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第二章 恋
失う フランSide
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朝になって、私は幸せな気持ちで目覚めた。馬番ジョージに結婚の申し込みをされたのだ。
その朝、何もかもが光り輝いて見えた。小さな部屋の小窓からフォーチェスター城の庭がよく見えた。朝靄がかかったような庭に朝日が煌めいて降りてきて、花々が美しく咲いている。窓の外から新鮮で芳しい空気が部屋に入り込んできた。
私は馬番ジョージと婚約したのだ!
この話をエヴァにしたくてしたくてたまらなかった。彼女が起きる時間まで待ち遠しかった。今日は授業は休まなければならない。昨晩のうちに、メアリー・ウィンスレッドへはウォルターから「リサ・アン・ロベールベルクは一日実家に帰る必要ができた」と伝えられたはずだ。
朝食はヘンリード校の3期生の皆で食べた。私は馬番ジョージの指輪を指にはめてエヴァにこっそり見せた。
エヴァは大興奮して私に抱きついて祝福してくれた。
ジョージも食事の間にやってきたところ、私とジョージはエヴァにまた祝福された。エヴァは涙目で私たちを祝福するものだから、最後は馬番ジョージは恥ずかしがって逃げたくらいだ。クラスの皆にはまだ内緒にしようと決めていた。婚約の話をしたのはエヴァだけだ。エヴァは秘密を守るはずだ。
私は公爵家から持ってきたネックレスに指輪をつけて、ドレスの下に隠した。
そこから先はもはや小旅行だった。
朝食が終わると、私はウォルター・ローダン卿の手配した馬車に乗ってフォーチェスター城を出た。フォーチェスター城のロングウォークを馬車で進むのは初めての経験だ。りんごの木の花やライラックの花が真っ盛りの中を馬車はどんどん進んだ。
ウォルター・ローダン卿は御者一緒に御者台に座り、私と馬番ジョージは二人だけで馬車の中にいた。私たちは長いキスを交わした。
婚約したのだ。キスはできる。
ジョージは私の手を握り、くしゃくしゃの前髪の隙間から煌めく瞳をのぞかせて私を嬉しそうに見つめた。
私も舞い上がっていた。彼に恋をしていたから。
一緒に馬車に乗れるだけで胸が弾み、これからミカエルとリサに会うのだというのに、どうしようもなく心が浮き立った。
「気をつけて欲しい。君に何かがあったら俺は……」
何度目かの彼の忠告に私はキスで返した。彼の心配は分かるが、彼の口を塞ぐには私のキスしかなかった。私も彼にキスをしたかったのだから。
はちみつ色の壁の可愛らしい村が見えてくる頃には、私は彼に道中の村の説明をしていた。窓の外は、フォーチェスター城のあるどかな田園地帯から美しい森やカモや白鳥の泳ぐ川の流れるロベールベルク公爵領に近づいていた。
私がフォーチェスター城に向かった日から3日しか経っていないとは思えないほど、私の周りは変化したのに、風景は同じに見えた。
やがて我が家であるロベールベルク公爵家は見えてくると、木陰で待ち構えていたらしいルイと呼ばれる従者の身なりをした若い男性がこっそりと馬車に乗り込んできた。私はルイに会ったのは初めてだった。
「ルイ、今はリサは何をしている?」
「昨晩、ミカエルが訪ねてきていまして、まだ寝ています」
もうお昼近かった。それなのにリサはまだ私の部屋で寝ているということか。私は今のうちに公爵邸に戻ろう。フォーチェスター城に持ってきた服の中で一番華美なドレスを着ていたので、このまま入り口から歩いて入っても怪しまれないと私は判断した。
「では俺はここで待つが、ルイはフランと一緒に行ってくれるか」
「かしこまりました」
私は馬車から降りて、誰も見てないことを確かめると、そのまま公爵邸の入り口まで向かった。
「お嬢様、一体いつの間にお出かけで?」
門番は驚いた表情をしたが、私が「朝はやくに散歩に行ったのよ」と言うと門を開けてくれた。
そこにちょうどミカエルが訪ねてきた。
「おぉ、フラン!」
彼は頬を赤らめて、見たこともないほど瞳をきらめかせて私を見つめた。
「ちょっと君に会いたくてね。待ちきれなかった」
ミカエルは小声で私に身を寄せてささやいた。私は全身鳥肌が立っていた。彼に近づかれると、裏切り者の男に触れられたくなくて後退りたかった。だが、ここでバレてはいけない。
「そうなの。実は私もよ」
私はにこやかにミカエルに言って門番に会釈をして二人で中に入った。
チラリと目の端に馬車からジョージが降りてきたのが見えた。いても立ってもいられなくなったのだろう。
ミカエルは私の髪を撫でて私の瞳をのぞきこみ、微笑んだ。今にも私を抱きしめそうだ。
私は吐き気がした。彼は私の母を一度は誘拐したのだ。一度はうちの権利書を盗んだのだ。
私の顔が引き攣っていることに気づいたミカエルは、一瞬目を細めて私を見つめた。
――バレるわ。抱きつかなければ。
私はふわっと笑ってミカエルに抱きついた。
その瞬間、私は遠くで馬番ジョージが叫ぶ声を聞いた。
――ジョージったら、これは演技よ……
ルイが飛びかかってきた。私は熱いもので体を焼かれたような痛みを感じてうずくまった。
「えっ!?」
ミカエルも叫んだ。彼の服に赤いものが飛び散っている。
――誰の血……?
