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戴冠式
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戴冠式が始まった。厳粛なしきたりにならって式は進み、ジョシュアの頭に王の冠が被せられた。私の頭にも王妃の冠が被せられた。バリイエルだけでなく、チュゴアートの一門も多く集まり、大聖堂の中は厳かな雰囲気に包まれていた。
頭に冠を抱いて、ジョシュアと私は長いマントを背中にゆっくりと歩き、大聖堂の入り口まで向かった。戴冠式が開かれのは約四十年ぶりだった。前回はチュゴアートだったが、今回はバリイエルの者が国王になった。ただし、祝福には両一門が詰めかけている。王妃になる私がチュゴアートだからだ。
祝砲が放たれ、教会の鐘が高らかに鳴り響いている。高い丘の上にある大聖堂の入り口に立つと、はるか彼方の海まで見渡せた。
海から単艦が現れた。やがてその周りを大艦隊がぐるりと囲んだ。バリイエルとチュゴアートの二つの旗を全ての艦が掲げている。丘から見下ろす城の塔にもバリイエルとチュゴアートの2つの旗が掲げられていて、風に颯爽とはためいている。
――これで無駄な争いがなくなるかもしれないわ……ようやくジョシュアが国王になり、私がその隣に立てるなんて夢のようだわ……。
私とジョシュアはお互いの瞳の中の煌めきを見つめ、ゆっくりと抱き合って口付けをした。私の指にはジョシュアにもらった指輪が輝き、国民にお披露目する正式な結婚式の前にバウズザック家の嫁になったことを示していた。幸せで胸がいっぱいだ。
バリイエルの貴族たちからも、チュゴアートの貴族たちからも拍手が起きた。
大艦隊から祝砲が上がり、港町や都のあちこちで歓声が上がる声が風に乗って丘まで聞こえてくる。街の人々によって、色々な場所にバリイエルとチュゴアートの旗が掲げられているのが見えた。
私はとジョシュアは微笑んだ。大聖堂の入り口から昼間の空に閃光が煌めき、澄み渡った青空に龍とペガサスの形の雲がうっすらと現れて、居並ぶ人々にどよめきが走った。
「王様、王妃様、おめでとうございます!」
「両一門、心よりお祝いを申し上げます!」
「バリイエルとチュゴアートは協力して王様と王妃様をお支えします!」
周りの人々の声が私にはとても嬉しかった。大好きな人と結ばれるだけではなく、争う両一門が協力すれば、大好きな人を頂点として進む国政も余計な争い事が減って安定するだろう。
ジョシュアと私は馬車に乗って丘から降りて、都の大通りをパレードして城に向かった。
馬車が通る沿道には、多くの国民がバリイエルとチュゴアートの両方の旗を持って振って迎えてくれた。小さな子供からお年寄りまで皆が笑いながら、ジョシュアと私に旗を振って歓声を上げてくれた。
ジョシュアと私は嬉しくて嬉しくて、ずっと笑っていた。
ワールドツアーのコンサートも少しずつ回数をこなして行っていた。飛行機移動にも少し慣れてきたところだ。バンドは金塊の契約を果たせる目処が確実に高まり、ジョシュアと私はもう一度、オリヴィアたちの国に遊びに行って、騎士団の活動の様子を見てきたばかりだった。
つまり、金塊の契約を順調に返せそうだという見込みは高かった。私が円深帝の妻になることもないのではないかと思って、私は安堵していた。
戴冠式が終われば、この国の正式な国王となったジョシュアはさらに国務に邁進することになる。私も王妃としても国務にもっと力を入れなければならない。沿道で手を振る小さな子供たちを見て、私はこの国の未来に責任があると身を引き締めた。
その時だ。
「敵をー!」
叫ぶ声がして、一人の男の子が飛び出してきた。すぐに国王と王妃の警護にあたっていた騎士たちが男の子を取り押さえた。
「乱暴はよしてっ!」
私は思わず馬車の扉を開けて騎士に伝えた。私の手のひらから龍の光が現れて、男の子の周りを取り囲んで騎士から守った。
沿道の人々に動揺が走った。私は騎士に合図をして、男の子から離れてもらった。しかし、私は失敗した。思わず馬車から降りて行ってしまい、すかさず後ろから突っ込んでくる騎士に反応が遅れた。ジョシュアの手からペガサスの光が煌めいたのが目の端に映ったが、しかし、間に合わなかった。
私の背中に騎士の剣が刺さった……と思った瞬間、誰かが私の背後で倒れた。
私はハッとして後ろを振り向いた。金髪のリリアが暴漢と化した騎士の剣を受けて倒れていた。
「リリアっ!あなたどうしたのっ!」
叫ぶ私に暴漢と化した騎士が私に飛びかかってきた。それをジョシュアと他の騎士たちが取り押さえた。
「誰かっ!リリアを助けて!」
私は血を流すリリアの肩を抑えて思わず叫んでいた。
――この前、私を殺そうとしたリリアは、今度は私を守ろうとして、身代わりになって剣を受けた?
