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元王妃(2)

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「あなたの息子を利用して裏切ったのはバリイエルの人間です。そしてそのバリイエルの女性を愛人にしたのは、あなたの息子ですよ」

 義母は崩れ落ちた。

「あの子にもっとちゃんとするように言っておけば……」
「グレースは同じようにあなたの息子の愛人に殺されそうになって、逃げるために私と契約したのです。そして狐の姿にされたのです。ある意味グレースも被害者なのですよ」

 義母は狐になった私を憐れみの目でみつめた。

「ごめんなさいね。女好きの息子で。あなたも嫌な思いをたくさんしたでしょう」

 疲れ切った老婆のようなしわがれた声で、王妃だった義母は私に声をかけた。

「いえ、そんなことは」

 私は円深帝の腕に抱かれたまま、義母を見つめて答えた。優しく微笑んだつもりだが、狐なので自信がない。

「いいわ。もう」

 義母は私と円深帝に手を振って、下がるように合図をした。

「お義母様、お元気で」

 寂しそうな顔をした義母に挨拶をして、私は円深帝に抱かれたまま囚われていた館を出た。

「なぜ助けてくれたのでしょうか?」
「なぜって、金塊の契約が果たせなくなると、あなたが魔力を使ったからですよ。あなたが金塊の契約が果たせなくなると、私も非常に困りますからね」
「ありがとうございます」

「さあ、ジョシュア当主もあなたを探し回っていることでしょう。合流しましょう」

 そう彼が私にささやいた瞬間、私はジョシュアの生家の部屋にいた。そこでは猫になったジョシュアが、途方にくれたようにうろうろとしていた。

「グレース!えっ?円深帝ですか?」
「左様」

「助けてくれたのよ。ノアのお義母様に囚われたのだけれど、円深帝に助けてもらったの。ジョシュア、お願いがあるの。チュゴアートの最後の王妃は助けてあげて欲しいの。殺さないで欲しいわ」
「わかった。君が無事で本当に良かった」

 猫はうなずいて私にすりよってきた。

 真っ暗になった空に輝く星と月を見上げながら、私はジョシュアのあの部屋から結界を超えて、飛行機の中に戻ったのであった。

「チケットがどんどん売れていくわ!」

 飛行機の中では、ニコニコしながらメロンが私たちに話しかけてくるのを私は黙って微笑んで聞いていた。

 ――金塊の契約を果たせないと、円深帝の嫁になるなんて初めて知ったわ。本当かしら?でも、あまりの美形にびっくりしたわ……。

 私は心の中でそんなことを考えていた。金塊の契約を果たせなければ、円深帝の嫁になるという話はジョシュアには黙っていた。

 私が再び恋をしているのはジョシュアなので、彼にはこの話をどうしてもしたくなかったのだ。
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