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魔力の増幅の仕方

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「今日はこれを着て。グレースはノースリーブのシャツにホットパンツ。暑いからね。ジョシュアはサイラスのTシャツと短パンね」
 
 ひっつめ髪のメロンはテキパキと私とジョシュアに着替えを渡した。そして昨晩お湯を浴びた浴室の隣に案内して、「センタクキ」と言いながら白い大きな箱を指差した。

「これに脱いだ服は入れてね」
「はい」
「着替えたら、さっきの居間に戻ってきて」
「はい」

 私とジョシュアは交代で着替えて、急いで居間に戻った。キーボード担当の赤毛のアイラも着替えてやってきた。私はまた腕も足もむき出しの格好で、ジョシュアは私を見るたびに赤面している。

「じゃあ、このテレビの真似をしてね」

 メロンは大きな黒い四角い箱を指差した。箱の中で女性が歌っている。

「魔法?」

 私とジョシュアは大興奮だった。

 ――すごいわ!

「違うわ。魔法みたいだけど魔法じゃないの。どっちかというと、この真似をするためにあなたたちが魔法を使う必要があるわ」

 アイラは私たちの顔を見つめた。

「ヴィジュアルは完璧よ。何か歌ってみてくれる?金塊の契約を果たせるかどうかがかかっているわ。箱の中の女性のように歌ってみて、グレース。魔法を使ってもいいわ。金塊の契約を果たすための魔法なら、こっちの世界では使ってもいいのよ。ほら、これをこの女性のようにマイクがわりに持って」

 アイラは紙の束を丸めて私に渡した。

「クリスマスの時に家族の前で歌ったことしかないけど」

 私はアイラに言われた通りにやってみようと思った。金塊の契約がかかっているので、真剣に真似をしようと、黒い箱の中の女性を見つめた。

 腰を振り、髪を振り、アイラに渡された丸めた紙の束を握りしめ、声を張り上げた。封印されていた魔法を解かれたので自由に魔法が使えた。

「だめ。聖歌隊じゃないのよ。もっとリズムに乗って激しく自分を解放して!映像をよく見て!」
「は……はい!」

 何度やってもダメだと言われて、私はへとへとだった。そこへ、ミラとオリヴィアがやってきた。

「あなたが一番辛かったことを思い出してグレース」

 皇女ミラが私にアドバイスをくれた。

「一番辛かったことを乗り越えた時の力が、もっとも人に感動を与える魔力を引き出すと円深帝に言われたのよ。あなたもそうしてみて」

 私は目をつぶって、ジョシュアを裏切って王家に嫁いだ時の気持ちを思い出してみた。寒くて情けなくて、死んでしまいそうなほどの気持ちだ。そしてそっと歌い出した。

「いいわよっ!」

 メロンもミラもオリヴィアもうっとりしたような表情で褒めてくれた。そうなのか。辛いことを思い出してそれを乗り越えたことをパワーに変えるのね、と私はコツを掴んだ気がしてほっとした。

「次はジョシュアやって」
「はい」

 私の次はジョシュアがやって、メロンとアイラが厳しく私たちに要求と指摘を重ねた。魔力を少しは使ってはいても、アイラもメロンも厳しかった。魔力の出し方も努力の仕方も全然足りないと言われて、私たちは汗だくになった。

「金塊の契約を果たせなかったら、一生猫と狐よ!他の人も巻き添えなのよ」

 歌い方を習得したら、次は曲を覚えなければならないらしかった。午前中は、公爵令嬢としても皇太子妃としても経験したことのない厳しい指摘をされ続けた。

「だから合宿って朝早いのよ。午前中がたっぷり使えるからね」

 汗で髪の毛が額に張り付くほどになった私たちに、メロンが仁王立ちして水を飲みながら言い放った。

「な……なるほどですね」


 アイラは小声で私たちにこっそりささやいた。

「メロンは手も足も物も飛んでくることがある、暴力キャラだから、気をつけてね。ハーバードを出るっていうのは努力の塊らしいのよ。だからメロンは努力をもっとも重んじるんだよ。魔力より努力が大事なんだって。それは事実なんだけどね」

「そこ、私語厳禁!」

 メロンはじろっとアイラと私たちを睨んで、厳しい口調で嗜めた。

「はい」

 私たち三人は声を揃えて返事をし、また真似の練習に戻った。こうして午前中は過ぎて行った。

 皇太子妃より大変な仕事だった。
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