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第二章 恋
謀略の背景 王子Side
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気づけば母は幸運な人だった。俺は部屋に戻ってから湯につかってさっぱりして、窓から月を眺めていた。月は真新しくぴかぴかに光って見える月だった。
女王となった母は国が宗教で分裂するのを避けるために、ローマとは別に我が国だけの宗教議会を確立しようとした。神帝国の大帝は母にはいたく寛容だった。大帝も不思議な縁で戴冠した経緯があり、抗えぬ運命を持つ点では母と一致していたからだろうか。神帝国の大帝と母はなぜか非常に気が合った。
母が戴冠してからは宗教に関する争いは沈静化した。おかげで母は自国の経済に集中できるようになった。
「戦争は真っ平だわ」
これが昔から母の口癖だった。母は不思議で皮肉な巡り合わせで女王となってからは、それを体現しようとしていた。
ロベールベルク公爵の父親であるフォード・ロベールベルクは我が国最大の商人といわれた人物だ。元々が特殊な能力を有する家系だったものの、フォード自身は一介の貿易を営む商人に過ぎなかった。
結果的に、フォード・ロベールベルクの生涯は一介の貿易商では終わらなかった。大国ジークベインリードハルトの皇太子とその妃が新婚の船旅をしていた際、我が国の沿岸で難破した。救助された彼らの面倒を見たのが、既に豊かな財力を成していた貿易商のフォード・ロベールベルクだったのだ。
大国ジークベインリードハルトには世界最大の商家と言われるロレード家がある。ロレード家はどちらかと言うと金融業者として台頭してきていた。銅山、銀山、金山を中心に材を成しつつある彼らは世界中の貿易に幅を利かせていた。我が国のフォード・ロベールベルクはそんなロレード家と繋がりがあった。
フォード・ロベールベルクはジークベインリードハルトのロレード家と一緒に交易をする関係上、ジークベインリードハルトの言葉に通じており、巧みに言葉を操った。また彼ら富裕層の好みを熟知していた。
難波した皇太子と妃を助けたことで、ジークベインリードハルトの皇帝から感謝された我が王朝は、フォード・ロベールベルクを宮廷官に取りたてた。さらにフォードは戦争にも積極的に参加し、ナイトの称号を授けられ、いつの間にか枢密顧問官まで上り詰めた。
やがて男爵に叙され、俺の母が戴冠する前に盛んだった国内の宗教戦争の余波を受けて放出された領地を次から次に奪って自分の領地にした。さらに伯爵に叙され、気づけばあれよあれよという間に公爵に叙されていた。
元々豊かだったロベールベルク家だったが、このフォードの立身出世によって激変した。土地も森も元々持っていたが、著しくも華々しい領地の拡大を実現したのだ。
フォードの息子であるクリス・ロン・ロベールベルクは、父親ほどの才覚を持ち合わせていなかったものの、温厚な人物として知られ、領地でも慕われる人物だった。彼はうまくやっていた。彼に敵がいるとは思えなかったというのが母の見解だった。だが、女王である私の母に対する彼の提案には、誰かを怒らせるものがあったようだ。
母が戴冠して間もなくのこと。彼が失踪したのだ。ある春の夜を堺に、フランの父親であるクリス・ロン・ロベールベルクは失踪したのだ。
フォード・ロベールベルクの才覚は先読み能力に基づいていたと言われており、強烈な予知能力を有していたという。息子であるクリスの魔力はそれとは少し違っていたらしい。俺の母もどういったものかはよくら知らないらしい。
我が国としては魔力のある者を擁護すると母が決めてから、クリスの行方は長年、多くの人手を費やして国が探していたところだった。
そんな中、次のターゲットは、おそらくロベールベルク侯爵夫人ではないかという囁を母は聞きつけた。クリス・ロン・ロベールベルクの娘であるリサの存在はクリスの行方を追う中で偶然発見されたものだった。リサには確かに大きな魔力があった。
ロベールベルク公爵家は、フォードが強烈な立身出世を成し遂げる段階で買った恨みと、我が女王陛下の失墜を狙った他国の野望が密接に絡んだ陰謀によって、失墜間際にあった。
フランの婚約者であるミカエルの本名は、ミカエル・チェニール・コンフォーだ。
