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再会と身分違いの恋
メイドのときめき エミリーSide
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ふと目を覚ました私は、使用人部屋のベッドの中で眠っていた。
……いや?
ここはどこ?
真っ白いシーツの向こうに、誰かいた。
誰か寝ている!
えっ!?
だ……旦那様?
まだお若いっ……えぇっ……!?
ハット子爵をかなり若くしたような方。
素晴らしくハンサムな方っ……!
その人が私の隣で穏やかに寝ていた。
私は処女だ。
私は男の人とベッドに一緒に寝たことは人生で一度もない。
私は薄いネグリジェのようなものを着ていた。下には何も身につけていないように思う。
ハンサムな男性は上の服を着ていらっしゃらない。逞しい胸板が呼吸で揺れている。
待ってっ……!
ここは、使用人部屋のベッドではないわ!
ここはそれは、えぇっ……?
ご主人様の豪華なベッドだわ!
なんなの?
私は間違いを犯したの?
旦那様とっ……?
どういうことだろう。
いつの間に?
パニックになりかけた私は、震える自分の手を見つめた。
美しく白い長い指。
シンプルなダイヤがついた指輪。
誰の手?
これが私の手なのかしら?
いつもの荒れた手とは違う。
私はベッドのそばに置かれた手鏡を取り上げて、そこに映る自分の姿を見つめてハッとした。
丸みを帯びた幸せそうな頬。
ブロンドで美しくカールした髪。
青い瞳。
魅惑的な唇。
信じられないほどの美人。
大陸の大金持ちの令嬢だったという、昔の奥様の肖像画に似ているようだ。
これが私?
このゴージャスな美人が私なの……?
私は震えが止まらず、自分の体を抱きしめた。
スレンダーな体に自分でびっくりした。
私は太っていたはずなのに?
「ママ?」
幼い子供の声がして、私はハッと目を見開いた。ドアの隙間から小さな子が顔をのぞかせていた。
奥様に見える私をママと呼ぶその子は、ジーンお嬢様なのかしら?
あぁっ……!
やっぱりジーン・ハットお嬢様だわ!
その女の子は4歳ぐらいに見えた。
褐色の髪に青い瞳。
どことなく、私が11歳で初めて出会った頃のジーンお嬢様に似ている。
幼いジーンお嬢様がベッドの方に歩いてきた。私は思わずベッドから降りて、両手を差し出して幼い女の子を抱き上げた。
「ママ、あのね、鳩さんとお話できるのよ」
ジーンお嬢様と思われる褐色の髪に青い瞳の女の子は、私の耳元でこそこそと言った。私は目を丸くして、ジーンお嬢様と思われる女の子を見つめた。
目頭が熱くなる。
お嬢様だわ!
間違いない。
この子はジーンお嬢様の幼い頃だ。
なぜこんな不思議なことが起きるのかしら?
もしかすると、私はあの時死んだのだろうか。だから、こんなにも奇妙な夢を見ているのだろうか。
「ママも鳩さんとお話しできる?」
小さな声でこそこそと耳元でジーンお嬢様が聞いてきた。
「時々ね」
私はジーンお嬢様を傷つけたくなくて、嘘を言った。ジーンお嬢様は安心したようににっこりした。
「ターシャはそんなことはできないのって言うから……」
私はぎゅーっとジーンお嬢様を抱きしめた。
「ジーンはできるのよ。特別な才能よ。ママとジーンだけの秘密ね」
私は小声でそうジーンにささやいて、ジーンお嬢様を抱いたまま、寝室の隣の続き部屋の扉を開けた。
そこは奥様のお部屋だった。豪華なドレスがたくさんしまってあるクローゼットがある。いろとりどりの帽子もたくさんあった。
綺麗な羽のついた帽子。
贅沢な刺繍が施された靴。
有名ブランドの香水。
鏡台の上の憧れのお化粧品の数々。
貧しいメイドのエミリーには、一生手にすることも叶わない品の数々だ。夢のような空間だ。
机の端にスケッチブックがあった。奥様のスケッチブックだ。中のページをめくると、数々の美しいドレスのデザイン画が描かれていた。
奥様はデザイナーになりたかったのだと私は聞いたことがある。
「ママ、このドレス、作って」
抱き上げているジーンお嬢様が青い瞳を輝かせて、スケッチブックの1枚の絵を指差して私に言った。
縫製はジーンお嬢様に習ったので、私なら作れる。
「いいわよ、ジーン」
私はにっこりと微笑んだ。
その時、突然ドアがノックされて、素晴らしくハンサムなハット子爵が部屋に滑り込んできた。上半身には薄いシャツを1枚引っ掛けている。
「私の美しい妻と可愛らしい娘が、2人で朝早くから何を密談しているのかな?」
ハンサムなハット子爵は私を見つめて微笑んだ。これほど愛おしむような眼差しを向けられたのは、人生で初めて向けられたと思う。
私はジーンお嬢様と一緒に、若々しいハット子爵に抱き締められた。
しかし、私はこの時、この入れ替わりが明日も明後日も続くものだとは知らなかったのだ。そして、クラリッサ様が死ぬ運命だとは知らなかった。
これが貧しいメイドのエミリーだった私が、クラリッサ・ハット子爵夫人と入れ替わったいきさつだ。
このことは誰にも言えない秘密だ。
……いや?
