60 / 69
王立魔法数学大学 リズの場合
しおりを挟む
リズは受験票を手に悩んでいた。
祖母の形見の指輪を見つめる。心の中に迷いがある。魔法薬科学院の卒業生としては、さらに王立の魔法数学大学に入学しなおすことに抵抗はある。何より第八騎士団の活動をどうするかだ。
――そもそも私が受かるかしら?
何度も考えた疑問がリズの心の中をかき乱す。リズは第八騎士団の中では一番剣術が得意だった。それは天性のものだと自分でも知っている。努力してそうなったわけではない。私が魔法薬科学院で学んだのは剣術ではない。しかし、一番得意なのは剣術であった。
第三皇女ミラの姉に襲われた時、第八騎士団はミラを守ろうとした。そして崖から谷底に落とされて、死ぬ寸前にミラに救われた。正確には円深帝に救われて、金塊の契約を果たすために異世界で頑張ってきた。
しかし、最近ワールドツアーで着実に大スターの階段を登り始めると、本当に自分がやりたかったことはなんだろうと考え始めてしまったのだ。魔法数学大学は世の中のことわりを魔法と数学で表現して、魔法と数字を組み合わせて世の中をよりよくしようという学問だ。入学試験は信じ難い倍率だ。魔法薬科学院の数百倍の難易度だ。
生徒は十五歳から二十二歳までが大半だ。私は十八歳なので、入学するとしてもそれほどおかしな年齢ではない。
第三皇女ミラが女王になる覚悟を示した。私も実は魔法数学大学に通って魔法数学の世界を学び、女王を支える魔法数学師になる夢を追いかけても良いのではないかと思った。どうなるかわからないけれども、ミラが女王になる覚悟を示す前から、密かに受験の準備だけは進めてきていたのだ。
黙って受験しよう。不合格になったら黙っていれば良い。万が一受かったらその時はー。
私は受験時間は動物の姿なので、円深帝に相談して一時的に人の姿に戻してもらわなければならなかった。
今、円深帝の視線の先にミラがいる。ミラの姿を影から見守っていた。ストックホルムでのコンサートのリハーサルを私たちは実施している最中だった。
私は唇を固く結び、緊張していた。微笑んミラを見つめている円深帝にそっと歩み寄った。
「円深帝、少しご相談があるのですが」
「リズ、どうされましたか?」
私を見つめる円深帝は私の緊張した表情に少し驚いた様子を見せた。
「実は、明後日の朝から魔法数学大学の入塾試験があります。最難関なので受かる見込みは薄いのですが、どうしても夢が諦めきれずに試験を受けたいのです。その時間だけ、人の姿に戻していただくことはできないでしょうか」
私の心臓はドキドキしていた。
「もし合格して、金塊の契約を果たせなかったらその時はまだあなたは授業中の大半は人の姿でいられない。動物の姿で授業を受けるのでしょうか」
円深帝は私が恐れていた質問をしてきた。
「はい。そのつもりです」
私は小さな声で答えた。覚悟はできている。
グレートバーデン王立魔法数学大学の秀才たちに混ざって、教室にきつねがいても、猫がいても、たぬきがいても良いのではないだろうか。
事情を話さなければならない相手には勇気を振り絞って事情を話して理解してもらうつもりだ。
「わかりました。明後日の朝からあなたは人の姿のままで試験を受けられるようにしましょう。その代わり頑張ってください。この件はミラにもまだ内緒のようなので誰にも言いません。合格したらあなたから話してください」
円深帝は私の顔を見つめながら、ニッコリと微笑んでそう言ってくれた。
「ありがとうございます!」
私は飛び上がりそうに嬉しかったけれども、他の第八騎士団の皆には内緒の話なので、お礼だけ円深帝に言うと受験票を大事に胸に抱えてその場から離れた。カバンの中にそっと受験票をしまった。
――受かるか受からないか分からないけれど、試験は受けることができるわっ!頑張るわ……私。
私は本気で試験を受けることに全力を傾けようと心に誓った。受かるか受からないかではない。試験を受けることがまずできる。それだけでも一歩前進だった。
祖母の形見の指輪を見つめる。心の中に迷いがある。魔法薬科学院の卒業生としては、さらに王立の魔法数学大学に入学しなおすことに抵抗はある。何より第八騎士団の活動をどうするかだ。
――そもそも私が受かるかしら?
