別れた初恋の人が君主になったので、公爵家の悪女と囁かれながらも嫁ぐことになりました

西野歌夏

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王立魔法数学大学 リズの場合

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 リズは受験票を手に悩んでいた。

 祖母の形見の指輪を見つめる。心の中に迷いがある。魔法薬科学院の卒業生としては、さらに王立の魔法数学大学に入学しなおすことに抵抗はある。何より第八騎士団の活動をどうするかだ。

 ――そもそも私が受かるかしら?

 何度も考えた疑問がリズの心の中をかき乱す。リズは第八騎士団の中では一番剣術が得意だった。それは天性のものだと自分でも知っている。努力してそうなったわけではない。私が魔法薬科学院で学んだのは剣術ではない。しかし、一番得意なのは剣術であった。

 第三皇女ミラの姉に襲われた時、第八騎士団はミラを守ろうとした。そして崖から谷底に落とされて、死ぬ寸前にミラに救われた。正確には円深帝に救われて、金塊の契約を果たすために異世界で頑張ってきた。

 しかし、最近ワールドツアーで着実に大スターの階段を登り始めると、本当に自分がやりたかったことはなんだろうと考え始めてしまったのだ。魔法数学大学は世の中のことわりを魔法と数学で表現して、魔法と数字を組み合わせて世の中をよりよくしようという学問だ。入学試験は信じ難い倍率だ。魔法薬科学院の数百倍の難易度だ。

 生徒は十五歳から二十二歳までが大半だ。私は十八歳なので、入学するとしてもそれほどおかしな年齢ではない。

 第三皇女ミラが女王になる覚悟を示した。私も実は魔法数学大学に通って魔法数学の世界を学び、女王を支える魔法数学師になる夢を追いかけても良いのではないかと思った。どうなるかわからないけれども、ミラが女王になる覚悟を示す前から、密かに受験の準備だけは進めてきていたのだ。

 黙って受験しよう。不合格になったら黙っていれば良い。万が一受かったらその時はー。

 私は受験時間は動物の姿なので、円深帝に相談して一時的に人の姿に戻してもらわなければならなかった。

 今、円深帝の視線の先にミラがいる。ミラの姿を影から見守っていた。ストックホルムでのコンサートのリハーサルを私たちは実施している最中だった。

 私は唇を固く結び、緊張していた。微笑んミラを見つめている円深帝にそっと歩み寄った。

「円深帝、少しご相談があるのですが」
「リズ、どうされましたか?」

 私を見つめる円深帝は私の緊張した表情に少し驚いた様子を見せた。

「実は、明後日の朝から魔法数学大学の入塾試験があります。最難関なので受かる見込みは薄いのですが、どうしても夢が諦めきれずに試験を受けたいのです。その時間だけ、人の姿に戻していただくことはできないでしょうか」

 私の心臓はドキドキしていた。

「もし合格して、金塊の契約を果たせなかったらその時はまだあなたは授業中の大半は人の姿でいられない。動物の姿で授業を受けるのでしょうか」

 円深帝は私が恐れていた質問をしてきた。

「はい。そのつもりです」
 
 私は小さな声で答えた。覚悟はできている。

 グレートバーデン王立魔法数学大学の秀才たちに混ざって、教室にきつねがいても、猫がいても、たぬきがいても良いのではないだろうか。

 事情を話さなければならない相手には勇気を振り絞って事情を話して理解してもらうつもりだ。

「わかりました。明後日の朝からあなたは人の姿のままで試験を受けられるようにしましょう。その代わり頑張ってください。この件はミラにもまだ内緒のようなので誰にも言いません。合格したらあなたから話してください」

 円深帝は私の顔を見つめながら、ニッコリと微笑んでそう言ってくれた。

「ありがとうございます!」

 私は飛び上がりそうに嬉しかったけれども、他の第八騎士団の皆には内緒の話なので、お礼だけ円深帝に言うと受験票を大事に胸に抱えてその場から離れた。カバンの中にそっと受験票をしまった。

 ――受かるか受からないか分からないけれど、試験は受けることができるわっ!頑張るわ……私。

 私は本気で試験を受けることに全力を傾けようと心に誓った。受かるか受からないかではない。試験を受けることがまずできる。それだけでも一歩前進だった。

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