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初デートで リズの場合

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 ストックホルムの夜は最高潮だった。コンサートは大成功に終わり、興奮冷めやらぬまま、私とサイラスは夜の街を散歩に出かけた。

 石畳の上を歩く音が響く。

 サイラスと私の会話は多くはない。長い間一緒に過ごしてきたので、私たちの間には心地よい無言も許された。

 そのままゴージャスなホテルのサウナに向かった。
 二人ともシャワーを浴びて水着を着て、一つのサウナに向かう。二人だけなら目のやり場に困ると言ったことはなかったのではないかと思うけれど、どきどきが止まらない。

 サイラスも私の姿にサッと頬を赤らめて、なんとなく二人とも無言になった。私は頭の中で魔法数学大学の入学試験の結果を考えようとしたけれども、隣に座るサイラスのことが気になってしまって仕方がない。ぼんやりと温まってきて、私たちは熱を帯びた瞳で互いを見つめた。

「ふふっ」

 サイラスが笑った。

「なあに?」

 私は私の隣で微笑むサイラスに見惚れた。引き締まって鍛え上げられた上半身に目が行ってしまい、顔がさらに真っ赤になり思わず目を逸らした。


「リズ、君のことが好きなんだ。だから、君と一緒に入れることが嬉しくて仕方がない。君がずっと何かの勉強をしているのは知っていた。何を勉強していたの?」

 サイラスは私の瞳を見つめている。最後の質問より、サイラスの最初の言葉が私の頭の中いっぱいを占めてしまって、うまく考えられない。

 ――私のことが好き?

「私も好きかも……しれないわ」

 ――私は何を言っているのだろう?

 彼の引き締まった体を前にして、私の判断力は正常なのかわからなくなった。

 ――初めての『デート』で私は舞い上がってしまっているのだろうか。いえ、嫌いな人だったらこんなにドキドキしないはず……このときめきは嘘じゃないわ……

 サイラスの指がそっと私の手に触れて、私は飛び上がった。

「あの……っ!」
「その……っ!」

 私は顔を真っ赤にしてしどろもどろになった。サイラスは私の反応を見てさらに顔を真っ赤にして立ち上がってしまった。

「ご……っごめんっ!その……嫌じゃなかったら、手を繋いでもいい?」

「は……はい」

 私の手をサイラスがそっと取り、私たちは手を繋いだ。サイラスに促されてそのまま、また汗だくでサウナの椅子に座った。

「耐えられない……だめだ……直視でき……ない。君の姿があまりに魅惑的でおかしくなりそう……」

 サイラスは私の体に視線をサッと走らせると、そのまま私の手を引いてサウナの外に向かった。私たちは二人でシャワーを浴びた。その間も手を繋いでいた。

 そっと水風呂に入った。あまりの冷たさに悲鳴をあげてすぐに出た。

 反動で思わずそのまま抱き合ってしまった。

「ずっと好きなんだ。僕の恋人になってもらえる?」

 サイラスは私を抱き寄せたまま、私の瞳を見つめてささやいた。見上げる私の視線の先にサイラスの濡れた髪の毛と、その奥から覗くキラキラと濡れたように輝く瞳があった。

「ええ。魔法数学大学よ」

 私はそっとサイラスにささやいた。

「え?」

 サイラスが聞き返した時、私は爪先立ちになり、そのままサイラスの唇に口付けをしていた。

 サイラスは驚いた表情をしたけれども、すぐにぎゅっと抱きしめて私の唇に口付けを返してくれた。

「魔法数学大学の入学試験を受けたの。その勉強をしていたのよ」

 私はそうささやくと、サイラスと抱き合ったまま、宙に浮いてみせた。サイラスも浮いている。

「完璧だね。最高に君は素敵だよ」

 サイラスはそうささやくと、私の髪の毛をかきあげて、もう一度唇にキスをした。

 私は、魔法数学大学の入学試験の結果を知る前に、素敵な恋人ができたようだ。



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