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プロポーを受ける前に(2)

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「ノア皇太子が殺された時、私も命を狙われたの。でも、その前に三年前のことを話さなければならないわ。お父様、お母様、私とジョシュアは幼馴染だったの。黙っていてごめんなさい。最初は友達だったのだけれども、成長してお互いに初恋の人になったの」

「そうみたいだな。それはペガサスと龍の誓約を私たちも見たから分かっている。お前の命も狙われたと言うことは、お前は最後までチュゴアート側だったのだな?」

 父親は大事なポイントだと言うように身を乗り出してきた。

「そうです。私はジョシュアに救われなければ、殺されるところだったわ。私はあのバリイエルの君主宣言が行われる直前まではチュゴアート側で、同じように命を狙われていたのよ。ジョシュアは私の命を救うためにあの宣言をしたの」

「お前の命を救うために?」
「まぁ、あなたを救う方法があなたをバリイエルの王妃にする方法だったと言うわけね?」

「そうでございます。お父様、お母様」

 父と母はしばらく黙り込んだ。やがて、二人は顔を見合わせて微笑んだ。疲れた顔にやっと緊張がとけてくつろいだ表情が浮かんだ。二人の表情が明るくなった。

「なんだ、お前を救うためにジョシュアが……」

「あなた、グレースの命が助かって本当によかったですわ。ジョシュアは何だか良い方みたいですわ。グレースの誓約の相手ですし、グレースにとっては幸せなことですわよ」

 父と母の顔に幸せそうな笑みが浮かんだ。

 ――よかったわ。二人とも理解してくれたようだわ。

 私もほっとして幸せな気持ちになった。両親には苦労をかけてしまうが、娘が死んでしまうよりはずっと良いはずだと思う。

「グレースはジョシュアのことを今でも愛しているのか?」

 父が私にそっと聞いてきた。小さな声だ。

「ええ。お父様。私は彼を愛しているの。ずっと愛していたのだと思うわ」

 父と母はその答えを聞いて、うなずいた。

「こうなってしまって、お父様とお母様には本当に苦労をかけます。でも、ジョシュアはチュゴアートを無下にはしないと思うわ。恨みを買ったりするようなことは控えるはずよ。そもそも、彼の父親を先王が暗殺したのがよくなかったと思うの。恨みは連鎖するわ。彼はそのことを一番よく知っていると思うわ」

 私は父と母に抱きついて、同じく小さな声で言った。ジョシュアの父親のことを宮殿で話すのは控えなければならない。この話はタブーだ。

「ノア皇太子の求婚を受けたのは、ジョシュアがバリイエルだったから諦めたということだな?あの頃、お前は部屋によく篭りっぱなしで泣き腫らした顔をしていた。私たちは心配していたんだ」
「そうなの。話せなくてごめんなさい」

 私が謝ると、いいのよと、母に抱きしめられた。

「あの頃話せる内容ではないわね。だからそれはもういいのよ。結婚式はいつやるのかしら?」
「半年後よ、お母様」
「そうね。そのくらいがいいわね」

「小さな簡素な結婚式よ」
「ええ、それでいいと思うわ」

 父と母もすぐに式をあげない理由は察しがつくだろう。一門の皆への説明に苦労しているだろうから。

「あなたが裏切り者でもなんでもなくて、ほっとしたわ」

 母はそう言って笑った。

「お母様、私は最初にジョシュアを裏切ってノア皇太子のところに嫁いだの。だから、チュゴアートは裏切ってはいないけど、ずっと昔にジョシュアは裏切っているのよ。私はジョシュアにとっては今まで裏切り者だったのよ」

 私がうつむいて言うと、母は私を優しく抱きしめて背中をさすってくれた。

「誓約をするぐらいだ。本気だったのはわかるぞ。もう自分を責めるな。これからジョシュアに償えばいいんだから。一門のことは任せてくれ。大丈夫だ。なんとか時間をかけて説明するから」

 父はそう言って私の手を優しくそっと握った。

 ――そろそろ時間だわ。急いで部屋に戻らないと、狐になってしまう姿をお父様とお母様に見られてしまう。私のそんな姿を見たら二人は卒倒してしまうわ。

 私が急いで立ち上がろうとしたときだ。ドアがそっとノックされて、ジョシュアが部屋に入ってきて、父と母の前にひざまづいた。

「勝手なことをして大変申し訳ございませんでした。今度ゆっくり話をさせていただけますか。私は彼女をずっと愛しています」

 いきなりのジョシュアの登場に父と母は驚いたが、顔を綻ばせて喜んでくれた。

「おぉ、娘を救ってくれたそうじゃないか。本当にありがとう」
「私からもお礼を言わせてもらうわ。本当にありがとうございました」

 父と母は感謝の言葉を涙を浮かべてジョシュアに伝えてくれた。

「遅れましたが、娘さんを私にくださいませんか」

 ジョシュアはひざまずいて父と母に申し出た。父と母は泣きながら「もちろんだよ」とジョシュアの肩を優しく叩いて言ってくれた。

「ありがとうございます」

 ジョシュアは嬉しそうに微笑むと、二人に礼を言った。

 ジョシュアと私は時間切れになる前に部屋に戻らなければならない。

「じゃあ、そろそろ次の仕事があるから私は行かなければならないの。今日は本当にありがとうございました。お父様、お母様。話せて本当によかったわ」

 私は狐になってしまうことを悟られないように、慌ててジョシュアと共に部屋を出た。父と母に話せて理解してもらった事で、私の気持ちは弾むように浮き上がっていた。できれば親には悲しい思いをさせたくないから。

「急ごう、グレース!」

 幸せなひとときを父と母と過ごして、愛するジョシュアに手を引かれ、心が温かく浮き立つ思いで私は自分の部屋に戻った。

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