ここはどこ?
真っ白いシーツの向こうに、誰かいた。
誰か寝ている!
えっ!?
だ……旦那様?
まだお若いっ……えぇっ……!?
ハット子爵をかなり若くしたような方。
素晴らしくハンサムな方っ……!
その人が私の隣で穏やかに寝ていた。
私は処女だ。
私は男の人とベッドに一緒に寝たことは人生で一度もない。
私は薄いネグリジェのようなものを着ていた。下には何も身につけていないように思う。
ハンサムな男性は上の服を着ていらっしゃらない。逞しい胸板が呼吸で揺れている。
待ってっ……!
ここは、使用人部屋のベッドではないわ!
ここはそれは、えぇっ……?
ご主人様の豪華なベッドだわ!
なんなの?
私は間違いを犯したの?
旦那様とっ……?
どういうことだろう。
いつの間に?
パニックになりかけた私は、震える自分の手を見つめた。
美しく白い長い指。
シンプルなダイヤがついた指輪。
誰の手?
これが私の手なのかしら?
いつもの荒れた手とは違う。
私はベッドのそばに置かれた手鏡を取り上げて、そこに映る自分の姿を見つめてハッとした。
丸みを帯びた幸せそうな頬。
ブロンドで美しくカールした髪。
青い瞳。
魅惑的な唇。
信じられないほどの美人。
大陸の大金持ちの令嬢だったという、昔の奥様の肖像画に似ているようだ。
これが私?
このゴージャスな美人が私なの……?
私は震えが止まらず、自分の体を抱きしめた。
スレンダーな体に自分でびっくりした。
私は太っていたはずなのに?
「ママ?」
幼い子供の声がして、私はハッと目を見開いた。ドアの隙間から小さな子が顔をのぞかせていた。
奥様に見える私をママと呼ぶその子は、ジーンお嬢様なのかしら?
あぁっ……!
やっぱりジーン・ハットお嬢様だわ!
その女の子は4歳ぐらいに見えた。
褐色の髪に青い瞳。
どことなく、私が11歳で初めて出会った頃のジーンお嬢様に似ている。
幼いジーンお嬢様がベッドの方に歩いてきた。私は思わずベッドから降りて、両手を差し出して幼い女の子を抱き上げた。
「ママ、あのね、鳩さんとお話できるのよ」
ジーンお嬢様と思われる褐色の髪に青い瞳の女の子は、私の耳元でこそこそと言った。私は目を丸くして、ジーンお嬢様と思われる女の子を見つめた。
目頭が熱くなる。
お嬢様だわ!
間違いない。
この子はジーンお嬢様の幼い頃だ。
なぜこんな不思議なことが起きるのかしら?
もしかすると、私はあの時死んだのだろうか。だから、こんなにも奇妙な夢を見ているのだろうか。
「ママも鳩さんとお話しできる?」
小さな声でこそこそと耳元でジーンお嬢様が聞いてきた。
「時々ね」
私はジーンお嬢様を傷つけたくなくて、嘘を言った。ジーンお嬢様は安心したようににっこりした。
「ターシャはそんなことはできないのって言うから……」
私はぎゅーっとジーンお嬢様を抱きしめた。
「ジーンはできるのよ。特別な才能よ。ママとジーンだけの秘密ね」
私は小声でそうジーンにささやいて、ジーンお嬢様を抱いたまま、寝室の隣の続き部屋の扉を開けた。
そこは奥様のお部屋だった。豪華なドレスがたくさんしまってあるクローゼットがある。いろとりどりの帽子もたくさんあった。
綺麗な羽のついた帽子。
贅沢な刺繍が施された靴。
有名ブランドの香水。
鏡台の上の憧れのお化粧品の数々。
貧しいメイドのエミリーには、一生手にすることも叶わない品の数々だ。夢のような空間だ。
机の端にスケッチブックがあった。奥様のスケッチブックだ。中のページをめくると、数々の美しいドレスのデザイン画が描かれていた。
奥様はデザイナーになりたかったのだと私は聞いたことがある。
「ママ、このドレス、作って」
抱き上げているジーンお嬢様が青い瞳を輝かせて、スケッチブックの1枚の絵を指差して私に言った。
縫製はジーンお嬢様に習ったので、私なら作れる。
「いいわよ、ジーン」
私はにっこりと微笑んだ。
その時、突然ドアがノックされて、素晴らしくハンサムなハット子爵が部屋に滑り込んできた。上半身には薄いシャツを1枚引っ掛けている。
「私の美しい妻と可愛らしい娘が、2人で朝早くから何を密談しているのかな?」
ハンサムなハット子爵は私を見つめて微笑んだ。これほど愛おしむような眼差しを向けられたのは、人生で初めて向けられたと思う。
私はジーンお嬢様と一緒に、若々しいハット子爵に抱き締められた。
しかし、私はこの時、この入れ替わりが明日も明後日も続くものだとは知らなかったのだ。そして、クラリッサ様が死ぬ運命だとは知らなかった。
これが貧しいメイドのエミリーだった私が、クラリッサ・ハット子爵夫人と入れ替わったいきさつだ。
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