未来の地球と辺境の星から 趣味のコスプレのせいで帝のお妃候補になりました。初めての恋でどうしたら良いのか分かりません!

西野歌夏

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2. レエリナサウラと秘密結社 →数億年前地球 中世ヨーロッパ

第37話 涙(沙織)

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 私は帝にふさわしくはない。それは分かっている。けれども身がすくみ上がるほどのせつない痛みを私は感じている。

「なぜ、姉のあなたがそんなことを言うのでしょう。沙織はあなたの妹です。私が、沙織にふさわしくないとおっしゃるのですか。」

 帝は驚いたような様子で姉の琴乃にいった。驚きのあまりに少しだけ声がうらがえっている。

「恐れながら、沙織が帝にふさわしくないと申し上げたいのです。」

 姉の琴乃はけっしていっている。私はレエリナサウラのひく恐車の座席で、胃が下に引きずられるような奈落ならくの底に落ちそうな失望しつぼうを感じた。姉上の言うとおり、私は帝にふさわしくない。

「一体なぜですか。」

 帝は不思議そうにいった。

 まさみと牡丹ぼたん固唾かたずを飲んで会話の行方ゆくえを見守っている。おそらく、この二人も姉の琴乃と同じ気持ちなのであろう。誰が見ても私は帝にふさわしくない。

 私は自分が何をしでかしたのか知っている。なおさら、私が帝にふさわしくないのを絶望的ぜつぼうてきに知っている。

「それは。」
「なぜですか。」
「だから、それは・・・・・」
「姉上!理由は私が自分で言いとうございます。」

 私はいたたまれなくて、琴乃と帝のやりとりをさえぎって頭を下げた。
目から涙が勝手にあふれる。ぽたぽたと涙が自分のはかまに落ち、握りしめた手のこうに落ちるのを感じる。鼻をすする。これ以上、みっともない顔をさらしたくない。けれども私の涙は止まらなかった。

「私が、自分で帝に本当のことをお伝えいたします。」

 私はそう琴乃ことのにいった。

「今日、お城に着いたらお話しするお時間をいただけますでしょうか。」

 私は帝にそういって頭を下げた。

「分かった。」

 帝は私からふっと視線をそらして、恐車の窓から外を見つめながらそういった。

 まさみと牡丹はチラッとたがいに目を見合わせただけだった。

 姉の琴乃は、はかまの上で固く握りしめている私の手をしっかり握ってくれた。ハンカチを取り出して私の顔のなみだをやさしく拭いてくれた。

 姉の琴乃は知らない。私が何をしたのか知らないはずだ。私が何をしたのか知ったら、きっと私を許してくれないだろう。

 私は、姉の琴乃からハンカチを受け取って目に押し当て、声をころして泣いた。

 帝はそんな様子をまゆをひそめて不安げな表情を浮かべると、車の天井をあおいで恐車の座席に背をもたらせかけて、どこか遠くに思いをはせているようなご様子になった。

 豪奢ごうしゃな毛皮におおわれたレエリナサウラのひく恐車は、貴和豪一門きわごういちもんとみの証だ。その立派な恐車のなかは、今ははりのむしろのような息苦いきぐるしさでみちていた。

 窓の外の空には一番星がのぼり、暗くなった空を自由に翼竜よくりゅうが飛んでいるのが見えた。
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