【完結】美人悪役公爵令嬢はループで婚約者の謀略に気づいて幸せになって、後悔させる

西野歌夏

文字の大きさ
上 下
28 / 71
第二章 恋

赤い鷲 王子Side

しおりを挟む
「素敵よ、エヴァ!」

 ヘンリード校の3期生は無事に2日目を迎えていた。朝食の席で皆元気な顔を見せて、フォーチェスター城のシェフが作った食事に舌鼓を打った。今は浮遊術のクラスだ。

 エヴァとフランが組んで浮遊術の練習をしている。フランの浮遊術は絶望的だ。エヴァは椅子を浮かせることができるらしく、フランにやって見せてくれていた。フランは手を叩いてエヴァを褒め称えている。

 俺は窓の外を見ながら、フォーチェスター城のリンゴの花を風で巻き上げるのを繰り返していた。風が吹いていない日なのに、リンゴの白い花のついた枝だけが大きく揺れているのはそういう理由だ。

「ジョージ?」

 メアリー・ウィンスレッドは怖い声音で俺に注意した。

「はい」
「授業に集中しなさいっ!」

「申し訳ありません。集中します」

 俺が謝罪するとメアリー・ウィンスレッドはうなずいて俺から離れた。俺はほっとして、目の前のフランにリンゴの花の枝をプレゼントした。

「どうしたの?」

 フランは小声で聞いていたが、すぐに俺がやったことを理解したようだ。

「授業中にやってはダメでしょう。でも、ジョージありがとう」

 どこがワガママ令嬢と言われていた所以なのかよく分からないが、俺にはとても素直な令嬢に見えた。今日もロベールベルク公爵家から持ってきたらしいドレスを着ているので、華美ではないものの品の良い佇まいで、メアリーの目を盗んでは、羊皮紙を自分の口から出す空気で噴き上げることで浮遊術を誤魔化そうとしていた。

 ほっぺを丸く膨らます仕草が可愛くてたまらない。

 ――あぁ、認めよう。俺はフランが可愛いと今思った。だからリンゴの花をフランにあげたんだ。
 
 俺は目の前の羊皮紙をクイっクイっと空気中を動かしながら、自分がフランに惹かれていることを素直に認めた。

 素直にならなければならない。

 強国スルエラは赤艦船編隊と称して、海外の国に艦隊で攻め入ることを繰り返していた。赤い鷲はスルエラのシンボルであり、赤艦船と呼ばれるのは、艦隊の帆に赤い大きな鷲が描かれていることからだ。赤艦船に対する対抗策として、女王は自国の艦隊の再構成をするのみならず、強力な力を有する者を保護下に置こうとしていた。

 強国スルエラは、我が国の特殊な能力を有する者たちを拉致してスルエラ側に引き入れようとしていたことが発覚した。貿易で財を成す大国ジークベインリードハルトのような国ばかりが俺の母である女王陛下の外交相手ではない。
 
 強国スルエラが我が国を狙っていることに神経を尖らせる必要があった。海上の覇権をどう握るか。そこで、母の執念で実現した特殊集団の育成の登場となる。フォーチェスター城に設置されたヘンリード校はその一旦を担うものだ。

 海賊、超能力者、もしくは魔女。

 母は赤い鷲を蹴散らすための艦隊を作った。乗組員が特殊な者ばかりで占められていた。それは国家公然の秘密だった。

 昨晩湯から上がると、ロベール公爵邸に忍びこませたルイからの伝書鳩が届いていた。

 伝書鳩の紙には一言だけ書いてあった。

『リサ、無事に溶け込む』

「よくやった」

 俺は昨晩は一人言をつぶやいてうなずいた。今、目の前にいるフランに教えたいがそういうわけには行かない。

 これで一応、入れ替わりは順調だということになる。

 フランの祖父の初代ロベールベルク公爵であるフォード・ロベールベルクは追い剥ぎまがいのことをして国内の戦争で放出された領地を手中に収めた。最初の大国ジークベインリードハルトの皇太子の難破船を見つけた時、彼は貿易船という名の海賊船に乗り込んでいたという逸話が残っているくらいだ。フォードの息子であるクリス・ロン・ロベールベルクは温厚な人柄ながら、母に海上の覇権を握るためのあるアドバイスをしたと言われる。それが、自分の父が当初何をしてチャンスを掴んだか、正確に事実を知っている者だけが言えることだっただろう。

 また、ロベールベルク侯爵夫人の作り出す薬を喉から出るほど赤い鷲は欲しがった。公爵夫人はもちろん拒否していた。自分の夫の失踪は赤い鷲の仕業だと見破っていた感が夫人にはあった。

 赤い鷲はロベールベルク公爵家の森を手に入れて、公爵夫人を手に入れたら、フランには手を出さないと思われていた。婚約者であるミカエルが騙し取ってフランを困窮に追い込んだとしても、そのことがバレずにフランが騙されてくれれば。もしくは、バレてもフランなら一握りで踏み潰せると赤い鷲は思っているのだろう。

 赤い鷲は特殊能力を有しないフランには興味を示さないはずだ。

 フランが特殊能力を持っているとバレない限り安全だろう。リサは危ない。彼女はミカエルを邪魔しようとしている。バレたら非常に危険だし、リサの能力については喉から手が出るほど赤い鷲は欲しがるだろう。

「フラン!?」

 どうやらまたフランが浮遊術を誤魔化そうとしていることが、メアリー・ウィンスレッドにバレたようだ。

「ごめんなさい」
「集中して練習なさい!あなたの薬草学はとてつもなく優秀と聞きましたが、時間術と薬草学だけで良いわけではありません!」

「はい、わかりました」

 メアリー・ウィンスレッドは恰幅の良い体でフランの目の前に陣取り、腕組みをして彼女が真面目に練習するかを見張ることに決めたようだ。

 フランはため息をついて、目の前の羊皮紙に集中しようとしていた。

 ヘンリード校の2日目もまあ順調と言えよう。
 今日はヘンリード校の生徒にも湯が準備されるはずだ。ここは母の庇護の元、快適な場所のはずだった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

処理中です...