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リリア・マクエナローズ・バリイエルの場合
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<リリア・マクエナ・ローズの場合>
私は悔し涙が頬を伝うのも構わず、馬を走らせていた。
馬の足音と私の泣き声が混ざる。悲しくて虚しくて自分が惨めだ。
――どこで間違ったのだろう?
ジョシュアにバウズザック伯爵家の舞踏会で出会ったことが間違いだったのだろうか。
私の恋。私の愛しくて切ない思いは災いの元だったの?
都まであと一息だ。けれども、ジョシュアを連れて来れなかったことを皆になんと報告すれば良いのかわからない。
「それで……なぜ狐と猫なの?」
それにしてもジョシュアは魔力が使えていた。その真実を私は知らなかった。そんな大事なことを私は知らないのにあの女は知っていたのだろう。
あの女……ノアの女……皇太子妃も魔力が使えていた。とても綺麗な顔で公爵家の生まれの女……欲しいものはなんでも手に入れているあの女は私が一番大事にしているものを奪っていった。
皇太子妃の座を持ちながら、敵対勢力の男を手中に収める女。
私は思わず声に出して悪態をついていた。こんな自分の本当の姿をジョシュアが見たらどう思うのだろうとチラッと思った。
「ジョシュアがあの豚の妻と一緒にいたのはなぜ?」
涙が後から後から出てくる。切ない。心が痛い。ノアの最後の姿が目にチラつく。
視界が涙で曇る。
――ノア……。ごめんなさい。もしかすると、私は何かを間違えてしまってとんでもないことをしてしまった気がする……。
ノアは豚ではなかったという心の奥の声が、無視していたいのに耳元までやってくる。辛い。
馬は分かっているかのように道をまっすぐに走っていってくれているけれど、このままではよく見えなくて私も危ない。
自分が惨めで惨めで仕方がなかった。惨めな私の殺されたノアに申し訳ないという思いまで込み上げてくる。ジョシュアを国王にするために私は取り返しのつかない罪を犯した。自分の手を血で汚した。それなのに。
どういうわけなのだろう。ジョシュアはノア皇太子の妻と一緒に自分の部屋にいた。何がどうなっているのかさっぱり分からない。
私の中の胸騒ぎは止まらない。胸騒ぎというレベルではない。自分が間違えてしまったという自責の念と、確信がある。ことが起きた今、ジョシュアとあの美しい女性は本当は一緒にいる想定ではなかった。
夜道は暗い。都の関所の灯りが遠くから見えた。午前中に荷車で通過した時には知られていなかったが、チュゴアート王朝はバリイエル王朝に乗っ取られたことがすでに知れ渡っているはずだ。
――待って。まだ乗っ取られたはず、の段階だわ。肝心の君主となるジョシュアが見つからないのだから。
――きつねだか猫だか……そんなのはどちらでだっていい。とにかくジョシュアが姿を現さなければ、全てが水の泡になる。私のジョシュアを返して。
もうジョシュアと私が結ばれることなんて到底ないとわかっている。私はジョシュアのために頑張った。この身を呈して、この手を汚して、罪を犯して事をなした。
それなのにジョシュアはあの皇太子の妻と一緒に、きつねだか猫だかになって消えた。私は何かを完全に間違えている。
私が馬の背につかまりながら泣き崩れていると、大きなどよめきが都の方から聞こえて、頭上が明るくなった。
私は空を見上げた。星の瞬く夜空に煌々と龍とペガサスの姿が映り込んでいる。
――な……なんなの?
涙を拭って一人空を見上げる私の目に映るのは、鮮やかに浮き上がる龍とペガサスだ。私は馬を止めて呆然と星空を見上げた。
私の脳裏に私がドレスを切り裂いてやった時のグレース皇太子妃の妖艶な姿が浮かんだ。
――フィッツクラレンス公爵家の紋章は龍だわ。ジョシュアのバウザック家の紋章はドラゴンよ。フィッツクラレンスとバウザックの誓約。初めての相手に生涯連れそうとする誓約魔法……
私はある予感に身震いした。
――あの時……ジョシュアの部屋に飛び込んだ時、あの二人から醸し出されたただらぬ雰囲気……。そうよ。私はそれを瞬時に感じ取って激怒したのだわ。やはり?
私は心の底に浮かびあがってくる恐ろしい予感に体が震えるのを抑えきれなかった。
――ジョシュアとグレースは最初からずっと愛し合っていたということだ。
――私はあの二人をくっつけるために、この身を捧げ、この手を汚したのよ。
だとしたら。私は惨めさを通り過ぎて怒りに震えた。
――あの女を絶対に許せない。必ず地獄に突き落としてやるわ。のうのうと生かしてなんておけない。
私は自分の惨めさをひしひしと噛み締めながら、夜空に浮かぶ龍とペガサスの煌めきを涙に曇る目で見つめた。宮殿の方で大観衆が歓声を熱狂的な歓声を上げているのが聞こえる。
――バリイエル王朝の君主宣言は、私抜きでジョシュアによって確実に行われたようね。よかったこと?
