【完結】美人悪役公爵令嬢はループで婚約者の謀略に気づいて幸せになって、後悔させる

西野歌夏

文字の大きさ
上 下
37 / 71
第二章 恋

失う フランSide

しおりを挟む
 朝になって、私は幸せな気持ちで目覚めた。馬番ジョージに結婚の申し込みをされたのだ。

 その朝、何もかもが光り輝いて見えた。小さな部屋の小窓からフォーチェスター城の庭がよく見えた。朝靄がかかったような庭に朝日が煌めいて降りてきて、花々が美しく咲いている。窓の外から新鮮で芳しい空気が部屋に入り込んできた。

 私は馬番ジョージと婚約したのだ!

 この話をエヴァにしたくてしたくてたまらなかった。彼女が起きる時間まで待ち遠しかった。今日は授業は休まなければならない。昨晩のうちに、メアリー・ウィンスレッドへはウォルターから「リサ・アン・ロベールベルクは一日実家に帰る必要ができた」と伝えられたはずだ。

 朝食はヘンリード校の3期生の皆で食べた。私は馬番ジョージの指輪を指にはめてエヴァにこっそり見せた。

 エヴァは大興奮して私に抱きついて祝福してくれた。

 ジョージも食事の間にやってきたところ、私とジョージはエヴァにまた祝福された。エヴァは涙目で私たちを祝福するものだから、最後は馬番ジョージは恥ずかしがって逃げたくらいだ。クラスの皆にはまだ内緒にしようと決めていた。婚約の話をしたのはエヴァだけだ。エヴァは秘密を守るはずだ。

 私は公爵家から持ってきたネックレスに指輪をつけて、ドレスの下に隠した。

 そこから先はもはや小旅行だった。

 朝食が終わると、私はウォルター・ローダン卿の手配した馬車に乗ってフォーチェスター城を出た。フォーチェスター城のロングウォークを馬車で進むのは初めての経験だ。りんごの木の花やライラックの花が真っ盛りの中を馬車はどんどん進んだ。

 ウォルター・ローダン卿は御者一緒に御者台に座り、私と馬番ジョージは二人だけで馬車の中にいた。私たちは長いキスを交わした。

 婚約したのだ。キスはできる。

 ジョージは私の手を握り、くしゃくしゃの前髪の隙間から煌めく瞳をのぞかせて私を嬉しそうに見つめた。

 私も舞い上がっていた。彼に恋をしていたから。

 一緒に馬車に乗れるだけで胸が弾み、これからミカエルとリサに会うのだというのに、どうしようもなく心が浮き立った。

「気をつけて欲しい。君に何かがあったら俺は……」

 何度目かの彼の忠告に私はキスで返した。彼の心配は分かるが、彼の口を塞ぐには私のキスしかなかった。私も彼にキスをしたかったのだから。

 はちみつ色の壁の可愛らしい村が見えてくる頃には、私は彼に道中の村の説明をしていた。窓の外は、フォーチェスター城のあるどかな田園地帯から美しい森やカモや白鳥の泳ぐ川の流れるロベールベルク公爵領に近づいていた。

 
 私がフォーチェスター城に向かった日から3日しか経っていないとは思えないほど、私の周りは変化したのに、風景は同じに見えた。

 やがて我が家であるロベールベルク公爵家は見えてくると、木陰で待ち構えていたらしいルイと呼ばれる従者の身なりをした若い男性がこっそりと馬車に乗り込んできた。私はルイに会ったのは初めてだった。

「ルイ、今はリサは何をしている?」
「昨晩、ミカエルが訪ねてきていまして、まだ寝ています」

 もうお昼近かった。それなのにリサはまだ私の部屋で寝ているということか。私は今のうちに公爵邸に戻ろう。フォーチェスター城に持ってきた服の中で一番華美なドレスを着ていたので、このまま入り口から歩いて入っても怪しまれないと私は判断した。

「では俺はここで待つが、ルイはフランと一緒に行ってくれるか」
「かしこまりました」

 私は馬車から降りて、誰も見てないことを確かめると、そのまま公爵邸の入り口まで向かった。

「お嬢様、一体いつの間にお出かけで?」

 門番は驚いた表情をしたが、私が「朝はやくに散歩に行ったのよ」と言うと門を開けてくれた。

 そこにちょうどミカエルが訪ねてきた。

「おぉ、フラン!」

 彼は頬を赤らめて、見たこともないほど瞳をきらめかせて私を見つめた。

「ちょっと君に会いたくてね。待ちきれなかった」

 ミカエルは小声で私に身を寄せてささやいた。私は全身鳥肌が立っていた。彼に近づかれると、裏切り者の男に触れられたくなくて後退りたかった。だが、ここでバレてはいけない。


「そうなの。実は私もよ」

 私はにこやかにミカエルに言って門番に会釈をして二人で中に入った。

 チラリと目の端に馬車からジョージが降りてきたのが見えた。いても立ってもいられなくなったのだろう。

 ミカエルは私の髪を撫でて私の瞳をのぞきこみ、微笑んだ。今にも私を抱きしめそうだ。

 私は吐き気がした。彼は私の母を一度は誘拐したのだ。一度はうちの権利書を盗んだのだ。

 私の顔が引き攣っていることに気づいたミカエルは、一瞬目を細めて私を見つめた。

 
 ――バレるわ。抱きつかなければ。

 私はふわっと笑ってミカエルに抱きついた。

 その瞬間、私は遠くで馬番ジョージが叫ぶ声を聞いた。

 ――ジョージったら、これは演技よ……

 ルイが飛びかかってきた。私は熱いもので体を焼かれたような痛みを感じてうずくまった。

「えっ!?」

 ミカエルも叫んだ。彼の服に赤いものが飛び散っている。

 ――誰の血……?

 私は目の前が真っ暗になった。

 何もかも失った、その時一瞬そう思った。

 時間を戻したのに、土地だけでなく母だけでなく、自分の命も失ったのか。

 真っ暗な中で確かにわたしはそう思った。

 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

処理中です...