別れた初恋の人が君主になったので、公爵家の悪女と囁かれながらも嫁ぐことになりました

西野歌夏

文字の大きさ
上 下
35 / 69

元王妃(1)

しおりを挟む
「あなた、私の息子を殺したの?」
「お義母様、私ではございませぬわっ!」
「それならば、なぜあなたは大事な息子を殺した男の嫁になるのかしら?グレース、お答えなさいっ!」

 私は亡くなった夫の母に囚われていた。チュゴアート王朝の国王と皇太子は殺された。その間、王妃は隣国に旅行中だったはずだ。私は、王妃は隣国にいる間は安全だが、戻ってきたら命の保障がないために、ことが起きた今はもはや戻っては来ないであろうと思っていたところがあった。

 いや、もはやそれどころではない事態となったので、すっかり義母のことを失念していたというのもある。

 北の魔女は義母に雇われた魔女だった。もうすぐ、私は何時間も狐の状態でいるしかない状態になってしまう。その前に今までの姿で義母にきちんと説明したかった。

「お義母様、どうか聞いてくださいませ」
「あなたは私の息子を騙していたということよね?あなたは息子と結婚する、つまりチュゴアート王朝に輿入れする前に、すでにバリイエルの息子と生涯をともにする誓約を交わしていたということよね」

「それはそうです。そのことはノアもご存じだったのです!お義母様っ!」
「息子が知っていてあなたと結婚したと?そんなバカなっ」

「本当でございます!ノアもご存じでした。だからノアは私を選んだのです、お義母様っ!」
「なんですって?」

「ノアは、私が許されざる恋をしているのを知っていました。バリイエルの後継者と私が恋をしているのを知った上で、バリイエルの後継者から私を奪うために私を選んだのです」

 私の頬に平手打ちが飛んできた。右の頬と、すぐに左の頬も思いっきり叩かれた。私は後ろに両腕を縛られて座っていたが、衝撃で床に崩れ落ちた。痛くて悲しくて起き上がれない。

「この女狐がっ!申し訳ないけれど、あなたがバリイエル王朝に貢献することは許さないわ。息子の後を追って死んでもらうわ」

 私は狐になるしかないと思った。腕が縛られているので縄を解けない。より腕の細い狐になるしか抜け出せないであろう。もしくは、魔力を使うしかない。この場合の魔力の見返りはなんだろう。

 ――円深帝は私が金塊の契約を果たすためなら、魔力を使って良いと言ったわ。私が死んだら、もしも私が戻れなかったら、金塊の契約が果たせないわっ……

「円深帝。金塊の契約を果たすために魔力を使うことをどうかお許しくださいっ!」

 私は口に出してそう唱えた。

「なんですって?」
 
 義母が床に倒れた私を蹴り上げようとして、私が言った言葉に一瞬動きを止めた。

 私は龍の魔力を使って後ろに縛られていた縄を解いた。そして立ち上がって這うように床を動いた。義母が追ってきて私の髪の毛をつかんだので、左手で払った。左手から龍の形をした黄金の光が出た。

「痛いっ!」

 義母は後ろずさった。

「あなたはやはり魔力が使えることを隠していたのねっ!女狐め。いろんなことを騙してうちの息子をたぶらかしたのね」

 義母は泣きながら私に飛びかかってきた。

「お義母様っ!違うのですっ!」

 私は泣き喚く義母からできるだけ遠くに離れて説明しようとした。けれども、時間切れで次の瞬間には狐になってしまった。

「まちなさいっ!狐!」

 義母は泣きながら私を追ってきた。私は逃げた。

 私が逃げた先に金髪のふわふわの髪の毛をした男性が立っていて、私は思わず彼の腕の中に飛び込んだ。

「グレース夫人、いかがなされた?」
「……円深帝?」

 私は驚いて男性の腕に抱かれながら、男性を見上げた。男性は優しい顔をして、愛おしそうな目つきで私を一瞬見つめた。

 ――こんなに美形でした……?

 私はいきなり登場した円深帝にびっくりしてしまった。いつもと違う服装をしていて、若き貴族といってもおかしくない衣装なので私は驚いてしまった。こうしてよく見ると、彼は驚くほど美形だった。

「あなた誰ですかっ!その狐を私によこしなさいっ!」
「王妃様。こちらの狐は今は私のモノなのです。私の嫁です。彼女があなたの息子を殺したわけではないのです。それはあなただって本当はわかっているのでは?」

「あなたの嫁?どういう意味……」

「グレースは私との契約で狐の姿になりました。彼女は私と契約しています。約束を果たせなければ、私の嫁となります。グレースがバリイエルの後継者の嫁というのは、バリイエル王朝が打ち出した戦略にすぎません。バリイエルの後継者とグレースは、今は特別な関係でもなんでもないです。それに繰り返しますが、彼女があなたの息子を裏切って殺したわけではないですよ」

 義母はがっくりとうなだれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...