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第二章 恋
赤い鷲 王子Side
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「素敵よ、エヴァ!」
ヘンリード校の3期生は無事に2日目を迎えていた。朝食の席で皆元気な顔を見せて、フォーチェスター城のシェフが作った食事に舌鼓を打った。今は浮遊術のクラスだ。
エヴァとフランが組んで浮遊術の練習をしている。フランの浮遊術は絶望的だ。エヴァは椅子を浮かせることができるらしく、フランにやって見せてくれていた。フランは手を叩いてエヴァを褒め称えている。
俺は窓の外を見ながら、フォーチェスター城のリンゴの花を風で巻き上げるのを繰り返していた。風が吹いていない日なのに、リンゴの白い花のついた枝だけが大きく揺れているのはそういう理由だ。
「ジョージ?」
メアリー・ウィンスレッドは怖い声音で俺に注意した。
「はい」
「授業に集中しなさいっ!」
「申し訳ありません。集中します」
俺が謝罪するとメアリー・ウィンスレッドはうなずいて俺から離れた。俺はほっとして、目の前のフランにリンゴの花の枝をプレゼントした。
「どうしたの?」
フランは小声で聞いていたが、すぐに俺がやったことを理解したようだ。
「授業中にやってはダメでしょう。でも、ジョージありがとう」
どこがワガママ令嬢と言われていた所以なのかよく分からないが、俺にはとても素直な令嬢に見えた。今日もロベールベルク公爵家から持ってきたらしいドレスを着ているので、華美ではないものの品の良い佇まいで、メアリーの目を盗んでは、羊皮紙を自分の口から出す空気で噴き上げることで浮遊術を誤魔化そうとしていた。
ほっぺを丸く膨らます仕草が可愛くてたまらない。
――あぁ、認めよう。俺はフランが可愛いと今思った。だからリンゴの花をフランにあげたんだ。
俺は目の前の羊皮紙をクイっクイっと空気中を動かしながら、自分がフランに惹かれていることを素直に認めた。
素直にならなければならない。
強国スルエラは赤艦船編隊と称して、海外の国に艦隊で攻め入ることを繰り返していた。赤い鷲はスルエラのシンボルであり、赤艦船と呼ばれるのは、艦隊の帆に赤い大きな鷲が描かれていることからだ。赤艦船に対する対抗策として、女王は自国の艦隊の再構成をするのみならず、強力な力を有する者を保護下に置こうとしていた。
強国スルエラは、我が国の特殊な能力を有する者たちを拉致してスルエラ側に引き入れようとしていたことが発覚した。貿易で財を成す大国ジークベインリードハルトのような国ばかりが俺の母である女王陛下の外交相手ではない。
強国スルエラが我が国を狙っていることに神経を尖らせる必要があった。海上の覇権をどう握るか。そこで、母の執念で実現した特殊集団の育成の登場となる。フォーチェスター城に設置されたヘンリード校はその一旦を担うものだ。
海賊、超能力者、もしくは魔女。
母は赤い鷲を蹴散らすための艦隊を作った。乗組員が特殊な者ばかりで占められていた。それは国家公然の秘密だった。
昨晩湯から上がると、ロベール公爵邸に忍びこませたルイからの伝書鳩が届いていた。
伝書鳩の紙には一言だけ書いてあった。
『リサ、無事に溶け込む』
「よくやった」
俺は昨晩は一人言をつぶやいてうなずいた。今、目の前にいるフランに教えたいがそういうわけには行かない。
これで一応、入れ替わりは順調だということになる。
フランの祖父の初代ロベールベルク公爵であるフォード・ロベールベルクは追い剥ぎまがいのことをして国内の戦争で放出された領地を手中に収めた。最初の大国ジークベインリードハルトの皇太子の難破船を見つけた時、彼は貿易船という名の海賊船に乗り込んでいたという逸話が残っているくらいだ。フォードの息子であるクリス・ロン・ロベールベルクは温厚な人柄ながら、母に海上の覇権を握るためのあるアドバイスをしたと言われる。それが、自分の父が当初何をしてチャンスを掴んだか、正確に事実を知っている者だけが言えることだっただろう。
また、ロベールベルク侯爵夫人の作り出す薬を喉から出るほど赤い鷲は欲しがった。公爵夫人はもちろん拒否していた。自分の夫の失踪は赤い鷲の仕業だと見破っていた感が夫人にはあった。
赤い鷲はロベールベルク公爵家の森を手に入れて、公爵夫人を手に入れたら、フランには手を出さないと思われていた。婚約者であるミカエルが騙し取ってフランを困窮に追い込んだとしても、そのことがバレずにフランが騙されてくれれば。もしくは、バレてもフランなら一握りで踏み潰せると赤い鷲は思っているのだろう。
赤い鷲は特殊能力を有しないフランには興味を示さないはずだ。
フランが特殊能力を持っているとバレない限り安全だろう。リサは危ない。彼女はミカエルを邪魔しようとしている。バレたら非常に危険だし、リサの能力については喉から手が出るほど赤い鷲は欲しがるだろう。
「フラン!?」
どうやらまたフランが浮遊術を誤魔化そうとしていることが、メアリー・ウィンスレッドにバレたようだ。
「ごめんなさい」
「集中して練習なさい!あなたの薬草学はとてつもなく優秀と聞きましたが、時間術と薬草学だけで良いわけではありません!」
「はい、わかりました」
メアリー・ウィンスレッドは恰幅の良い体でフランの目の前に陣取り、腕組みをして彼女が真面目に練習するかを見張ることに決めたようだ。
フランはため息をついて、目の前の羊皮紙に集中しようとしていた。
ヘンリード校の2日目もまあ順調と言えよう。
