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第一章 破綻と出会い フランと王子Side
幸せな安堵とライラックの香り フランSide
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「うむ、もうこんな時間か。今日の薬草学はおしまいだ。夕食の時間まではしばらく休憩だ。部屋に戻って休むように」
バロン教授はそう言うと、いそいそと教室を出て行った。
「女王陛下にすぐに報告せねば……」
教授がそうぶつぶつ呟く声がして、私は息が止まりそうになった。
――リサでないことがバレないかしら?
「ありがとう」
私は馬番の彼に耳元でささやかれて、飛び上がりそうになった。でも、彼の姿はどこにもなかった。教室から出て行ったらしい。また、彼が特別な力を使って声に出さずに私にささやいたらしい。
私は空っぽになった皿とすり鉢を母が調合室でしていたように片付けて、目を潤ませて私を見つめるエヴァと一緒に部屋に戻った。皆が私に感謝の言葉を告げて、興奮状態で後をついてきて、私とエヴァが通るべき廊下を間違えそうになるたびに正しい方向を教えてくれた。
途中で最初に部屋に案内してくれた侍女が合流してくれて、私は自分の部屋にやっとの思いでたどり着いた。そして一人で部屋に入ると硬いベッドに崩れるように横になったのだ。
なんとかなった。
でも、不思議な事が起きた。私が作った薬が皆の傷をあっという間に消した。私は放心状態で狭い小さな部屋の硬いベッドで天井を見つめていた。
――だいじょうぶよ。能力がないことがバレなかった。今日は少なくとも追い出されることはなさそうだわ。
窓の外からライラックの花の香りが小さな部屋まで入ってきて、私を幸せな安堵と共にふんわり包んだ。
バロン教授はそう言うと、いそいそと教室を出て行った。
「女王陛下にすぐに報告せねば……」
教授がそうぶつぶつ呟く声がして、私は息が止まりそうになった。
――リサでないことがバレないかしら?
「ありがとう」
私は馬番の彼に耳元でささやかれて、飛び上がりそうになった。でも、彼の姿はどこにもなかった。教室から出て行ったらしい。また、彼が特別な力を使って声に出さずに私にささやいたらしい。
私は空っぽになった皿とすり鉢を母が調合室でしていたように片付けて、目を潤ませて私を見つめるエヴァと一緒に部屋に戻った。皆が私に感謝の言葉を告げて、興奮状態で後をついてきて、私とエヴァが通るべき廊下を間違えそうになるたびに正しい方向を教えてくれた。
途中で最初に部屋に案内してくれた侍女が合流してくれて、私は自分の部屋にやっとの思いでたどり着いた。そして一人で部屋に入ると硬いベッドに崩れるように横になったのだ。
なんとかなった。
でも、不思議な事が起きた。私が作った薬が皆の傷をあっという間に消した。私は放心状態で狭い小さな部屋の硬いベッドで天井を見つめていた。
――だいじょうぶよ。能力がないことがバレなかった。今日は少なくとも追い出されることはなさそうだわ。
窓の外からライラックの花の香りが小さな部屋まで入ってきて、私を幸せな安堵と共にふんわり包んだ。
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