何度も考えた疑問がリズの心の中をかき乱す。リズは第八騎士団の中では一番剣術が得意だった。それは天性のものだと自分でも知っている。努力してそうなったわけではない。私が魔法薬科学院で学んだのは剣術ではない。しかし、一番得意なのは剣術であった。
第三皇女ミラの姉に襲われた時、第八騎士団はミラを守ろうとした。そして崖から谷底に落とされて、死ぬ寸前にミラに救われた。正確には円深帝に救われて、金塊の契約を果たすために異世界で頑張ってきた。
しかし、最近ワールドツアーで着実に大スターの階段を登り始めると、本当に自分がやりたかったことはなんだろうと考え始めてしまったのだ。魔法数学大学は世の中のことわりを魔法と数学で表現して、魔法と数字を組み合わせて世の中をよりよくしようという学問だ。入学試験は信じ難い倍率だ。魔法薬科学院の数百倍の難易度だ。
生徒は十五歳から二十二歳までが大半だ。私は十八歳なので、入学するとしてもそれほどおかしな年齢ではない。
第三皇女ミラが女王になる覚悟を示した。私も実は魔法数学大学に通って魔法数学の世界を学び、女王を支える魔法数学師になる夢を追いかけても良いのではないかと思った。どうなるかわからないけれども、ミラが女王になる覚悟を示す前から、密かに受験の準備だけは進めてきていたのだ。
黙って受験しよう。不合格になったら黙っていれば良い。万が一受かったらその時はー。
私は受験時間は動物の姿なので、円深帝に相談して一時的に人の姿に戻してもらわなければならなかった。
今、円深帝の視線の先にミラがいる。ミラの姿を影から見守っていた。ストックホルムでのコンサートのリハーサルを私たちは実施している最中だった。
私は唇を固く結び、緊張していた。微笑んミラを見つめている円深帝にそっと歩み寄った。
「円深帝、少しご相談があるのですが」
「リズ、どうされましたか?」
私を見つめる円深帝は私の緊張した表情に少し驚いた様子を見せた。
「実は、明後日の朝から魔法数学大学の入塾試験があります。最難関なので受かる見込みは薄いのですが、どうしても夢が諦めきれずに試験を受けたいのです。その時間だけ、人の姿に戻していただくことはできないでしょうか」
私の心臓はドキドキしていた。
「もし合格して、金塊の契約を果たせなかったらその時はまだあなたは授業中の大半は人の姿でいられない。動物の姿で授業を受けるのでしょうか」
円深帝は私が恐れていた質問をしてきた。
「はい。そのつもりです」
私は小さな声で答えた。覚悟はできている。
グレートバーデン王立魔法数学大学の秀才たちに混ざって、教室にきつねがいても、猫がいても、たぬきがいても良いのではないだろうか。
事情を話さなければならない相手には勇気を振り絞って事情を話して理解してもらうつもりだ。
「わかりました。明後日の朝からあなたは人の姿のままで試験を受けられるようにしましょう。その代わり頑張ってください。この件はミラにもまだ内緒のようなので誰にも言いません。合格したらあなたから話してください」
円深帝は私の顔を見つめながら、ニッコリと微笑んでそう言ってくれた。
「ありがとうございます!」
私は飛び上がりそうに嬉しかったけれども、他の第八騎士団の皆には内緒の話なので、お礼だけ円深帝に言うと受験票を大事に胸に抱えてその場から離れた。カバンの中にそっと受験票をしまった。
――受かるか受からないか分からないけれど、試験は受けることができるわっ!頑張るわ……私。
私は本気で試験を受けることに全力を傾けようと心に誓った。受かるか受からないかではない。試験を受けることがまずできる。それだけでも一歩前進だった。
0
お気に入りに追加
245
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った
冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。
「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。
※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる