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グレートバーデン宮殿で ミラの場合
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私はグレートバーデン宮殿に来ていた。第八騎士団の皆と一緒だ。午前中なので全員がたぬきや狐やイノシイだ。
姉のエレノアは忙しく飛び回るように動き回っていた。嫁入りの出発が明日なので、その支度を侍女たちに急がせて、彼女は戴冠式の準備を確認しているところだった。
「あら、来たわね。準備は進んでいるわよ。戴冠式の準備は私が前回やったことを基本的に繰り返すだから、前回の責任者にお願いしているわ。お父様の時の先生や宰相たちにもお声かけしているわよ」
「ありがとう」
「それで、私の寝室とお部屋なのですが」
「あら、どの部屋もあなたが好きに使っていいに決まっているじゃない。この宮殿はあなたの持ち物になるのよ。あー、あなたは碧の間が好きだったわね。あそこを寝室として整えるようにお願いしておけば良いかしら?」
「お姉様、ありがとうございます!」
なんだか姉のエレノアは嫁入りが決まったことで、急にまともになったようだ。
「私にやり直しのチャンスをくれてありがとう」
エレノアは急に真剣な表情になって私に言った。ちょっと声が潤んでいる。
「え……」
私は戸惑った。
「妹殺しに第八騎士団殺しの私では、あんな素敵な隣国の第一王子と結婚なんてできなかったわ。あなたは生きていてくれた。あなた方は生きていてくれた。私は人殺しではなかった。未遂でかろうじて止まった。さらにあなたは私に素敵にな伴侶を準備までしてくれた。やり直しの機会を私に与えてくれているわ。あなたの戴冠式の準備、あなたの治世を支えてくれるであろう方々への声かけ。私はあなたの手伝いをすることで罪の償いを少しだけすることができる。本当に感謝しているわ」
姉のエレノアは意外とまともな感謝の意を伝えてくれた。私たちは少しだけあっけに取られて姉の顔を穴が開くほど見つめた。
「やだあ、間に受けないで。私があなたたちに感謝しているのは今のうちだけかもしれないわよっ!」
姉のエレノアは急に照れ隠しのように真っ赤になって、嫁入り用のトランクにドレスを放り込んだ。
「お姉様、そのような入れ方ではせっかくのドレスがシワになりますわ」
「いいのよっ!明日出発して陸路も海路もあるんだから、どうせシワになるわっ!」
「そんな。お手伝いしますわ」
「やめてよっ!ミラ!私は一人でできるわよっ!これでもまだ私が女王なんだから侍女も手伝ってくれるしっ!」
「わかっておりますけれども」
「とにかく、感謝しているのっ!ありがとう!戴冠式は私の名にかけて完璧なものに仕上げて見せるわ。あなたと夫の寝室だって、ものすごい素敵な寝室に仕上げていただくわよ。私ほどあなたの趣味を知っている人もいないからっ!調度に関して的確な指示を山のように侍女たちに出しておくわ。あなたはだから心配しないで」
姉のエレノアは何かの照れを隠すようにまくし立て、私たちは部屋から追い出されそうになった。
「待って!お姉様。今日のお昼に私の夫とお友達が訪ねてくるの。お昼ご飯を料理番にお願いしても良いかしら?」
私は慌てて姉のエレノアにお願いした。
「任せてよっ!大人2名に動物5匹ね!完璧にしておくわよ。お父様とお母様が大好きだったお庭が見えるテラス席に準備しておくわよ。私は出ないから水入らずの時間を過ごしてね」
姉は料理番にオーダーするためにすぐに部屋を飛び出して行った。
「ミラ?あなたのお姉さんって、結構あなたに似ているんじゃない?」
リズがこっそり私にささやいたけれども、私はエレノアの新たな一面を見てポカンとしていた。
とにかく姉が私のために頑張って誠意を持って準備してくれているのはわかって少しホッとしていた。
***
咲き乱れる花を眺めながら、私たちは噴水のそばの木陰で昼食会を開いていた。大きなケーキが運ばれてきて、お酒も出されてお祝いの席を存分に楽しんでいた。動物のままの私たちはほとんどお酒は飲めず、夫が飲んでいた。
夫は少し酔った様子で「たぬきのあなたも可愛いですが、早く本当のあなたに会いたいですよ」とささやいた。
私は夫が頬を赤く染めてきらきらと輝く瞳で私を見つめ、たぬきの私を相手にいつになく饒舌になっている様子を見つめていた。
「宮殿を少し紹介しますわ。寝室の場所を教えます」
私がそう言うと、夫は私を抱きあげた。
「みなさん、ちょっと夫にグレートバーデン宮殿を紹介してきますね」
私は第八騎士団の皆にそう告げると夫に抱きかかえられたまま、宮殿を案内して歩いた。
皆の姿がすっかり見えなくなり、宮殿の私たちの寝室になる想定の部屋まで来ると、急に私は人の姿に戻った。夫は私を横抱きに抱えている状態で廊下を歩いて部屋の中まで入った。
「えっ?私は人の姿に戻っているわ」
「せっかくですから」
夫はイタズラっぽく微笑んだ。私は夫の魔力で一時的に人の姿に戻してもらった。
私は夫に抱き抱えられたまま二人の寝室まで運ばれた。私の胸は飛び出しそうなほどドキドキしていた。寝室の床にそっと下ろされた。夫は私の体をピタッと引き寄せたままワルツを踊った。そして口付けをされた。
「私の妻よ。私とあなたの甘い新婚生活はここから始まるのですね」
夫は相当酔っているように見えるけれども、私は夫の本音が聞けているようで嬉しかった。