私は悔し涙が頬を伝うのも構わず、馬を走らせていた。
馬の足音と私の泣き声が混ざる。悲しくて虚しくて自分が惨めだ。
――どこで間違ったのだろう?
ジョシュアにバウズザック伯爵家の舞踏会で出会ったことが間違いだったのだろうか。
私の恋。私の愛しくて切ない思いは災いの元だったの?
都まであと一息だ。けれども、ジョシュアを連れて来れなかったことを皆になんと報告すれば良いのかわからない。
「それで……なぜ狐と猫なの?」
それにしてもジョシュアは魔力が使えていた。その真実を私は知らなかった。そんな大事なことを私は知らないのにあの女は知っていたのだろう。
あの女……ノアの女……皇太子妃も魔力が使えていた。とても綺麗な顔で公爵家の生まれの女……欲しいものはなんでも手に入れているあの女は私が一番大事にしているものを奪っていった。
皇太子妃の座を持ちながら、敵対勢力の男を手中に収める女。
私は思わず声に出して悪態をついていた。こんな自分の本当の姿をジョシュアが見たらどう思うのだろうとチラッと思った。
「ジョシュアがあの豚の妻と一緒にいたのはなぜ?」
涙が後から後から出てくる。切ない。心が痛い。ノアの最後の姿が目にチラつく。
視界が涙で曇る。
――ノア……。ごめんなさい。もしかすると、私は何かを間違えてしまってとんでもないことをしてしまった気がする……。
ノアは豚ではなかったという心の奥の声が、無視していたいのに耳元までやってくる。辛い。
馬は分かっているかのように道をまっすぐに走っていってくれているけれど、このままではよく見えなくて私も危ない。
自分が惨めで惨めで仕方がなかった。惨めな私の殺されたノアに申し訳ないという思いまで込み上げてくる。ジョシュアを国王にするために私は取り返しのつかない罪を犯した。自分の手を血で汚した。それなのに。
どういうわけなのだろう。ジョシュアはノア皇太子の妻と一緒に自分の部屋にいた。何がどうなっているのかさっぱり分からない。
私の中の胸騒ぎは止まらない。胸騒ぎというレベルではない。自分が間違えてしまったという自責の念と、確信がある。ことが起きた今、ジョシュアとあの美しい女性は本当は一緒にいる想定ではなかった。
夜道は暗い。都の関所の灯りが遠くから見えた。午前中に荷車で通過した時には知られていなかったが、チュゴアート王朝はバリイエル王朝に乗っ取られたことがすでに知れ渡っているはずだ。
――待って。まだ乗っ取られたはず、の段階だわ。肝心の君主となるジョシュアが見つからないのだから。
――きつねだか猫だか……そんなのはどちらでだっていい。とにかくジョシュアが姿を現さなければ、全てが水の泡になる。私のジョシュアを返して。
もうジョシュアと私が結ばれることなんて到底ないとわかっている。私はジョシュアのために頑張った。この身を呈して、この手を汚して、罪を犯して事をなした。
それなのにジョシュアはあの皇太子の妻と一緒に、きつねだか猫だかになって消えた。私は何かを完全に間違えている。
私が馬の背につかまりながら泣き崩れていると、大きなどよめきが都の方から聞こえて、頭上が明るくなった。
私は空を見上げた。星の瞬く夜空に煌々と龍とペガサスの姿が映り込んでいる。
――な……なんなの?
涙を拭って一人空を見上げる私の目に映るのは、鮮やかに浮き上がる龍とペガサスだ。私は馬を止めて呆然と星空を見上げた。
私の脳裏に私がドレスを切り裂いてやった時のグレース皇太子妃の妖艶な姿が浮かんだ。
――フィッツクラレンス公爵家の紋章は龍だわ。ジョシュアのバウザック家の紋章はドラゴンよ。フィッツクラレンスとバウザックの誓約。初めての相手に生涯連れそうとする誓約魔法……
私はある予感に身震いした。
――あの時……ジョシュアの部屋に飛び込んだ時、あの二人から醸し出されたただらぬ雰囲気……。そうよ。私はそれを瞬時に感じ取って激怒したのだわ。やはり?
私は心の底に浮かびあがってくる恐ろしい予感に体が震えるのを抑えきれなかった。
――ジョシュアとグレースは最初からずっと愛し合っていたということだ。
――私はあの二人をくっつけるために、この身を捧げ、この手を汚したのよ。
だとしたら。私は惨めさを通り過ぎて怒りに震えた。
――あの女を絶対に許せない。必ず地獄に突き落としてやるわ。のうのうと生かしてなんておけない。
私は自分の惨めさをひしひしと噛み締めながら、夜空に浮かぶ龍とペガサスの煌めきを涙に曇る目で見つめた。宮殿の方で大観衆が歓声を熱狂的な歓声を上げているのが聞こえる。
――バリイエル王朝の君主宣言は、私抜きでジョシュアによって確実に行われたようね。よかったこと?
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