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戴冠式 円深帝の場合

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 グレースに恋をしていたつもりだった。でも、彼女の視線は常にジョシュアに注がれていることにも気づいていた。二人は仲を確かめ合い、昔愛を誓い合ったようにまた愛を誓い合っている。それも知っていた。

 私は構わないと思おうとしていた。でも、やはり私も人の子であったようだ。

 ミラにプロポーズされた時、私の心は揺れ動いた。ミラの率直さと可愛さに心打たれた。愛おしいという思いすら生まれた。ミラを守りたいと思った。

 私はなぜ今まで人を愛することがなかったのだろう。強烈な魔力を有する家系に生まれ、この力を世の平和に使おうと心に誓っていた。私には愛は無縁の代物だと思い込んでいた。しかしグレースが私の心を揺さぶり、私は自分もやはり普通の人の子であったのだと思うに足る切なさを感じた。

 そこにまっさらな思いをまっすぐにぶつけてくるミラが登場して、私の心はミラ一色に染まってしまった。体全体で愛をぶつける彼女のひたむきさに私の心の奥で何かが温かくなり、かつて誰も熱くしたことのなかった部分が初めて熱くなった。


 ミラの仕草の全てから目が離せない。彼女をこの腕の中に抱きたい。彼女を愛でたい。彼女を慈しみたい。彼女を守りたい。

 一体この感情はなんなのかと思うが、これが恋というもの。それを初めて知った。グレースの時はこれほど強烈ではなかった。ミラのことを考えると私は私の心を抑制できない。

 私は自分の魔力を初めて恐れた。私が感情のままにミラを愛した挙句、自分の都合の良いように世界を魔力で変えてしまうかもしれない。我を忘れる恋に熱く翻弄されてしまいそうだ。

 今は、彼女を愛し、彼女の望ように私も振る舞おうと思う。

 ――どうか、この恋が永く続きますように。

 私が救った大聖堂の鐘が鳴り響き、ミラが女王になる戴冠式が目の前で執り行われている。私の妻は今日から女王だ。私は円深帝でありながら、ミラの夫として生きることを選択した。

 明るく希望に光る瞳。キスを待っているような唇。ふっくらとした頬をほんのり赤らめて私を見つめる私の新妻の頭には女王の証の冠が載っている。

 ――あぁ、私は彼女の夫なのだ。こんなに幸せで嬉しいことはない。

 私は胸の奥から湧き上がるような喜びを感じて、私の愛しい妻に微笑んだ。
 
 多くの国民に祝福されて、第三皇女ミラ・フォードオーロラ・ウィンドハットはついに女王に就任した。

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