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第一章 破綻と出会い フランと王子Side

ときめき 王子Side

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◆◆◆

「公爵邸の動きはどうか」

「王子、なんとかうまく潜り込んだようです。誰にも気づかれていません」
「そうか」

 俺はうなずいた。

「ルイならうまくやるだろう。だが、権利書が消えた事にいつ気づくかだな」
「はい、気づかれたらおそらく追ってくるでしょうね」
「そうなったら至急知らせろ。授業中でも構わない」

「かしこまりました」

 俺は遠くに見え隠れするフラン・マルガレーテ・ロベールベルクの後ろ姿をチラッと見て、ウォルター・ローダン卿にうなずくと、すぐさま薬草学の教室に移動する他の生徒の群れを足早に追いかけた。

 フランは奇妙なことに、どうも俺のことを馬番と勘違いしたようだ。世間知らずのワガママな公爵令嬢と聞いていたが、歴史の授業は完璧だった。一般的な勉強はかなりのレベルまでやりこんだらしい。ただ、浮遊術で息を吹きかけて自力で飛ばそうとする彼女の姿は傑作だった。頬を大きく膨らませて必死に宙に羊皮紙を飛ばそうとする彼女の姿には、危うく腹を抱えて笑ってしまうところだった。

 ――すぐに根を上げないところは、実は良い根性だと言える。しばらく様子を見るか。

 俺は薬草学でフランが何をしでかすのかと少し期待している自分に気づいたが、行動が読めない者をからかうのは非常に面白いからと自分に言い聞かせた。決して彼女に興味があるからではないっ!

 ――無造作に伸びまくった髪の毛に母上はまたイライラするだろう。だが、この姿はしばらくやめられないな。

 前髪がくしゃくしゃで粗野な態度をとっていると、ここでは誰も自分のことを王子だと気づかないと知った。俺はフォーチェスター城にいる間はこの姿で行こうと決めたのだ。

 ――馬番で結構、結構。

「遅いっ!」

 教室に入るなり、バロン教授に怒鳴りつけられたが、俺はニヤッとして「失礼」と謝ると、空いている席を探して座った。偶然にもフランの隣が空いていて、俺はそこに座った。

 フランはひどく緊張した面持ちで、どこか1点を見つめていた。自分の記憶の中の何かを必死で見つめているようだ。

 ――さあて、お手なみ拝見と行くか。今度は何をやらかして、彼女は誤魔化そうとするだろう?

 俺は隣の席で深呼吸をした彼女が立ち上がった様子を、何食わぬ顔で横目で見ていた。


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