳を輝かせて静かに話した。


「あなたが選ばれし者というのは、もっと具体的に教えてくださる?」

 私はリサの発言が腑に落ちず、全てを盗まれた今、どうやって巻き返せるのか信じがたい思いでリサに詰め寄った。

 リサはグッと身を乗り出して、小さな声でささやいた。

「私は時空を越えられます。時間操作術で時を今から2週間前に戻しますわ。土地の権利書が全て盗まれてしまい、あなたのお母様の行方がわからなくなる前に戻します」

 私は聞いたこともない話に目をしばたいた。

 ――正気の話とは思えないわ。これこそ詐欺ではないかしら?

「今、私のことを正気かどうか疑いましたでしょう?」
 
 リサは仮面の奥からうっすら笑っているかのような声音で言った。

「時間を操作するには力がいるのです。2週間も戻したことは一度もありません。なので、一度戻した後は、私であってもしばらく体力が回復できるまでは二度とできません。あなたのお母様は森の魔女と言われていましたね。私も似たようなものです」


 私は黙り込んだ。確かに、私の母は森の薬草を摘んでは不思議な薬を作り出していた。

 ただ、私にその力はない。私はどちらかというと、公爵家のワガママ令嬢と影口を叩かれていた。私には無いが、私の母には不思議な魔力があるのは知っていた。

 そもそもロベールベルク公爵家の者には昔から不思議な力があると言われていた。私にはその力の存在は皆無だったが。

 祖父には大きな先読み能力があったと聞く。

 私の母はよそから来た薬草学使いだったが、私の父との結婚によって、ロベールベルク家が代々所有する森を使えるようになってとても嬉しかったと聞いた。

 四代前の先祖がリサと同じく時間操作術を使えたと聞いたことはある。リサがロベールベルク家の血を引いているのは間違いなさそうだ。まず、祖母に生き写しと言われる私にそっくりな外見であることだ。私たちは他人とは思えないほど酷似している。

 そして時間操作術だ。本当なら、この能力は特殊なものだ。


 私の心は揺れ動いた。

 ――盗人の元婚約者がロベールベルク公爵家に仕掛ける卑劣な仕打ちを防いでくれるなら。
 
 ――母の失踪に元婚約者が絡んでいるという恐ろしい事態を防げるのなら。



 この時点では、ロベールベルク家の正統な特殊能力の使い手は、これまで日の当たる場所にいなかったリサの方だ。私とリサは、次期ロベールベルク当主になる公爵令嬢の立場を入れ替わることになる。私が影の立場に回るということか。


 今振り返ってここで言えることは、私は命を狙われるということだ。
 何の力もないロベールベルク公爵令嬢の私が森の魔物を倒せる程の力を出せるようになるのか。これが運命の選択だったと言える。

 






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