私は目の前が真っ暗になった。
何もかも失った、その時一瞬そう思った。
時間を戻したのに、土地だけでなく母だけでなく、自分の命も失ったのか。
真っ暗な中で確かにわたしはそう思った。
その朝、何もかもが光り輝いて見えた。小さな部屋の小窓からフォーチェスター城の庭がよく見えた。朝靄がかかったような庭に朝日が煌めいて降りてきて、花々が美しく咲いている。窓の外から新鮮で芳しい空気が部屋に入り込んできた。
私は馬番ジョージと婚約したのだ!
この話をエヴァにしたくてしたくてたまらなかった。彼女が起きる時間まで待ち遠しかった。今日は授業は休まなければならない。昨晩のうちに、メアリー・ウィンスレッドへはウォルターから「リサ・アン・ロベールベルクは一日実家に帰る必要ができた」と伝えられたはずだ。
朝食はヘンリード校の3期生の皆で食べた。私は馬番ジョージの指輪を指にはめてエヴァにこっそり見せた。
エヴァは大興奮して私に抱きついて祝福してくれた。
ジョージも食事の間にやってきたところ、私とジョージはエヴァにまた祝福された。エヴァは涙目で私たちを祝福するものだから、最後は馬番ジョージは恥ずかしがって逃げたくらいだ。クラスの皆にはまだ内緒にしようと決めていた。婚約の話をしたのはエヴァだけだ。エヴァは秘密を守るはずだ。
私は公爵家から持ってきたネックレスに指輪をつけて、ドレスの下に隠した。
そこから先はもはや小旅行だった。
朝食が終わると、私はウォルター・ローダン卿の手配した馬車に乗ってフォーチェスター城を出た。フォーチェスター城のロングウォークを馬車で進むのは初めての経験だ。りんごの木の花やライラックの花が真っ盛りの中を馬車はどんどん進んだ。
ウォルター・ローダン卿は御者一緒に御者台に座り、私と馬番ジョージは二人だけで馬車の中にいた。私たちは長いキスを交わした。
婚約したのだ。キスはできる。
ジョージは私の手を握り、くしゃくしゃの前髪の隙間から煌めく瞳をのぞかせて私を嬉しそうに見つめた。
私も舞い上がっていた。彼に恋をしていたから。
一緒に馬車に乗れるだけで胸が弾み、これからミカエルとリサに会うのだというのに、どうしようもなく心が浮き立った。
「気をつけて欲しい。君に何かがあったら俺は……」
何度目かの彼の忠告に私はキスで返した。彼の心配は分かるが、彼の口を塞ぐには私のキスしかなかった。私も彼にキスをしたかったのだから。
はちみつ色の壁の可愛らしい村が見えてくる頃には、私は彼に道中の村の説明をしていた。窓の外は、フォーチェスター城のあるどかな田園地帯から美しい森やカモや白鳥の泳ぐ川の流れるロベールベルク公爵領に近づいていた。
私がフォーチェスター城に向かった日から3日しか経っていないとは思えないほど、私の周りは変化したのに、風景は同じに見えた。
やがて我が家であるロベールベルク公爵家は見えてくると、木陰で待ち構えていたらしいルイと呼ばれる従者の身なりをした若い男性がこっそりと馬車に乗り込んできた。私はルイに会ったのは初めてだった。
「ルイ、今はリサは何をしている?」
「昨晩、ミカエルが訪ねてきていまして、まだ寝ています」
もうお昼近かった。それなのにリサはまだ私の部屋で寝ているということか。私は今のうちに公爵邸に戻ろう。フォーチェスター城に持ってきた服の中で一番華美なドレスを着ていたので、このまま入り口から歩いて入っても怪しまれないと私は判断した。
「では俺はここで待つが、ルイはフランと一緒に行ってくれるか」
「かしこまりました」
私は馬車から降りて、誰も見てないことを確かめると、そのまま公爵邸の入り口まで向かった。
「お嬢様、一体いつの間にお出かけで?」
門番は驚いた表情をしたが、私が「朝はやくに散歩に行ったのよ」と言うと門を開けてくれた。
そこにちょうどミカエルが訪ねてきた。
「おぉ、フラン!」
彼は頬を赤らめて、見たこともないほど瞳をきらめかせて私を見つめた。
「ちょっと君に会いたくてね。待ちきれなかった」
ミカエルは小声で私に身を寄せてささやいた。私は全身鳥肌が立っていた。彼に近づかれると、裏切り者の男に触れられたくなくて後退りたかった。だが、ここでバレてはいけない。
「そうなの。実は私もよ」
私はにこやかにミカエルに言って門番に会釈をして二人で中に入った。
チラリと目の端に馬車からジョージが降りてきたのが見えた。いても立ってもいられなくなったのだろう。
ミカエルは私の髪を撫でて私の瞳をのぞきこみ、微笑んだ。今にも私を抱きしめそうだ。
私は吐き気がした。彼は私の母を一度は誘拐したのだ。一度はうちの権利書を盗んだのだ。
私の顔が引き攣っていることに気づいたミカエルは、一瞬目を細めて私を見つめた。
――バレるわ。抱きつかなければ。
私はふわっと笑ってミカエルに抱きついた。
その瞬間、私は遠くで馬番ジョージが叫ぶ声を聞いた。
――ジョージったら、これは演技よ……
ルイが飛びかかってきた。私は熱いもので体を焼かれたような痛みを感じてうずくまった。
「えっ!?」
ミカエルも叫んだ。彼の服に赤いものが飛び散っている。
――誰の血……?
私は目の前が真っ暗になった。
何もかも失った、その時一瞬そう思った。
時間を戻したのに、土地だけでなく母だけでなく、自分の命も失ったのか。
真っ暗な中で確かにわたしはそう思った。
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