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侍女の姿でリジーフォード宮殿へ

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 私たちはリジーフォード宮殿の侍女の部屋にいる。昼時だ。国王と王妃が見えないことで噂話が飛び交う宮殿に私たちはやってきていた。朝から頑張ってバンドの練習をしてから宮殿の様子を見にやってきたのだ。今回はメロンも一緒だ。私たちはきつねと猫の姿では危険があると判断してメロンに助けを求めたというわけだった。

「ねえ、私変じゃない?」
「変じゃないわよ。似合っているかどうかは微妙だけれども大丈夫よ」
「今度、髪を染めるわ」

「ふふっ、メロン張り切ってくれてありがとう」
「だってこんなことは滅多に経験できないから。こんな冒険ならいつでも歓迎よ」

 私たちはメロンをリジーフォード宮殿に連れて来ていた。

 午後12時過ぎのリジーフォード宮殿は騒がしかった。バリイエルの連中が朝から姿の見えない国王と王妃を探している。メロンは素早く部屋付き侍女の紺色の服に着替えると、髪の毛を引っ詰めて頭に白いキャップを被って髪を覆った。白いエプロンも身につけている。

 メロンは身のこなしが身軽で不思議な技を繰り出せるらしく、私とジョシュアの護衛にピッタリではないかと自らも言っていた。「伊賀忍び」の末裔でドイツ育ちだと本人は言う。私たちには意味が不明だったけれどもメロンが普通の女性ではないことだけは理解できた。

 メロンは洗濯物を入れるカゴを手にもち、その中に私とジョシュアが隠れた。猫ときつねをカゴに入れて宮殿内を移動するのだ。多くの人が国王と王妃を探しまわってバタバタと歩き回っている中を、メロンはすました顔で侍女の服装のまま歩き続けた。カゴの隙間から私が外をのぞいて、メロンにどちらに進めば良いかを教えていた。

「その廊下をまっすぐよ。バリイエルの人たちはまだ宮殿の侍女をほとんど知らないわ。あなたがここの者でないことはバレないから大丈夫よ。堂々と歩いて」

「わかったわ。私はスパイね」

 メロンはそんなことを楽しげに言いながら、すました顔で人々をかき分けて歩いて行った。

「もうすぐ私の部屋に着くわ。エロイーズを見かけたら合図をするから」
「わかったわ」

「いたわ!今横を通り過ぎた若い侍女よ」
「オーケー」

 私はエロイーズが困った表情を浮かべて廊下を歩いているのを見つけて、メロンに教えた。

「あなたがエロイーズね。グレース王妃からあなたにことづてがあるのよ」
 
 メロンは青白い顔をして私たちの隣を通り過ぎた侍女に話しかけた。

「え?グレース王妃様とお会いになったのですか?いつでしょう?実は朝からずっと探していたのです」

 エロイーズは驚いた様子でメロンの言葉に食いついてきた。

「ことづてはあなただけにお話しするようにとのことでした。グレース王妃の今までのお部屋に荷物もあるとのことです。フィッツクラレンス侯爵家のアメリア様に渡していただきたいものがお部屋にあるとのことですので、そちらに案内してくださいませんか」

 メロンはあらかじめエロイーズに会ったら話すことになっていた言葉を告げた。

 エロイーズはメロンの話を信じたらしく、素早く私の部屋にメロンを案内してくれた。

 扉が閉まると、私はカゴの中から飛び出した。ジョシュアも一緒だ。

「きゃっ!猫ときつね……」

 私はふかふかの絨毯の上にちょこんと座り、動揺しているエロイーズを見上げて喋りかけた。

「エロイーズ、私よ。グレースよ。訳あってきつねの姿にされてしまったの」

 エロイーズはいきなりきつねが喋ったので、キャっ!と叫んで後ずさった。

「こちらはグレース王妃です。魔法の力できつねになってしまったのですが、夕方頃には元の姿に戻ります」

 メロンが冷静な声で静かにエロイーズに話した。

「グレース様?確かにお声はとても似ていますが……」

 エロイーズはしげしげときつねの私を眺めた。

「そうよ。私よ。あなたは3年前に王家に嫁ぐときにフィッツクラレンス侯爵家から一緒についてきてくれた私の忠実な侍女よね。ありがとう。あなたの弟の名前はレオよね。まだ八歳よね。去年会ったわね」

 私は自分がグレースであるとエロイーズを納得させるために話を続けた。

「え!?本当にグレース様ですか?」
「ええ、そうよ。私の声がわからないかしら?」

「わかります!なぜこんなお姿になられたのでしょう!?」
「命を狙われて、助かるために呪文を使ったの。しばらく夕方以外はこの姿になってしまうのよ。それであなたに特別にお願いがあるの」

「そんな……呪文ですか。わかりました。私にして欲しいことはなんでしょう。なんでもいたします」
「ありがとう。まず、私とジョシュアは二人でこの部屋で政策を練っていることにして欲しいの」
「わかりました。ジョシュア様はどちらに?」
「私は猫だ。エロイーズ」

 黙って聞いていた太った猫のジョシュアが突然喋ったので、エロイーズは絶叫した。

「ええ!?ジョシュア様は猫ですか!?」
「そうだ」

 しばし無言が訪れた。エロイーズは事態を飲み込むのに数分黙り込んでいた。

「わかりました。このお部屋にお二人がこもって政策を考えていることにします」

「ありがとう。あといくつか夕方までにお願いしたいことがあるの。まず、この部屋にハリー宰相を連れてきてくれるかしら?あなたとハリー宰相に状況を説明して理解してもらいたいから」

「わかりました」

 エロイーズは納得してくれたのか急いで部屋を出て行った。そして数分後にハリー宰相を連れて戻ってきてくれた。

 ハリー宰相はメロンとエロイーズの助けもあり、大騒ぎをしながらも、太った猫がジョシュアできつねが私だという事態をなんとか飲み込んだ。

「本当になんてことだ!」と何度もつぶやいてはいたが、信じてはくれた。

 そして私たちが夕方のひと時だけ人の姿になれるということも理解した。ジョシュアがハリーに指示を出している間に、エロイーズは宮殿の厨房からお茶とクッキーとケーキを運んできてくれた。

 お腹が空いた私とメロンはジョシュアがハリー宰相と打ち合わせをしている間に、クッキーとケーキをいただき、お茶を飲んだ。私が食べやすいようにエロイーズはケーキを小さなスプーンにとってきつねの私の口に運んでくれた。

 ハリー宰相とすり合わせが終わったジョシュアもケーキとクッキーを美味しくいただき、私とメロンとジョシュアはすぐに山小屋に戻った。

 山小屋で侍女の服から普通の服に戻ったメロンは、また私とジョシュアのバンドの練習に熱心に付き合った。私たちは夕方まで必死に練習を重ねた。

 メロンは今回の冒険が気に入ったらしく、「楽しかったわ!また行きたいわ!」と何度も私に言ってきた。侍女の格好してリジーフォード宮殿をあちこち歩き回りたいらしかった。

 リジーフォード宮殿の見回りと支持出しに行けるので、私たちとしてもメロンの申し出はとてもありがたかった。


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