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第二章

セルドに向けて

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 私は窓辺で美しい星を見上げながら、ランヒフルージュのかすみ草の花束を手にしていた。私、ロザーラ・アリーシャ・ジークベインリードハルトはシャン・リュセ城の豪華な客間にいた。

 星空を見上げて、あまりの美しさにため息をついた。

 ラファエルは湯を浴びに行っている。私は一人で客間の寝室の窓辺にいた。長い一日だった。皇太子に殺されて死神と契約して戻ってからのやり直しの日は、ケネスとレティシアの結婚式のあとすぐに逃げるようにフルトに向かったことで私とラファエルの死を免れて終わろとしている。

 マクシムス皇帝が死神にそっくりである謎は解けない。だが、夜空の遠くに見える輝きに導かれて次の皇帝が選出されるルールは、大勢の民を幸せに導く者に試練を課して選ぶものだ。

 生まれながらに皇帝になる身分が決まるのではなく、後天的に選ばれる仕組みだ。死神の助けがなければ、そもそも易々とゴールできない難易度の高い選抜なのだ。どこかで、遥か遠い昔にマクシムスも死神に遭遇して助けてもらっていたとしてもおかしくない。今の私のように。はるか昔に彼と死神の間にも何か契約があったのだろう。

 ジークベインリードハルトの独特な皇帝選びは、星座と座標と暗号と罠に満ちた王冠を巡る宝石探しの旅だ。その形で数世紀にわたって続いているのだと分かった。

 私はショーンブルクに残してきた皇后のことを考えた。今の皇后はどういう旅をしたのだろう。民の暗い道を照らす明るい存在である皇帝と皇后は、若いうちに勝ち上がって力を示した者ということになる。

 いつか、この旅が終わった先の未来で、私も皇后になって次世代の皇帝選びのために各地に手紙を渡して回るのだろうか。それぞれ、次の代に変わった新しい城主に手紙を託して回ることになるのだろうか。

 フランリヨンドの君主は世襲だ。オットー陛下の次は第一王子ウィリアムが陛下になるだろう。姉のマリアンヌはやがて王妃となる。フランリヨンドや他の国と違い、大国には大国を治める力を持つ者を見極めねばならないというルールがある。


 明日は国境を超えてフランリヨンドに戻る。セルドを目指すためだ。もはや、ジークベインリードハルトのロレード家のシグネットリングが威力を発揮することはないかもしれない。私はレオノーラの鉱山の話を思い出して懐かしく思った。次は必ず鉱山を巡る旅をしよう。コンラート地方の鉱山を活発に採掘してみるのだ。

 私は可憐なかすみ草を抱きしめて、空に煌めくオリオン座が見える窓辺に飾った。「永遠の愛」の花言葉は、私のラファエルに対する気持ちを表していると思った。

 湯から上がったラファエルが部屋に戻ってきて、私はすぐに抱きしめられた。濡れ髪の奥に煌めく碧い瞳は愛おしそうに私を見つめている。ラファエルはクスッと笑った。私の唇に温かなキスが落ちてきた。

「かすみ草が綺麗だ」 

 ラファエルは窓辺に飾ったかすみ草に手を触れて、私にささやいた。

「明日は最後の宝石探しだな」
「ええ」
「寝よう」

 私は手を取られてラファエルと一緒に寝室に向かった。朝早くに出発するために早く寝なければならない。暖炉の火は消えかかっていて、暗くなった部屋で私はラファエルに抱き抱えられてベッドまで運ばれた。

 空に煌めく星空だけが、私とラファエルの熱い夜を窓から見ていた。


 ――死神さま!無事に死を免れる選択ができたようです。明日は最後の宝石を見つけるためにフランリヨンドに戻ります。もうすぐこの旅が終わるようです。見守りくださいませ!





※すみません。夜また更新します。

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