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第二章 恋
盗み見 ある一人の侍女Side※
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あぁっんっんっ
くぐもった声が聞こえる。フランお嬢様のお部屋からだ。そんなバカな……そんなバカなことがあるはずがない。
私は震える手で自分の部屋のドアをそっと開けた。廊下の先を見る。誰もいない。屋根裏の侍女の部屋からそっと階段をおりる。靴を脱いだ。素足で降りる。
お嬢さまは振られるはずなのだ。あの男には捨てられるはずだ。それなのに、一体誰がお嬢様をあんな風に乱れさせているのだろう?
あぁっあっあっん……いやぁんっ……っんっあぁっ
明らかに盛り上がっている。熱い情事の真っ最中だ。私はお嬢様の部屋の扉に耳をつけた。間違いない。お嬢様が奔放に乱れている。
お嬢様は一人でしている?
まさか……?一人ですることを覚えたの?
違う。誰か相手がいる。くぐもった男性の声がしている。男性の声はどこか嬉しそうだ。これは若い男性の声に思える。
お嬢様の部屋の家具の配置からすると、ベッドに二人がいて互いに夢中だとすると、扉側には視線は向いてはいないだろう。しかもお嬢様の嬌声では二人は大盛り上がりをしているのは間違いない。
私はドアをそっ開けた。音もなく。音もなく。
少しずつ少しずつドアを開けた。
目をこらす。ドアの隙間からそっと見つめた。ランプの暖かな色合いの明かりに照らされて浮かび上がったのは逞しく鍛え上げられた若い男性の裸身だ。後ろ姿で私の位置からは顔が見えない。
一体誰だろう?
お嬢様に愛をささやいているのは誰なのかしら?
男性の横顔が見えた。私の心臓が止まりそうだ。婚約者のミカエルだ。彼はお嬢様を愛しているの?
ミカエルはお嬢様の裸の胸を舐めて、指でお嬢様の大切な場所を愛撫してお嬢様を気持ちよくさせていた。お嬢様は大きく足を広げて胸を揺らして喘いでいる。
「大好きだよ、愛している、フラン」
ミカエルはお嬢様にささやいて熱烈な口付けをした。頬を赤く染め上げて恍惚の表情を二人ともしている。
私は息が止まりそうだった。息もせずにドアをそっと閉めた。人の情事を初めて見てしまった。
私は放心状態でドアもたれかかって床にへたり込んだ。だが、私の耳は別の音を聞きつけた。階下から誰かがそっと足音を忍ばせて上がってくる。
私は音もなく立ち上がり、そっと階上に上がった。階段の上からこっそりのぞいていた。
一体誰が足音を忍ばせてこんな夜更けに階段を上がってくるのだろう?
私は階上に身を伏せて、そっとその姿を見た。ルイという男だ。最近になって公爵家にやってきた若い従者だ。彼はドアに張り付いてやはり声を聞いている。
ルイという男には変態趣味があるのだろうか。
私はそのままそっと足音を忍ばせて自分の部屋に戻った。靴を脱いでいて本当に良かった。
ルイがハッとした顔で階上を見上げたのには気づかなかった。
ロベールベルク公爵邸の庭は幾何学模様に美しく刈り込んだ庭が星あかりでぼんやり浮かび上がって見えた。
何もかも寝静まっているように見えるこの屋敷で、私は計画がずれ始めていることを悟った。人の生死を左右する謀略が進行しているのに、主要人物が恋に落ちたようだ。
私の取らなければならない行動は一つだろう。夜が開けるのを待って知らせよう。
くぐもった声が聞こえる。フランお嬢様のお部屋からだ。そんなバカな……そんなバカなことがあるはずがない。
私は震える手で自分の部屋のドアをそっと開けた。廊下の先を見る。誰もいない。屋根裏の侍女の部屋からそっと階段をおりる。靴を脱いだ。素足で降りる。
お嬢さまは振られるはずなのだ。あの男には捨てられるはずだ。それなのに、一体誰がお嬢様をあんな風に乱れさせているのだろう?
あぁっあっあっん……いやぁんっ……っんっあぁっ
明らかに盛り上がっている。熱い情事の真っ最中だ。私はお嬢様の部屋の扉に耳をつけた。間違いない。お嬢様が奔放に乱れている。
お嬢様は一人でしている?
まさか……?一人ですることを覚えたの?
違う。誰か相手がいる。くぐもった男性の声がしている。男性の声はどこか嬉しそうだ。これは若い男性の声に思える。
お嬢様の部屋の家具の配置からすると、ベッドに二人がいて互いに夢中だとすると、扉側には視線は向いてはいないだろう。しかもお嬢様の嬌声では二人は大盛り上がりをしているのは間違いない。
私はドアをそっ開けた。音もなく。音もなく。
少しずつ少しずつドアを開けた。
目をこらす。ドアの隙間からそっと見つめた。ランプの暖かな色合いの明かりに照らされて浮かび上がったのは逞しく鍛え上げられた若い男性の裸身だ。後ろ姿で私の位置からは顔が見えない。
一体誰だろう?
お嬢様に愛をささやいているのは誰なのかしら?
男性の横顔が見えた。私の心臓が止まりそうだ。婚約者のミカエルだ。彼はお嬢様を愛しているの?
ミカエルはお嬢様の裸の胸を舐めて、指でお嬢様の大切な場所を愛撫してお嬢様を気持ちよくさせていた。お嬢様は大きく足を広げて胸を揺らして喘いでいる。
「大好きだよ、愛している、フラン」
ミカエルはお嬢様にささやいて熱烈な口付けをした。頬を赤く染め上げて恍惚の表情を二人ともしている。
私は息が止まりそうだった。息もせずにドアをそっと閉めた。人の情事を初めて見てしまった。
私は放心状態でドアもたれかかって床にへたり込んだ。だが、私の耳は別の音を聞きつけた。階下から誰かがそっと足音を忍ばせて上がってくる。
私は音もなく立ち上がり、そっと階上に上がった。階段の上からこっそりのぞいていた。
一体誰が足音を忍ばせてこんな夜更けに階段を上がってくるのだろう?
私は階上に身を伏せて、そっとその姿を見た。ルイという男だ。最近になって公爵家にやってきた若い従者だ。彼はドアに張り付いてやはり声を聞いている。
ルイという男には変態趣味があるのだろうか。
私はそのままそっと足音を忍ばせて自分の部屋に戻った。靴を脱いでいて本当に良かった。
ルイがハッとした顔で階上を見上げたのには気づかなかった。
ロベールベルク公爵邸の庭は幾何学模様に美しく刈り込んだ庭が星あかりでぼんやり浮かび上がって見えた。
何もかも寝静まっているように見えるこの屋敷で、私は計画がずれ始めていることを悟った。人の生死を左右する謀略が進行しているのに、主要人物が恋に落ちたようだ。
私の取らなければならない行動は一つだろう。夜が開けるのを待って知らせよう。
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