上 下
19 / 71
第一章 破綻と出会い フランと王子Side

褐色のパンと馬番の彼 フランSide

しおりを挟む
 食事が終わると、私たちは暗くなってきた庭を歩こうと誰かが言い出した声に賛同して、一番星を見ながらフォーチェスター城の庭を散策することにした。

 若い侍女が食事の間に戻ってきて私たちに告げた。

「消灯時間は決まっていますから、散歩するにしても早めに切り上げてくださいね」

 私たちはうなずき、誰からともなく、一人で片付けるために立っていた給仕の彼のために空いた皿をまとめ始めた。貧しい家の若者は、こういったことが自然と身についているようだ。私も彼らの動きに従った。今はリサなのだから、私も同じことをするのだ。

「あなた、名前は?私はリサよ」
「僕はリックだ。片付けを手伝ってくれてありがとう」
「リック、よろしくね」

 私は給仕の彼と穏やかに言葉を交わした。彼は私と年齢が変わらないように見えた。あとで、若い侍女の名前も聞いておこう。

「リサ、ちょっといいか?」

 片付けが終わって、皆で一旦部屋に戻ってから散歩に行こうと話しながら廊下を歩いていると、馬番の彼に声をかけられた。

 
 私はビクッとした。彼は私が誤魔化しているのではないかと勘づいた人だ。

 私はびくびくしながら彼に連れられて、皆から離れた。廊下の窓から空に一番星が見えた。

「あのさ、君の魔力なんだが……「このパン、固いけれど美味しいわよっあなたもどうぞ」ふぁっ!?」

 私は咄嗟にハンカチに包んださっきの褐色のパンを彼の口に押し込んだ。パンをかじらされた彼は驚いている。

 ゴージャスな長めのブロンドヘアにくしゃくしゃの前髪からのぞく、魅惑的な青い瞳の彼がパンをくわえてキョトンとした姿に、私は笑いが込み上げてきたが、彼にそれ以上、私の本当の素性について話させるわけにはいかない。

 彼が言うように、私は皆に対して自分を誤魔化している。

「では散歩に行くので失礼しますね。そのパン、生まれて初めて食べたけれど、さいっこーに美味しいと思ったのよ!あなたもおひとつどうぞ」

 私はそれだけささやくように言うと、一目散に廊下を走って部屋に戻る皆の集団に戻った。

 心臓はドキドキと早鐘のように打っていた。それは、彼にときめいたからではなく、きっと彼が私の正体に気づきそうだったからだと思うことにした。



 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】「財産目当てに子爵令嬢と白い結婚をした侯爵、散々虐めていた相手が子爵令嬢に化けた魔女だと分かり破滅する〜」

まほりろ
恋愛
【完結済み】 若き侯爵ビリーは子爵家の財産に目をつけた。侯爵は子爵家に圧力をかけ、子爵令嬢のエミリーを強引に娶(めと)った。 侯爵家に嫁いだエミリーは、侯爵家の使用人から冷たい目で見られ、酷い仕打ちを受ける。 侯爵家には居候の少女ローザがいて、当主のビリーと居候のローザは愛し合っていた。 使用人達にお金の力で二人の愛を引き裂いた悪女だと思われたエミリーは、使用人から酷い虐めを受ける。 侯爵も侯爵の母親も居候のローザも、エミリーに嫌がれせをして楽しんでいた。 侯爵家の人間は知らなかった、腐ったスープを食べさせ、バケツの水をかけ、ドレスを切り裂き、散々嫌がらせをした少女がエミリーに化けて侯爵家に嫁いできた世界最強の魔女だと言うことを……。 魔女が正体を明かすとき侯爵家は地獄と化す。 全26話、約25,000文字、完結済み。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 他サイトにもアップしてます。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 第15回恋愛小説大賞にエントリーしてます。よろしくお願いします。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

処理中です...