彼は自分の身分を偽ってフランに接近していた。彼はスルエラの者だ。ミカエルはロベールベルク公爵家の森と公爵夫人の魔力を狙っていた。
月明かりに輝くフランは美しかった。俺は一緒に星を見ている時も、本当のことは話せなかった。
知ってしまえば、きっとフランの命も脅かされるだろうから。
女王となった母は国が宗教で分裂するのを避けるために、ローマとは別に我が国だけの宗教議会を確立しようとした。神帝国の大帝は母にはいたく寛容だった。大帝も不思議な縁で戴冠した経緯があり、抗えぬ運命を持つ点では母と一致していたからだろうか。神帝国の大帝と母はなぜか非常に気が合った。
母が戴冠してからは宗教に関する争いは沈静化した。おかげで母は自国の経済に集中できるようになった。
「戦争は真っ平だわ」
これが昔から母の口癖だった。母は不思議で皮肉な巡り合わせで女王となってからは、それを体現しようとしていた。
ロベールベルク公爵の父親であるフォード・ロベールベルクは我が国最大の商人といわれた人物だ。元々が特殊な能力を有する家系だったものの、フォード自身は一介の貿易を営む商人に過ぎなかった。
結果的に、フォード・ロベールベルクの生涯は一介の貿易商では終わらなかった。大国ジークベインリードハルトの皇太子とその妃が新婚の船旅をしていた際、我が国の沿岸で難破した。救助された彼らの面倒を見たのが、既に豊かな財力を成していた貿易商のフォード・ロベールベルクだったのだ。
大国ジークベインリードハルトには世界最大の商家と言われるロレード家がある。ロレード家はどちらかと言うと金融業者として台頭してきていた。銅山、銀山、金山を中心に材を成しつつある彼らは世界中の貿易に幅を利かせていた。我が国のフォード・ロベールベルクはそんなロレード家と繋がりがあった。
フォード・ロベールベルクはジークベインリードハルトのロレード家と一緒に交易をする関係上、ジークベインリードハルトの言葉に通じており、巧みに言葉を操った。また彼ら富裕層の好みを熟知していた。
難波した皇太子と妃を助けたことで、ジークベインリードハルトの皇帝から感謝された我が王朝は、フォード・ロベールベルクを宮廷官に取りたてた。さらにフォードは戦争にも積極的に参加し、ナイトの称号を授けられ、いつの間にか枢密顧問官まで上り詰めた。
やがて男爵に叙され、俺の母が戴冠する前に盛んだった国内の宗教戦争の余波を受けて放出された領地を次から次に奪って自分の領地にした。さらに伯爵に叙され、気づけばあれよあれよという間に公爵に叙されていた。
元々豊かだったロベールベルク家だったが、このフォードの立身出世によって激変した。土地も森も元々持っていたが、著しくも華々しい領地の拡大を実現したのだ。
フォードの息子であるクリス・ロン・ロベールベルクは、父親ほどの才覚を持ち合わせていなかったものの、温厚な人物として知られ、領地でも慕われる人物だった。彼はうまくやっていた。彼に敵がいるとは思えなかったというのが母の見解だった。だが、女王である私の母に対する彼の提案には、誰かを怒らせるものがあったようだ。
母が戴冠して間もなくのこと。彼が失踪したのだ。ある春の夜を堺に、フランの父親であるクリス・ロン・ロベールベルクは失踪したのだ。
フォード・ロベールベルクの才覚は先読み能力に基づいていたと言われており、強烈な予知能力を有していたという。息子であるクリスの魔力はそれとは少し違っていたらしい。俺の母もどういったものかはよくら知らないらしい。
我が国としては魔力のある者を擁護すると母が決めてから、クリスの行方は長年、多くの人手を費やして国が探していたところだった。
そんな中、次のターゲットは、おそらくロベールベルク侯爵夫人ではないかという囁を母は聞きつけた。クリス・ロン・ロベールベルクの娘であるリサの存在はクリスの行方を追う中で偶然発見されたものだった。リサには確かに大きな魔力があった。
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彼は自分の身分を偽ってフランに接近していた。彼はスルエラの者だ。ミカエルはロベールベルク公爵家の森と公爵夫人の魔力を狙っていた。
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