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広告撮影 ジョシュアの場合
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「すごいわっ!完璧よ!まるで恋人のように二人とも寄って。そうそう!素晴らしいわ」
俺はジョシュア・バウズザック・バリイエル。
軽快な音楽が流れるスタジオという場所で、俺とグレースは言われるがままに動いた。ある時は寄り添い、ある時は見つめ合い、ある時はカメラと言われるものを見据えてー。
今日は予定通り、広告用の撮影というものをこなしていた。衣装も独特だが心踊るものだし、グレースの化粧も完璧だった。グレースの美しさがより磨かれ、まるで天界の人のような後光がさすほどの輝きを放っていた。
こういったものは、新しく加入したメンバーをワールドツアーで紹介するためのものと言われた。金塊の契約のためなので、俺たちは指示された通りに真剣に取り組んでいた。
俺はずっとグレースにときめいていた。メンバー全員で撮ったが、最後は俺とグレース二人だけの撮影になり、そこからはもう、平常心でいようとすればするほどグレースの周りに光が満ちているように見えて、ドギマギしっぱなしだった。撮影の時には、俺もグレースも魔力を特に使っていなかった。そのままのグレースに俺は心惹かれっぱなしだったということだ。
恋をして、生涯を共に過ごすと誓った最愛のグレースに裏切られた時は、生きていけないぐらいに落ち込んだ。グレースがノア皇太子と結婚式を挙げて、皇太子妃となってからは地獄の日々だった。二度と誰も信用できないと思った。そして、いつしか、寂しくて悲しい気持ちをやり過ごすために、政権をひっくり返すことしか考えられなくなった。
毎日を生き続けられたのは、いつかノアをその椅子から引きずり下ろしてやろうと思い続けたからだ。
ただ、ある時にふと気づいた。俺がノアを引きずり下ろしたら、チュゴアート王朝の皇太子妃も命が危ないということだ。
俺とグレースの魔力は封印された。グレースが父親である公爵の言いつけを守って王家に輿入れした時、恋と一緒に魔力も葬り去ったのだ。グレースを危険に晒すぐらいなら、俺のノアへの恨みも葬り去ろうと思った。グレースの命まで危うくするようなことは避けたかったのだ。もう魔力で彼女の命を守ることは、俺も彼女もできなくなったのだから。
政権をひっくり返すことなど忘れようと思っていたのに、計画は進んだ。リリアが危険を冒してクーデーターは起こされ、俺はバリイエル王朝の後継としての役目を果たすことになった。止めても無理だった。グレースを助けたかったが、決行日は突然決まり、あっけなく実現されてしまった。
しかし、俺の家でグレースを見た時は心臓が止まりそうなぐらいに驚いた。
――なぜグレースがここに?
俺はグレースをとらえてしまわなければならない立場にあったが、久しぶりに見たグレースはやはり俺の心を捉えて離さなかった。
――どうしようもない。俺には彼女を傷つけることなどできない……。
リリアが彼女を襲ったとき、咄嗟に二人の命を救うあの呪文を唱えてしまった。グレースも呪文を覚えていて、偶然一緒に唱えた時には驚いた。
撮影中、グレースが頬を上気させて煌めく瞳で見つめると、俺はどうしようもなく幸せを感じ、思わず彼女を抱きしめたくなる衝動に駆られた。
――金塊の契約は厄介だが、そのために彼女と一緒にいれるなら、これはこれでとても幸せなことだ。もう離れ離れになるのは嫌だ。
彼女には言えないが、俺は心の中でずっとそう思っている。今の俺の目標は、金塊の契約を果たす前に彼女に俺の心を打ち明けることと、猫になってしまう状況でも、国王としても務めを果たせるよう努力を続けることだ。
かなり無理やりだったが、誓約の魔法を利用して、彼女を王妃にしてしまうことをなんとかバリイエルの一門と国民には説明した。おかげで彼女を生かしておけるとなった今は、心底ほっとしていた。
俺と彼女の魔力の封印は解かれたが、魔力なしに、俺にグレースがまた恋してほしいと願っている。
「いいわねぇ、二人ともカリスマ性があるわ」
「最高じゃないっ!新メンバーの二人はどこで見つけてきたの?」
メロンはカメラマンにそう聞かれて「秘密です」とイタズラっぽく笑って答えていた。
『皆、金塊の契約に縛られて獣になってしまった別世界の人間ですよ』とヒソヒソと小声で言いながらオリヴィアとアイラが笑い合っていたが、そんなことはメロンは誰にも言えまい。
