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リリア

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 飛行機に乗って夕方になると私たちはまたリジーフォード宮殿にやってきていた。宮殿で私を見つけたリリアは、我慢ならないといった表情を浮かべた。美々しい顔を歪めて私を睨みつけている。宰相と侍女や従者たちに囲まれてジョシュアと私がそれぞれの謁見の間に急いでいる時だった。

 ――ジョシュアが私を熱烈に抱いた事をリリアが知ったら、またリリアに服を引き裂かれ、ナイフで襲われるわ。


 今日のリリアは、ジョシュアの生家で会った時の格好とは打って変わって、金髪を結い上げて淑やかなドレスを着こなしている。バリイエル王朝にとっては、リリアは政権奪回の立役者だ。見返りとしてリリアには相当高いポジションが約束されていたのだろう。

 だが、彼女がノア皇太子の愛人であったのは周知の事実だ。いくら大金星の立役者でも、君主となったジョシュアの第一妃にはなれない。初めての相手と交わす誓約を持ち出して、龍とペガサスの魔力を盾にジョシュアの妻のポジションに私が滑り込んだ状況は、リリアにとっては屈辱的過ぎる状況だろう。

「あの女は末代まで呪われるぐらいの裏切り女なのだから。忘れたのかしら?あの人の変わり身の早さときたら、とんでもないわっ!」

 私にも聞こえるような声で、リリアはジョシュアに言った。

「一体どっちの味方なんだ?」

 ジョシュアはリリアを宥めようとしている。

「私だってわからないわ……気持ちが揺れ動くのよ。私だってあんなことしたくなかったわよ」

 リリア・マクエナローズ・バリイエルがどういう風に私の夫を殺めたのか実際に見た私は、言葉もなかった。彼女がかなり思い切ったのは知っている。事をなしてから「腐った豚」と言って夫に唾を吐いたのも。相当に苛烈な女性だ。

 全てがジョシュアのためだと言うなら、私がジョシュアのそばにいる状態は反吐が出るほど嫌なことだろう。私にはその気持ちは理解できた。

 リリアは私があの現場にいた事をまだ知らない。ジョシュアだって、どういう風にリリアが私の夫を殺めたのか、具体的には知らないはずだ。ジョシュアも私がことの一部始終を見たことは知らない。

「ジョシュア、あんな女のどこがいいの?」

 リリアが懇願するように言う言葉が聞こえて、ぎくりとしたが、ジョシュアが「バリイエルのためだ」と諭す声も聞こえて、私は内心落ち込んだ。

 事実だろう。一度裏切った女など、彼にとっては信用できるはずもない。今私を生かしておいて、私と一緒にいるのは金塊の契約のためだし、バリイエルのだめだろう。

 私は今回のクーデーターが起きる前から、ジョシュアにとっては信じられないほどの裏切り者だった。

 ――くよくよ考えても仕方がないわ。リリアが何を言おうと、私は私の仕事をするだけよ、グレース!

 私は自分を励まして、国務に打ち込むことにした。



 リジーフォード宮殿は、君主交代、政権交代の波を乗り越えて前に前に進み始めていた。ハリー宰相の頑張りもあり、従者や侍女や料理人に至るまで変わりなく雇用されて平穏な毎日が取り戻されつつあった。

 皇太子妃付妃だった者たちは、王妃付きに代わり、元々王妃付きだった者たちに加えて大所帯になっていた。

 私が不在の間に片付けて欲しいことのリストを作り、エロイーズを筆頭に細かい仕事をお願いして、何とか王妃の国務を全うしようとしていた。

 私はジョシュアに再び抱かれた時の事をふと思い出して、顔を赤らめた。あの夢のような時間が再び訪れる事を私は切に願っている。恋する人に触れて抱いてもらえるのは、素晴らしい体験だったから。

 ジョシュアの心はもらえなくても、妻にしてもらえたのは幸せなこと。私は自分にそう言い聞かせていた。

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