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第3話 絶品キノコと誰かの夢

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 私はスーパー銭湯の女湯の更衣室にいる。巨大扇風機の前で、風を女と一緒に浴びながら伸びている。

 バタバタと風が私と女を撫でる。最高の気分だ。

「あなた、きつねでしょう?」
 私は小声で隣の若い女にささやく。
 女も私も、申し訳ない程度の布切れを巻きつけた薄着の状態だ。
 
 素晴らしいプロポーションの若い女は、風を顔面に浴びながら、涼やかな顔でぼやいた。

「もう、どうでもいいわ。」
「そうよ。きつねよ。ご名答。」


 私もどうでも良くなり、涼やかな顔で、美容院でお手入れしたばかりのグレーヘアに、さりげなく手を当てる。エステでお手入れしたばかりのお肌はツヤツヤだ。

「まあ、私もたぬきだし。」
 それだけ私は小声で言った。
 私と若い女は、サウナ上りの整い時間を満喫した。


「そうだ。じっちゃんの山のキノコ、最高なんだ。食べにくっか?」
 突然、隣の若い美女が、山言葉でささやいてきた。

「おっ!キノコか。うんだ。食いてーな。招待してくれるんなら、おらんとこ豪邸にも招待すっさ。」
 私も山言葉でささやき返す。

「よーし、決まった。」
 隣の若い美女は微笑んで、ささやいた。
「今から行くさっ!」
 
「あら、ありがと♡」
 私は若い美女に微笑んだ。



 数時間後、私はきつねの山の中の屋敷にいた。

「うちんとこ貧乏山だけんど、キノコだけは絶品だべさ。」
 若い美女はそう言って、いそいそとキノコを焼いてくれて、焼酎も準備してくれた。

 私と若い美女は、黒光りした広い広い縁側で、いい気分で夕暮れの景色を楽しみながら焼酎を飲んでいた。

「うまかーっ!こりゃうまかーっ!」
 私は山言葉でうめきながら、絶品キノコを食して絶賛し、焼酎を飲んですっかり酔っ払っていた。

 マフィアのボスで大金持ちの私は、すっかりたぬきの姿に戻っていた。若い美女もとうの昔にきつねの姿に戻っていた。

「あんたといると楽ねー。」
 きつねが言った。

「あんたといる時だけ、この姿でいられる。私も楽さ。」
 私も言った。

 たぬきの私と、きつねの若い美女は、すっかりくつろいでいた。

「じっちゃんの残してくれた山3つは、貧乏山なんだけんど、うんめーキノコが取れるんさ。おら、キノコさえ食べられれば生きていけんだわ。」

 きつねの若い美女は、焼酎をお酌してくれながら言った。

「私んとこは東京ドーム80個分の金持ち山だけんど、こんなうんめーキノコは食べてことねえだわ。最高だな、このキノコ。」
 たぬきの私は、若い美女に頭を下げながら、焼酎とキノコにしたづづみを打った。

「私の夢はな、3つあるんだ。」
 私は酔っ払って言った。

「一つめは、あんたのおかげで叶った。」
「一つ目の夢は、テレビに出ることだったんさ。66歳にして、ようやっと叶った。この前、ホテルでうちら言い争ってたんべ。あれ、ニュースに出たんよ。嬉しかったあっ!」
 私は、きつねの若い美女にお酌しながら言った。

「あら、あれ、テレビに流れたんだ?」
 若い美女はびっくりしたように言った。女もだいぶ酔っている。

「うんだよ。出たよ。嬉しかったあっ!二つ目の夢は、先祖代々受けついた神社を守ること。これは死ぬまでやってやるさ。」
「ほんで、三つ目の夢は、誰かの夢を叶えることさ。」

 私は酔っ払ったたぬきの状態で、夕暮れの山々の景色を見ながら言った。

「あんたの夢はなにさ。」
 私は若い美女に聞いた。

「私の夢は、このじっちゃんから受け継いだ3つの山を守ること。貧乏山だけんど、大事な大事な山なんださ。」
 女は気持ち良さそうに、夕暮れの風を浴びながら言った。
 縁側には気持ちよい風が吹いていた。

「うん。」
 私はうなずいた。その気持ちはよーく分かる。

「ほんで、もう一つの夢はアイドルになることさ。」
 女は小さな声で言った。

 でも、私にはよく聞こえなかった。

「今、なんて言った?」
 私は山言葉のイントネーションで、たぬき姿できつねに聞いた。

「だ、か、ら、アイドルになることさ。」
 だからの後が異常に小さな声で、私にはやっぱり聞こえなかった。

「こりゃ、酔っ払いきつね!ちゃんと言わんかいっ!」
「たぬきのわしも恥を忍んで言ったでしょ。」
 私は酔っ払った状態で、半目のたぬきの状態で言った。

「だーかーらっ!アイドルになることさ!さっきから言っとるでしょっ!」
 酔ったきつねは、半ギレ状態で言った。

 私は焼酎を吹いた。

「ちょっと、失礼ねっ!あんた、笑っとる?」
 酔ったきつねは、怒った。

「ちがーう、ちがーう。」
 私はマフィアのボスの姿がちょっと見えそうになりながら、たぬきのままの状態で慌てて手を振って否定した。

「あんまり、びっくりしただけ。ばかにはしとらん。わしの夢もテレビに出ることやっちゃし。」
「私は酔っ払っていても、人の夢をばかにするような失礼な真似はせんけ。」
 私はきつねに言った。

「ほうね。そりゃよかった。」
 酔っ払ったきつねは、自分でお酌して焼酎をあおった。

「よーし、決まった。わしの最後の夢は、あんたの夢を叶えることに決めた。」
「わしがあんたをアイドルにしちゃるっ!」
 私はたぬき姿で山言葉で言った。


「酔っとるね。」
 きつねは、たぬきの私に言った。

「そりゃあ、酔っとる。けど、66歳にもなって、こげん大事なところでは間違えん。わしの夢は、あんたの夢を叶えることに決めた。」
 私は力強く言った。私も自分でお酌して、焼酎をおちょこに入れた。

「さあ、乾杯!」
 私はきつねにおちょこを差し出した。

 こうして、若い美女であるきつねと、マフィアのボスであるたぬきの私は、きつねが祖父から受け継いだ山々の中で、乾杯したのであった。

 空には一番星が光り始めた。
 酔った私は、きつねに聞いた。

「ほんで、あんたの本名は何さ。私の名前は知っとるでしょ?」
「神社のさとこじゃ。あんたの名前は何さ?」
 私はきつねに言った。

「私の名前は、おなら・・・」
 きつねは小声で言った。

「はあ?今なんと言ったね。」
「私は耳は遠くないけんど、さっきから、大事な所を小声で言うのは、きつねさんのよくない癖だよ。」
 私は言った。

「だーかーら、おならブー。」
 きつねは腹をくくったかのような、少しむくれた態度で私に言った。

 私は焼酎を吹いた。
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