「楽しみです」
夫は小さな声で私の耳元でささやいた。私はくすぐったくて、思わず笑って夫の胸に飛び込んだ。
私は幸せだった。
姉のエレノアは忙しく飛び回るように動き回っていた。嫁入りの出発が明日なので、その支度を侍女たちに急がせて、彼女は戴冠式の準備を確認しているところだった。
「あら、来たわね。準備は進んでいるわよ。戴冠式の準備は私が前回やったことを基本的に繰り返すだから、前回の責任者にお願いしているわ。お父様の時の先生や宰相たちにもお声かけしているわよ」
「ありがとう」
「それで、私の寝室とお部屋なのですが」
「あら、どの部屋もあなたが好きに使っていいに決まっているじゃない。この宮殿はあなたの持ち物になるのよ。あー、あなたは碧の間が好きだったわね。あそこを寝室として整えるようにお願いしておけば良いかしら?」
「お姉様、ありがとうございます!」
なんだか姉のエレノアは嫁入りが決まったことで、急にまともになったようだ。
「私にやり直しのチャンスをくれてありがとう」
エレノアは急に真剣な表情になって私に言った。ちょっと声が潤んでいる。
「え……」
私は戸惑った。
「妹殺しに第八騎士団殺しの私では、あんな素敵な隣国の第一王子と結婚なんてできなかったわ。あなたは生きていてくれた。あなた方は生きていてくれた。私は人殺しではなかった。未遂でかろうじて止まった。さらにあなたは私に素敵にな伴侶を準備までしてくれた。やり直しの機会を私に与えてくれているわ。あなたの戴冠式の準備、あなたの治世を支えてくれるであろう方々への声かけ。私はあなたの手伝いをすることで罪の償いを少しだけすることができる。本当に感謝しているわ」
姉のエレノアは意外とまともな感謝の意を伝えてくれた。私たちは少しだけあっけに取られて姉の顔を穴が開くほど見つめた。
「やだあ、間に受けないで。私があなたたちに感謝しているのは今のうちだけかもしれないわよっ!」
姉のエレノアは急に照れ隠しのように真っ赤になって、嫁入り用のトランクにドレスを放り込んだ。
「お姉様、そのような入れ方ではせっかくのドレスがシワになりますわ」
「いいのよっ!明日出発して陸路も海路もあるんだから、どうせシワになるわっ!」
「そんな。お手伝いしますわ」
「やめてよっ!ミラ!私は一人でできるわよっ!これでもまだ私が女王なんだから侍女も手伝ってくれるしっ!」
「わかっておりますけれども」
「とにかく、感謝しているのっ!ありがとう!戴冠式は私の名にかけて完璧なものに仕上げて見せるわ。あなたと夫の寝室だって、ものすごい素敵な寝室に仕上げていただくわよ。私ほどあなたの趣味を知っている人もいないからっ!調度に関して的確な指示を山のように侍女たちに出しておくわ。あなたはだから心配しないで」
姉のエレノアは何かの照れを隠すようにまくし立て、私たちは部屋から追い出されそうになった。
「待って!お姉様。今日のお昼に私の夫とお友達が訪ねてくるの。お昼ご飯を料理番にお願いしても良いかしら?」
私は慌てて姉のエレノアにお願いした。
「任せてよっ!大人2名に動物5匹ね!完璧にしておくわよ。お父様とお母様が大好きだったお庭が見えるテラス席に準備しておくわよ。私は出ないから水入らずの時間を過ごしてね」
姉は料理番にオーダーするためにすぐに部屋を飛び出して行った。
「ミラ?あなたのお姉さんって、結構あなたに似ているんじゃない?」
リズがこっそり私にささやいたけれども、私はエレノアの新たな一面を見てポカンとしていた。
とにかく姉が私のために頑張って誠意を持って準備してくれているのはわかって少しホッとしていた。
***
咲き乱れる花を眺めながら、私たちは噴水のそばの木陰で昼食会を開いていた。大きなケーキが運ばれてきて、お酒も出されてお祝いの席を存分に楽しんでいた。動物のままの私たちはほとんどお酒は飲めず、夫が飲んでいた。
夫は少し酔った様子で「たぬきのあなたも可愛いですが、早く本当のあなたに会いたいですよ」とささやいた。
私は夫が頬を赤く染めてきらきらと輝く瞳で私を見つめ、たぬきの私を相手にいつになく饒舌になっている様子を見つめていた。
「宮殿を少し紹介しますわ。寝室の場所を教えます」
私がそう言うと、夫は私を抱きあげた。
「みなさん、ちょっと夫にグレートバーデン宮殿を紹介してきますね」
私は第八騎士団の皆にそう告げると夫に抱きかかえられたまま、宮殿を案内して歩いた。
皆の姿がすっかり見えなくなり、宮殿の私たちの寝室になる想定の部屋まで来ると、急に私は人の姿に戻った。夫は私を横抱きに抱えている状態で廊下を歩いて部屋の中まで入った。
「えっ?私は人の姿に戻っているわ」
「せっかくですから」
夫はイタズラっぽく微笑んだ。私は夫の魔力で一時的に人の姿に戻してもらった。
私は夫に抱き抱えられたまま二人の寝室まで運ばれた。私の胸は飛び出しそうなほどドキドキしていた。寝室の床にそっと下ろされた。夫は私の体をピタッと引き寄せたままワルツを踊った。そして口付けをされた。
「私の妻よ。私とあなたの甘い新婚生活はここから始まるのですね」
夫は相当酔っているように見えるけれども、私は夫の本音が聞けているようで嬉しかった。
「楽しみです」
夫は小さな声で私の耳元でささやいた。私はくすぐったくて、思わず笑って夫の胸に飛び込んだ。
私は幸せだった。
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