上 下
52 / 69

姉を制す ミラの場合

しおりを挟む
 ――いやっ!離してっ!やめてっ!

 リズが襲いかかられて捕まえられた。もがいたリズは思わず人の姿に戻った。

「ははーん?やっぱりあんたたちね」

 第一皇女エレノアは冷たい声で勝ち誇ったように言った。

「リズを離して!私は牧場で静かに生活してたのに、なぜ私の命を狙ったの?」

 私は姿を現してエレノアに聞いた。

「あんたが製薬魔法だの回復魔法だのを広めるからよ。静かに暮らしている?全然っよ!あんたの噂が都中に鳴り響いてうるさいったらありゃしなかったわよ」

 エレノアは唇を歪めて、美しい顔をツンと上に向けた。

「前国王に似ている皇女、第三皇女ミラさま。冗談じゃないわよっ!頑張って国を治めようとしているのは私じゃないのっ!」

 やっ
 な…なにっ?

 私はいきなり両肩と腕を二名の騎士につかまれて逃げられないように体を固定されて、両腕を後ろに縛られた。

「あげくの果てには、私が結婚したいと思っていた隣国の第二王子まであんたと結婚したいと言い出す始末。あんた一体何を彼にしたわけ?」

「私はそんな方は存げませんっ!」
「嘘おっしゃいっ!」

 グレースとジョシュアがすっと二人くっついたのが見えた。サイラスとリズとオリヴィアとアイラを手招きしている。グレースとジョシュアが龍とペガサスの光の輪を出して、第八騎士団の皆が光の輪の中に閉じ込められた。リズはうまくグレースのそばに逃げ切ることができたようだ。

「そこっ!勝手に何やってんの!」

「私はこの国のものではないっ!そなたの指図には従う必要はない。ミラを離せ」

 ジョシュアがエレノアに怒りを含んだ声で静かに言った。

「妹には死んでもらいたいが、もっと良い使い道があった。妹にとっても幸せになる可能性がある道だ」

 エレノアはニヤッと笑って言った。

「お前が欲しいという奴がいてな。お前も好かれた奴のところに嫁に行く方が幸せであろう。姉としてお前を嫁に出してやる」

「一体どこに?」

 私は震える声で聞いた。私は円深帝と一緒になりたいのに、姉は私を殺す代わりに政治の道具としてみることにしたようだ。

「わしだ」

 いきなり野太い声がして、普通の人の3倍はありそうな、大きくて黒い熊のような男が現れた。男の顔には傷がたくさんあった。ニンマリ笑うその顔は、ゾッとするような恐怖を掻き立てられる凄みがあった。

「お前はわしの嫁だ。お前をもらう代わりに、エレノアの国には攻めることはしない」

 ――この男は、北の果ての海賊を生業としているヴィルアルジャー国の王だわっ!
 
 私は泣きたくなった。

 ――いや……それだけはいや……こんな男のところに嫁に行くなんて…私が好きなのは円深帝なのに……。

 私は涙が溢れてきた。

 ヴィルアルジャー王は、後ろでに縄で縛られて身動きが取れなくなっている私の体に手を伸ばしてきた。

 私はみじろぎをして後ろに後ずさろうとして、両側に立つ騎士から一層体を固定された。屈辱だ。

 ――いやっこっちに来ないでっ!

 ジョシュアとグレースのペガサスと龍の光が私とヴィルアルジャー王の間を光線のように刺した。

 ヴィルアルジャー王が「痛いっ!」と叫んで、グレースとジョシュアを睨んだ。

 ヴィルアルジャー王は雄叫びをあげて、まさかりのようなものをグレースとジョシュアの方に投げつけた。

「やめてっ!」

 私は叫んだ。

「皆を攻撃しないで。私が嫁に行くから」

 私がそういうと、ヴィルアルジャー王はニンマリして私を眺めた。

 ――円深帝、あなたの妻になりたい。こんな男のところはイヤ!姉を倒す力を私に貸してください。

 私が心の中でそういうのと、ジョシュアとグレースの光が私の両隣の騎士を撃ち抜くのとほぼ同時だった。

 私の両側の騎士が倒れた瞬間、私は必死にグレースとジョシュアの元に走った。すぐに二人の龍とペガサスの光の中に飛び込んだ。

「結界まで遠いわ」

 私は小声で皆に伝えた。その瞬間だ。ふっと目の前に人影が現れた。

「円深帝!?」

 私は金髪の長い髪をふわふわと揺らしている男性を見上げた。
 
「遅くなってすまない。私の妻よ」

 円深帝はそうニッコリ笑っていうと、ヴィルアルジャー王を何かの魔力で吹き飛ばした。ヴィルアルジャー王は体が一瞬で見えなくなった。

「な……なに、あんた……」

 あまりの円深帝の力に姉のエレノアが後ずさった瞬間、円深帝は姉のエレノアに語りかけた。

「お姉様、初めまして。ミラの夫になるものです。国はミラが治めますので、お姉様はどうかゆっくりとなさってください」
「なんですって?」

「隣国の第一王子があなたに求婚したいそうですよ」
「え?」
「まもなく、使いの者がやってきますから、あなたは隣国の王妃になればよろしいかと」

 私の後ろ手に縛られていた縄をグレースとジョシュアが解いてくれた。

「これに応じなければ、あなたの命はないです」

 円深帝は急に冷たい声でエレノアに告げた。

 私は姉のエレノアに走り寄って、両頬を思いっきり張り飛ばした。不意をつかれたエレノアは私のあまりの剣幕に地面にひっくり返った。

 私は地面にひっくり返ったエレノアの髪の毛をギュッと掴んで、姉の目をじっと見据えて言った。

「死にたくなければ従いなさい。私にやったのと同じことをお姉様にやってあげてもいいのよ。私の夫の魔力は、回復魔法や製薬魔法とか、そんな小さな魔法とは違うの。あんなものとは違って桁違いに大きいわ。どうする?お姉様。崖に行く?隣国に行く?どっちかしら?」

 私はギュッとエレノアの髪の毛を掴んで言い放った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

処理中です...