――この場合の見返りはなんでしょう?リリアの血を龍の力で止めたいです。
私は後先考えずに手のひらに力を込めて、リリアの肩から流れる傷の止血を必死に行おうとした。
リリアの美しい顔は真っ青だった。震える小さな声で真っ青なリリアは私にささやいた。
「ジョシュアを幸せにしてくれる?」
私は目を見張って、リリアの耳元でささやいた。
「私がジョシュアを幸せにするのを見届けるまで死なせないわよ」
リリアはふっと笑って、気を失った。
頭に冠を抱いて、ジョシュアと私は長いマントを背中にゆっくりと歩き、大聖堂の入り口まで向かった。戴冠式が開かれのは約四十年ぶりだった。前回はチュゴアートだったが、今回はバリイエルの者が国王になった。ただし、祝福には両一門が詰めかけている。王妃になる私がチュゴアートだからだ。
祝砲が放たれ、教会の鐘が高らかに鳴り響いている。高い丘の上にある大聖堂の入り口に立つと、はるか彼方の海まで見渡せた。
海から単艦が現れた。やがてその周りを大艦隊がぐるりと囲んだ。バリイエルとチュゴアートの二つの旗を全ての艦が掲げている。丘から見下ろす城の塔にもバリイエルとチュゴアートの2つの旗が掲げられていて、風に颯爽とはためいている。
――これで無駄な争いがなくなるかもしれないわ……ようやくジョシュアが国王になり、私がその隣に立てるなんて夢のようだわ……。
私とジョシュアはお互いの瞳の中の煌めきを見つめ、ゆっくりと抱き合って口付けをした。私の指にはジョシュアにもらった指輪が輝き、国民にお披露目する正式な結婚式の前にバウズザック家の嫁になったことを示していた。幸せで胸がいっぱいだ。
バリイエルの貴族たちからも、チュゴアートの貴族たちからも拍手が起きた。
大艦隊から祝砲が上がり、港町や都のあちこちで歓声が上がる声が風に乗って丘まで聞こえてくる。街の人々によって、色々な場所にバリイエルとチュゴアートの旗が掲げられているのが見えた。
私はとジョシュアは微笑んだ。大聖堂の入り口から昼間の空に閃光が煌めき、澄み渡った青空に龍とペガサスの形の雲がうっすらと現れて、居並ぶ人々にどよめきが走った。
「王様、王妃様、おめでとうございます!」
「両一門、心よりお祝いを申し上げます!」
「バリイエルとチュゴアートは協力して王様と王妃様をお支えします!」
周りの人々の声が私にはとても嬉しかった。大好きな人と結ばれるだけではなく、争う両一門が協力すれば、大好きな人を頂点として進む国政も余計な争い事が減って安定するだろう。
ジョシュアと私は馬車に乗って丘から降りて、都の大通りをパレードして城に向かった。
馬車が通る沿道には、多くの国民がバリイエルとチュゴアートの両方の旗を持って振って迎えてくれた。小さな子供からお年寄りまで皆が笑いながら、ジョシュアと私に旗を振って歓声を上げてくれた。
ジョシュアと私は嬉しくて嬉しくて、ずっと笑っていた。
ワールドツアーのコンサートも少しずつ回数をこなして行っていた。飛行機移動にも少し慣れてきたところだ。バンドは金塊の契約を果たせる目処が確実に高まり、ジョシュアと私はもう一度、オリヴィアたちの国に遊びに行って、騎士団の活動の様子を見てきたばかりだった。
つまり、金塊の契約を順調に返せそうだという見込みは高かった。私が円深帝の妻になることもないのではないかと思って、私は安堵していた。
戴冠式が終われば、この国の正式な国王となったジョシュアはさらに国務に邁進することになる。私も王妃としても国務にもっと力を入れなければならない。沿道で手を振る小さな子供たちを見て、私はこの国の未来に責任があると身を引き締めた。
その時だ。
「敵をー!」
叫ぶ声がして、一人の男の子が飛び出してきた。すぐに国王と王妃の警護にあたっていた騎士たちが男の子を取り押さえた。
「乱暴はよしてっ!」
私は思わず馬車の扉を開けて騎士に伝えた。私の手のひらから龍の光が現れて、男の子の周りを取り囲んで騎士から守った。
沿道の人々に動揺が走った。私は騎士に合図をして、男の子から離れてもらった。しかし、私は失敗した。思わず馬車から降りて行ってしまい、すかさず後ろから突っ込んでくる騎士に反応が遅れた。ジョシュアの手からペガサスの光が煌めいたのが目の端に映ったが、しかし、間に合わなかった。
私の背中に騎士の剣が刺さった……と思った瞬間、誰かが私の背後で倒れた。
私はハッとして後ろを振り向いた。金髪のリリアが暴漢と化した騎士の剣を受けて倒れていた。
「リリアっ!あなたどうしたのっ!」
叫ぶ私に暴漢と化した騎士が私に飛びかかってきた。それをジョシュアと他の騎士たちが取り押さえた。
「誰かっ!リリアを助けて!」
私は血を流すリリアの肩を抑えて思わず叫んでいた。
――この前、私を殺そうとしたリリアは、今度は私を守ろうとして、身代わりになって剣を受けた?
――この場合の見返りはなんでしょう?リリアの血を龍の力で止めたいです。
私は後先考えずに手のひらに力を込めて、リリアの肩から流れる傷の止血を必死に行おうとした。
リリアの美しい顔は真っ青だった。震える小さな声で真っ青なリリアは私にささやいた。
「ジョシュアを幸せにしてくれる?」
私は目を見張って、リリアの耳元でささやいた。
「私がジョシュアを幸せにするのを見届けるまで死なせないわよ」
リリアはふっと笑って、気を失った。
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