27 / 69
魔力の増幅の仕方
しおりを挟む
「今日はこれを着て。グレースはノースリーブのシャツにホットパンツ。暑いからね。ジョシュアはサイラスのTシャツと短パンね」
ひっつめ髪のメロンはテキパキと私とジョシュアに着替えを渡した。そして昨晩お湯を浴びた浴室の隣に案内して、「センタクキ」と言いながら白い大きな箱を指差した。
「これに脱いだ服は入れてね」
「はい」
「着替えたら、さっきの居間に戻ってきて」
「はい」
私とジョシュアは交代で着替えて、急いで居間に戻った。キーボード担当の赤毛のアイラも着替えてやってきた。私はまた腕も足もむき出しの格好で、ジョシュアは私を見るたびに赤面している。
「じゃあ、このテレビの真似をしてね」
メロンは大きな黒い四角い箱を指差した。箱の中で女性が歌っている。
「魔法?」
私とジョシュアは大興奮だった。
――すごいわ!
「違うわ。魔法みたいだけど魔法じゃないの。どっちかというと、この真似をするためにあなたたちが魔法を使う必要があるわ」
アイラは私たちの顔を見つめた。
「ヴィジュアルは完璧よ。何か歌ってみてくれる?金塊の契約を果たせるかどうかがかかっているわ。箱の中の女性のように歌ってみて、グレース。魔法を使ってもいいわ。金塊の契約を果たすための魔法なら、こっちの世界では使ってもいいのよ。ほら、これをこの女性のようにマイクがわりに持って」
アイラは紙の束を丸めて私に渡した。
「クリスマスの時に家族の前で歌ったことしかないけど」
私はアイラに言われた通りにやってみようと思った。金塊の契約がかかっているので、真剣に真似をしようと、黒い箱の中の女性を見つめた。
腰を振り、髪を振り、アイラに渡された丸めた紙の束を握りしめ、声を張り上げた。封印されていた魔法を解かれたので自由に魔法が使えた。
「だめ。聖歌隊じゃないのよ。もっとリズムに乗って激しく自分を解放して!映像をよく見て!」
「は……はい!」
何度やってもダメだと言われて、私はへとへとだった。そこへ、ミラとオリヴィアがやってきた。
「あなたが一番辛かったことを思い出してグレース」
皇女ミラが私にアドバイスをくれた。
「一番辛かったことを乗り越えた時の力が、もっとも人に感動を与える魔力を引き出すと円深帝に言われたのよ。あなたもそうしてみて」
私は目をつぶって、ジョシュアを裏切って王家に嫁いだ時の気持ちを思い出してみた。寒くて情けなくて、死んでしまいそうなほどの気持ちだ。そしてそっと歌い出した。
「いいわよっ!」
メロンもミラもオリヴィアもうっとりしたような表情で褒めてくれた。そうなのか。辛いことを思い出してそれを乗り越えたことをパワーに変えるのね、と私はコツを掴んだ気がしてほっとした。
「次はジョシュアやって」
「はい」
私の次はジョシュアがやって、メロンとアイラが厳しく私たちに要求と指摘を重ねた。魔力を少しは使ってはいても、アイラもメロンも厳しかった。魔力の出し方も努力の仕方も全然足りないと言われて、私たちは汗だくになった。
「金塊の契約を果たせなかったら、一生猫と狐よ!他の人も巻き添えなのよ」
歌い方を習得したら、次は曲を覚えなければならないらしかった。午前中は、公爵令嬢としても皇太子妃としても経験したことのない厳しい指摘をされ続けた。
「だから合宿って朝早いのよ。午前中がたっぷり使えるからね」
汗で髪の毛が額に張り付くほどになった私たちに、メロンが仁王立ちして水を飲みながら言い放った。
「な……なるほどですね」
アイラは小声で私たちにこっそりささやいた。
「メロンは手も足も物も飛んでくることがある、暴力キャラだから、気をつけてね。ハーバードを出るっていうのは努力の塊らしいのよ。だからメロンは努力をもっとも重んじるんだよ。魔力より努力が大事なんだって。それは事実なんだけどね」
「そこ、私語厳禁!」
メロンはじろっとアイラと私たちを睨んで、厳しい口調で嗜めた。
「はい」
私たち三人は声を揃えて返事をし、また真似の練習に戻った。こうして午前中は過ぎて行った。
皇太子妃より大変な仕事だった。
ひっつめ髪のメロンはテキパキと私とジョシュアに着替えを渡した。そして昨晩お湯を浴びた浴室の隣に案内して、「センタクキ」と言いながら白い大きな箱を指差した。
「これに脱いだ服は入れてね」
「はい」
「着替えたら、さっきの居間に戻ってきて」
「はい」
私とジョシュアは交代で着替えて、急いで居間に戻った。キーボード担当の赤毛のアイラも着替えてやってきた。私はまた腕も足もむき出しの格好で、ジョシュアは私を見るたびに赤面している。
「じゃあ、このテレビの真似をしてね」
メロンは大きな黒い四角い箱を指差した。箱の中で女性が歌っている。
「魔法?」
私とジョシュアは大興奮だった。
――すごいわ!