――呪文のおかげでグレースの命が助かったのだし、金塊の契約のおかげで俺はグレースと共にいられる。俺にとっては誰にも言えなくても最高の契約だな。
俺はジョシュア・バウズザック・バリイエル。
軽快な音楽が流れるスタジオという場所で、俺とグレースは言われるがままに動いた。ある時は寄り添い、ある時は見つめ合い、ある時はカメラと言われるものを見据えてー。
今日は予定通り、広告用の撮影というものをこなしていた。衣装も独特だが心踊るものだし、グレースの化粧も完璧だった。グレースの美しさがより磨かれ、まるで天界の人のような後光がさすほどの輝きを放っていた。
こういったものは、新しく加入したメンバーをワールドツアーで紹介するためのものと言われた。金塊の契約のためなので、俺たちは指示された通りに真剣に取り組んでいた。
俺はずっとグレースにときめいていた。メンバー全員で撮ったが、最後は俺とグレース二人だけの撮影になり、そこからはもう、平常心でいようとすればするほどグレースの周りに光が満ちているように見えて、ドギマギしっぱなしだった。撮影の時には、俺もグレースも魔力を特に使っていなかった。そのままのグレースに俺は心惹かれっぱなしだったということだ。
恋をして、生涯を共に過ごすと誓った最愛のグレースに裏切られた時は、生きていけないぐらいに落ち込んだ。グレースがノア皇太子と結婚式を挙げて、皇太子妃となってからは地獄の日々だった。二度と誰も信用できないと思った。そして、いつしか、寂しくて悲しい気持ちをやり過ごすために、政権をひっくり返すことしか考えられなくなった。
毎日を生き続けられたのは、いつかノアをその椅子から引きずり下ろしてやろうと思い続けたからだ。
ただ、ある時にふと気づいた。俺がノアを引きずり下ろしたら、チュゴアート王朝の皇太子妃も命が危ないということだ。
俺とグレースの魔力は封印された。グレースが父親である公爵の言いつけを守って王家に輿入れした時、恋と一緒に魔力も葬り去ったのだ。グレースを危険に晒すぐらいなら、俺のノアへの恨みも葬り去ろうと思った。グレースの命まで危うくするようなことは避けたかったのだ。もう魔力で彼女の命を守ることは、俺も彼女もできなくなったのだから。
政権をひっくり返すことなど忘れようと思っていたのに、計画は進んだ。リリアが危険を冒してクーデーターは起こされ、俺はバリイエル王朝の後継としての役目を果たすことになった。止めても無理だった。グレースを助けたかったが、決行日は突然決まり、あっけなく実現されてしまった。
しかし、俺の家でグレースを見た時は心臓が止まりそうなぐらいに驚いた。
――なぜグレースがここに?
俺はグレースをとらえてしまわなければならない立場にあったが、久しぶりに見たグレースはやはり俺の心を捉えて離さなかった。
――どうしようもない。俺には彼女を傷つけることなどできない……。
リリアが彼女を襲ったとき、咄嗟に二人の命を救うあの呪文を唱えてしまった。グレースも呪文を覚えていて、偶然一緒に唱えた時には驚いた。
撮影中、グレースが頬を上気させて煌めく瞳で見つめると、俺はどうしようもなく幸せを感じ、思わず彼女を抱きしめたくなる衝動に駆られた。
――金塊の契約は厄介だが、そのために彼女と一緒にいれるなら、これはこれでとても幸せなことだ。もう離れ離れになるのは嫌だ。
彼女には言えないが、俺は心の中でずっとそう思っている。今の俺の目標は、金塊の契約を果たす前に彼女に俺の心を打ち明けることと、猫になってしまう状況でも、国王としても務めを果たせるよう努力を続けることだ。
かなり無理やりだったが、誓約の魔法を利用して、彼女を王妃にしてしまうことをなんとかバリイエルの一門と国民には説明した。おかげで彼女を生かしておけるとなった今は、心底ほっとしていた。
俺と彼女の魔力の封印は解かれたが、魔力なしに、俺にグレースがまた恋してほしいと願っている。
「いいわねぇ、二人ともカリスマ性があるわ」
「最高じゃないっ!新メンバーの二人はどこで見つけてきたの?」
メロンはカメラマンにそう聞かれて「秘密です」とイタズラっぽく笑って答えていた。
『皆、金塊の契約に縛られて獣になってしまった別世界の人間ですよ』とヒソヒソと小声で言いながらオリヴィアとアイラが笑い合っていたが、そんなことはメロンは誰にも言えまい。
――呪文のおかげでグレースの命が助かったのだし、金塊の契約のおかげで俺はグレースと共にいられる。俺にとっては誰にも言えなくても最高の契約だな。
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