今日はヘンリード校の生徒にも湯が準備されるはずだ。ここは母の庇護の元、快適な場所のはずだった。
ヘンリード校の3期生は無事に2日目を迎えていた。朝食の席で皆元気な顔を見せて、フォーチェスター城のシェフが作った食事に舌鼓を打った。今は浮遊術のクラスだ。
エヴァとフランが組んで浮遊術の練習をしている。フランの浮遊術は絶望的だ。エヴァは椅子を浮かせることができるらしく、フランにやって見せてくれていた。フランは手を叩いてエヴァを褒め称えている。
俺は窓の外を見ながら、フォーチェスター城のリンゴの花を風で巻き上げるのを繰り返していた。風が吹いていない日なのに、リンゴの白い花のついた枝だけが大きく揺れているのはそういう理由だ。
「ジョージ?」
メアリー・ウィンスレッドは怖い声音で俺に注意した。
「はい」
「授業に集中しなさいっ!」
「申し訳ありません。集中します」
俺が謝罪するとメアリー・ウィンスレッドはうなずいて俺から離れた。俺はほっとして、目の前のフランにリンゴの花の枝をプレゼントした。
「どうしたの?」
フランは小声で聞いていたが、すぐに俺がやったことを理解したようだ。
「授業中にやってはダメでしょう。でも、ジョージありがとう」
どこがワガママ令嬢と言われていた所以なのかよく分からないが、俺にはとても素直な令嬢に見えた。今日もロベールベルク公爵家から持ってきたらしいドレスを着ているので、華美ではないものの品の良い佇まいで、メアリーの目を盗んでは、羊皮紙を自分の口から出す空気で噴き上げることで浮遊術を誤魔化そうとしていた。
ほっぺを丸く膨らます仕草が可愛くてたまらない。
――あぁ、認めよう。俺はフランが可愛いと今思った。だからリンゴの花をフランにあげたんだ。
俺は目の前の羊皮紙をクイっクイっと空気中を動かしながら、自分がフランに惹かれていることを素直に認めた。
素直にならなければならない。
強国スルエラは赤艦船編隊と称して、海外の国に艦隊で攻め入ることを繰り返していた。赤い鷲はスルエラのシンボルであり、赤艦船と呼ばれるのは、艦隊の帆に赤い大きな鷲が描かれていることからだ。赤艦船に対する対抗策として、女王は自国の艦隊の再構成をするのみならず、強力な力を有する者を保護下に置こうとしていた。
強国スルエラは、我が国の特殊な能力を有する者たちを拉致してスルエラ側に引き入れようとしていたことが発覚した。貿易で財を成す大国ジークベインリードハルトのような国ばかりが俺の母である女王陛下の外交相手ではない。
強国スルエラが我が国を狙っていることに神経を尖らせる必要があった。海上の覇権をどう握るか。そこで、母の執念で実現した特殊集団の育成の登場となる。フォーチェスター城に設置されたヘンリード校はその一旦を担うものだ。
海賊、超能力者、もしくは魔女。
母は赤い鷲を蹴散らすための艦隊を作った。乗組員が特殊な者ばかりで占められていた。それは国家公然の秘密だった。
昨晩湯から上がると、ロベール公爵邸に忍びこませたルイからの伝書鳩が届いていた。
伝書鳩の紙には一言だけ書いてあった。
『リサ、無事に溶け込む』
「よくやった」
俺は昨晩は一人言をつぶやいてうなずいた。今、目の前にいるフランに教えたいがそういうわけには行かない。
これで一応、入れ替わりは順調だということになる。
フランの祖父の初代ロベールベルク公爵であるフォード・ロベールベルクは追い剥ぎまがいのことをして国内の戦争で放出された領地を手中に収めた。最初の大国ジークベインリードハルトの皇太子の難破船を見つけた時、彼は貿易船という名の海賊船に乗り込んでいたという逸話が残っているくらいだ。フォードの息子であるクリス・ロン・ロベールベルクは温厚な人柄ながら、母に海上の覇権を握るためのあるアドバイスをしたと言われる。それが、自分の父が当初何をしてチャンスを掴んだか、正確に事実を知っている者だけが言えることだっただろう。
また、ロベールベルク侯爵夫人の作り出す薬を喉から出るほど赤い鷲は欲しがった。公爵夫人はもちろん拒否していた。自分の夫の失踪は赤い鷲の仕業だと見破っていた感が夫人にはあった。
赤い鷲はロベールベルク公爵家の森を手に入れて、公爵夫人を手に入れたら、フランには手を出さないと思われていた。婚約者であるミカエルが騙し取ってフランを困窮に追い込んだとしても、そのことがバレずにフランが騙されてくれれば。もしくは、バレてもフランなら一握りで踏み潰せると赤い鷲は思っているのだろう。
赤い鷲は特殊能力を有しないフランには興味を示さないはずだ。
フランが特殊能力を持っているとバレない限り安全だろう。リサは危ない。彼女はミカエルを邪魔しようとしている。バレたら非常に危険だし、リサの能力については喉から手が出るほど赤い鷲は欲しがるだろう。
「フラン!?」
どうやらまたフランが浮遊術を誤魔化そうとしていることが、メアリー・ウィンスレッドにバレたようだ。
「ごめんなさい」
「集中して練習なさい!あなたの薬草学はとてつもなく優秀と聞きましたが、時間術と薬草学だけで良いわけではありません!」
「はい、わかりました」
メアリー・ウィンスレッドは恰幅の良い体でフランの目の前に陣取り、腕組みをして彼女が真面目に練習するかを見張ることに決めたようだ。
フランはため息をついて、目の前の羊皮紙に集中しようとしていた。
ヘンリード校の2日目もまあ順調と言えよう。
今日はヘンリード校の生徒にも湯が準備されるはずだ。ここは母の庇護の元、快適な場所のはずだった。
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