「違うわ。魔法みたいだけど魔法じゃないの。どっちかというと、この真似をするためにあなたたちが魔法を使う必要があるわ」
アイラは私たちの顔を見つめた。
「ヴィジュアルは完璧よ。何か歌ってみてくれる?金塊の契約を果たせるかどうかがかかっているわ。箱の中の女性のように歌ってみて、グレース。魔法を使ってもいいわ。金塊の契約を果たすための魔法なら、こっちの世界では使ってもいいのよ。ほら、これをこの女性のようにマイクがわりに持って」
アイラは紙の束を丸めて私に渡した。
「クリスマスの時に家族の前で歌ったことしかないけど」
私はアイラに言われた通りにやってみようと思った。金塊の契約がかかっているので、真剣に真似をしようと、黒い箱の中の女性を見つめた。
腰を振り、髪を振り、アイラに渡された丸めた紙の束を握りしめ、声を張り上げた。封印されていた魔法を解かれたので自由に魔法が使えた。
「だめ。聖歌隊じゃないのよ。もっとリズムに乗って激しく自分を解放して!映像をよく見て!」
「は……はい!」
何度やってもダメだと言われて、私はへとへとだった。そこへ、ミラとオリヴィアがやってきた。
「あなたが一番辛かったことを思い出してグレース」
皇女ミラが私にアドバイスをくれた。
「一番辛かったことを乗り越えた時の力が、もっとも人に感動を与える魔力を引き出すと円深帝に言われたのよ。あなたもそうしてみて」
私は目をつぶって、ジョシュアを裏切って王家に嫁いだ時の気持ちを思い出してみた。寒くて情けなくて、死んでしまいそうなほどの気持ちだ。そしてそっと歌い出した。
「いいわよっ!」
メロンもミラもオリヴィアもうっとりしたような表情で褒めてくれた。そうなのか。辛いことを思い出してそれを乗り越えたことをパワーに変えるのね、と私はコツを掴んだ気がしてほっとした。
「次はジョシュアやって」
「はい」
私の次はジョシュアがやって、メロンとアイラが厳しく私たちに要求と指摘を重ねた。魔力を少しは使ってはいても、アイラもメロンも厳しかった。魔力の出し方も努力の仕方も全然足りないと言われて、私たちは汗だくになった。
「金塊の契約を果たせなかったら、一生猫と狐よ!他の人も巻き添えなのよ」
歌い方を習得したら、次は曲を覚えなければならないらしかった。午前中は、公爵令嬢としても皇太子妃としても経験したことのない厳しい指摘をされ続けた。
「だから合宿って朝早いのよ。午前中がたっぷり使えるからね」
汗で髪の毛が額に張り付くほどになった私たちに、メロンが仁王立ちして水を飲みながら言い放った。
「な……なるほどですね」
アイラは小声で私たちにこっそりささやいた。
「メロンは手も足も物も飛んでくることがある、暴力キャラだから、気をつけてね。ハーバードを出るっていうのは努力の塊らしいのよ。だからメロンは努力をもっとも重んじるんだよ。魔力より努力が大事なんだって。それは事実なんだけどね」
「そこ、私語厳禁!」
メロンはじろっとアイラと私たちを睨んで、厳しい口調で嗜めた。
「はい」
私たち三人は声を揃えて返事をし、また真似の練習に戻った。こうして午前中は過ぎて行った。
皇太子妃より大変な仕事だった。
1
お気に入りに追加
244
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
永遠の隣で ~皇帝と妃の物語~
ゆる
恋愛
「15歳差の婚約者、魔女と揶揄される妃、そして帝国を支える皇帝の物語」
アルセリオス皇帝とその婚約者レフィリア――彼らの出会いは、運命のいたずらだった。
生まれたばかりの皇太子アルと婚約を強いられた公爵令嬢レフィリア。幼い彼の乳母として、時には母として、彼女は彼を支え続ける。しかし、魔法の力で若さを保つレフィリアは、宮廷内外で「魔女」と噂され、婚約破棄の陰謀に巻き込まれる。
それでもアルは成長し、15歳の若き皇帝として即位。彼は堂々と宣言する。
「魔女だろうと何だろうと、彼女は俺の妃だ!」
皇帝として、夫として、アルはレフィリアを守り抜き、共に帝国の未来を築いていく。
子どもたちの誕生、新たな改革、そして帝国の安定と繁栄――二人が歩む道のりは困難に満ちているが、その先には揺るぎない絆と希望があった。
恋愛・政治・陰謀が交錯する、壮大な愛と絆の物語!
運命に翻弄されながらも未来を切り開く二人の姿に、きっと胸を打たれるはずです。
---
【完結】愛する夫の務めとは
Ringo
恋愛
アンダーソン侯爵家のひとり娘レイチェルと結婚し婿入りした第二王子セドリック。
政略結婚ながら確かな愛情を育んだふたりは仲睦まじく過ごし、跡継ぎも生まれて順風満帆。
しかし突然王家から呼び出しを受けたセドリックは“伝統”の遂行を命じられ、断れば妻子の命はないと脅され受け入れることに。
その後……
城に滞在するセドリックは妻ではない女性を何度も抱いて子種を注いでいた。
※完結予約済み
※全6話+おまけ2話
※ご都合主義の創作ファンタジー
※ヒーローがヒロイン以外と致す描写がございます
※ヒーローは変態です
※セカンドヒーロー、途中まで空気です
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる