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2. レエリナサウラと秘密結社 →数億年前地球 中世ヨーロッパ

第48話 敵の思うつぼ(沙織)

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「助ける見返りを何にするかだわね。」
「こんな素敵なポッパ山の断崖絶壁だんがいぜっぺきで、こんな話を聞かされるなんて。」

 ナディアがつぶやいた。

「ここは十三世紀ミャンマーのバガンだ。バガン遺跡いせきになる前の、まさに今栄えているバガンだよ。」

 颯介そうすけが帝と私に言った。

「バガン遺跡いせき?」
「ポッパ山?」

「そう。」

 ナディアは私たちに力強くうなずいた。
 風が気持ち良い。単に私たちがナディアと颯介に受け入れられたと感じるので、そう思うのかもしれない。

「昔の地球は素晴らしい。」
「本当にそうですね。」
 帝と私は感嘆かんたんのため息をついた。

「で、あなたたちを狙っているというのは具体的になんなの?」
 ナディアはポッパ山の断崖絶壁だんがいぜっぺきから、真下に広がる広大な緑地りょくちを見ながら帝に聞いた。

「黒の秘密結社ひみつけっしゃ。その名もマブリマギアルナアブロッシュ。」
 帝は言った。
 ナディアは黙って聞いていた。

「何それ?初めて聞いた。」
 颯介はさっぱり分からないといった様子で言った。

「文字通り秘密結社ひみつけっしゃよ。一般的には非公開ひこうかいの組織。知っているとしたら、裏社会と巨大なパワーの両方に関係している人物だけよ。」
「中世ヨーロッパと関係しているわ。だから、この十三世紀ミャンマーとは無関係よ。」
「ただ、何世紀にも渡って組織が永遠えいえんと続いているわ。」
 ナディアは静かに颯介に説明した。やはりナディアは黒の組織のことを知っていた。

「そうだ。」
 帝はうなずいた。
「黒の秘密結社ひみつけっしゃに加えて、私たちの命を狙っているのは赤の秘密結社ひみつけっしゃだ。」
「この赤の秘密結社は、私と沙織が生きる地球で『力』を持つ忍びの組織の一つだ。同じく裏社会と巨大なパワーの両方に関係している。」

 帝は私の顔を見つめて静かに言った。
「もとより、赤は私の命をねらっていたんだ。ねらう根拠が欲しかったというべきか。」

「今は、黒の要請を受けて、赤は沙織の命と私の命をまとめて狙っている。」
「理由は、忍びが人間に接触した罪とそれに加えて忍びが黒の秘密結社の陰謀いんぼう邪魔じゃましてしまったため。」

「じゃあ、帝のあなたと沙織さんがくっついてしまったら、その忍びの赤の秘密結社とやらのじゃない。」
 ナディアはそういった。

「そうかもしれない。けれども、私は沙織と離れる気はない。私は沙織と結婚したいと思っている。」

 帝は言った。

「八十年代アイドルみたいなオートクチュールのような服を着ているから、最初はびっくりしたけど、でもなんだか格好いいです。」
 颯介がぽつんと言った。

「これは、ほうっておけないっすね。姉さん。」
「なんかよく分からないけど、そうね。守りたくなるわ。」

「ありがとう。」
 帝はそう言って頭を下げた。
 私も慌てて頭を下げた。
「見返りは、そうね。今は思いつかないから考えておくわ。」
「でも、悪いけどそろそろゲームから解放されなければならないわ。」
 ナディアはそう言った。

「いいですよ、私がお二人を乗せて飛びます。」
 私はすぐになりきる術でプテラノドンに変身した。

「いや、本当にすごい!」
「数億年先の忍びはこんな高度な術が使えるんだね!」
 颯介は感嘆かんたんのため息をついた。

「しかも空が飛べるなんて。」
 ナディアが言った。

「私がナディアさんを乗せますよ。」
 帝もそう言って、なりきる術で一瞬でプテラノドンになった。

 私たちは遺跡いせきになる前のバガンの上空を自由に旋回した。風を切って飛ぶのは最高だった。眼下に広がる雄大ゆうだいな景色もあちこち立ち並ぶ寺院も、信じられないほど魅惑的みわくてきな姿を見せていた。

 敵がなんであろうと、颯介とナディアが一緒ならば私は勝てる気がした。

 帝を巻き込んでしまった以上、私には道は一つしかない。敵に打ち勝つしか前に進む方法はない。この時の私は、もう後戻りする気は全くなかった。

 こうして、無事に私と帝はゲームから解放された。帝の自室じしつのソファに戻ったのだ。
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