上 下
54 / 69

挙式 ミラの場合

しおりを挟む
 夕暮れの赤く染まった美しい空に、一番星が上がっている。 

 大聖堂の鐘が鳴る。姉のエレノアが国民に発表したためか、大勢の国民が詰めかけてきていた。第三皇女ミラ・フォードオーロラ・ウィンドハットが女王となることが発表になったからだ。

 戴冠式は明日の予定だ。私は何もかも急ぐのだ。明後日は姉のエレノアは望まれて豊かな隣国であるクロムウェー国への嫁入りで出発する。この国は私が治めよう。牧場でのんびり暮らしていた私を姉が殺そうとして、結果的に私の心に火がついた。父の治世を手伝ってくれていた方たちを広く呼び戻し、謙虚に学ぼう。

 私は大聖堂の通路を花嫁衣装の姿で歩きながら、祭壇前で微笑んで立っている円深帝のお姿に心を奪われた。

 大聖堂の貸し衣装を二人とも着た。サイラスとジョシュアが円深帝のお世話を担ってくれ、私が未だかつて見たこともないスマートな円深帝のお姿に変わっていた。いつもの金の衣装ではない円深帝は艶っぽさが増し、十八歳になったばかりの私にとっては刺激が強すぎる美形であった。

 今日は結婚式、明日は戴冠式、明後日は姉のエレノアの嫁入りと、一気に私は自分の環境を変える。その突き進む力は、恋の力が与えてくれていると分かっている。

 円深帝がグレースを小間使いにするとなった時に分かった自分の気持ち……。

 私はこの恋心に全てを前に推し進める力をもらった。グレースとジョシュアが互いに結ばれるために必死にあがく様にも感化されたと言える。

 リズ、アイラ、オリヴィア、サイラスは私の同志だ。共に生き、共に襲われた時も互いに守り合い、見知らぬ異世界で金塊の契約を果たそうと奮闘する時も、笑いを絶やさずに共にいてくれた。私の生涯の友であり、同士だ。

 みんなが最前列から笑顔で私を見ている。私の目には涙がつたった。

「さあ、我が妻よ。今日もとても綺麗です。あなたを見ていると胸がいっぱいになります」

 私が円深帝の隣にたどり着くと、円深帝が私にささやいた。

「あなたが大好きです。末長く私の夫でいてください」

 私は愛をささやいた。円深帝は微笑んでうなずいてくれた。

「望むところです。私もあなたを愛します」

 式が進み、円深帝が私のヴェールをそっとあげて、私を抱き寄せて口付けをしてくれた。彼が自ら私に口付けをしたのは初めてだ。私は嬉しさで心が震えた。

 ――こんな未来が待っているなんて……!

 姉のエレノアに髪を掴まれて、血だらけで崖から突き落とされた時には考えられなかった未来だ。はるか長い旅路を経てここにたどり着いた気がした。1年間の異世界の金塊収得の冒険の旅が、思わぬ旅路となった。

 ――生涯の伴侶と目標を手にしたわ。これからの私は何も怖くないわ……。この人たちを大切に、いかなる困難も乗り越えて行ってみせるわ。

 二度目に温かい唇が近づいてくるのを感じながら、目をつぶった。円深帝は初めての口付けをしたばかりなのに、二度目の口付けを私にした。

「ミラ、私の妻。生涯をかけてあなたを愛し守りますよ」

 円深帝は私にそっとささやいてくれた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】愛する夫の務めとは

Ringo
恋愛
アンダーソン侯爵家のひとり娘レイチェルと結婚し婿入りした第二王子セドリック。 政略結婚ながら確かな愛情を育んだふたりは仲睦まじく過ごし、跡継ぎも生まれて順風満帆。 しかし突然王家から呼び出しを受けたセドリックは“伝統”の遂行を命じられ、断れば妻子の命はないと脅され受け入れることに。 その後…… 城に滞在するセドリックは妻ではない女性を何度も抱いて子種を注いでいた。 ※完結予約済み ※全6話+おまけ2話 ※ご都合主義の創作ファンタジー ※ヒーローがヒロイン以外と致す描写がございます ※ヒーローは変態です ※セカンドヒーロー、途中まで空気です

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...