29 / 107
1. 標的の選別 時は数億年先の地球
第18話 あなたは、私のお妃候補だ
しおりを挟む
諦めてしまうほど飛行した下流で、プテラノドンは降下しはじめた。そこは、茂みが森のように広がり、川の裾野に広がっている。私の心は焦る。
「おまえは、彼女がここにいると思うのか?」
私はかすれた声でプテラノドンに尋ねたけれども、半信半疑だった。
しかし、本当にそこにいた。
野草の匂いが充満する、緑に生い茂る草むらに隠れるようにして、彼女はいた。
ずぶ濡れになって、真っ青な顔でわなわな震えていたけれども、間宮沙織は生きてそこにいた。
近くに、同じくずぶ濡れの橘五右衛門も座りこんでいる。
私は大きく安堵した。口の中の苦味など一瞬で消え失せる。求めていたものがそこにあると知ると、とてつもなく安堵する感じに似ていた。
私に気づくと、間宮沙織も橘五右衛門も警戒心をあらわにして、忍びの攻撃体制の構えをした。袂から手裏剣を取りだしている。
「誰?」
「お前は誰だ!」
二人の必死な様子を見て私は状況を理解する。
「そうか、御簾ごしだったから、私の顔が分からなかったのか。」
「私は帝だ。」
長い沈黙があった。
間宮沙織も橘五右衛門も、信じられないと言った表情で穴があくほど私の顔を見つめた。
野草の香りにむせ返りそうになる。私の嫁候補を探しに来たのに、私一人しかいない所で、私を「敵」と思ってもらっては困る。
特別に仕立てた青紫色の忍びファッションを穴があくほど見つめてから、間宮沙織は言った。
「しでかしたのか知っている、と言うべきだな。この言葉を言ってみていただけますか。」
私の声で判断しようとしているらしい。私は城で謁見した時と同じ言葉を言った。
「しでかしたのか知っている、と言うべきだな。」
「帝!」
「ああ、帝でしたか!」
間宮沙織も橘五右衛門も安堵と驚きが入りまじった様子で、言った。
「なぜこちらに?」
橘五右衛門は驚きを隠せないよう様子で、興奮した様子で私に聞く。
「なぜって。」
私は黙り込む。
「私のお妃候補が襲われたという密報があった。助けに参った。」
「え?」
間宮沙織にも橘五右衛門にも、想像もつかないことを私が言ったような顔をされた。
帝自ら助けに参るというのはおかしいか。確かに今まで自分はこんなことは一度もしたことがない。
しかし、私の中で何かカッと恥ずかしいような思いにとらわれて強めに反論してしまった。
「私のお妃候補を、私自ら助けに参ったのはおかしなことではない。」
「お妃候補」
その言葉を繰り返して間宮沙織は目を見開いた。
「そうだ。あなたは私のお妃候補だ。」
「こちらに近くに参れ。」
「プテラノドンに3人乗ってひとまずここから離れよう。」
私はずぶ濡れで青ざめていたはずの間宮沙織が、何やら真っ赤になっている様子に気づく。しかし理由が分からない。
とにかく、手を差し出して間宮沙織をプテラノドンに乗せようとした。
私が間宮沙織の手を取った瞬間だった。
間宮沙織が弱々しい声で、何かをつぶやいて身震いした。
「あ、ゲームの召喚です!」
そう、聞こえた気がする。
私は間宮沙織の手を取ったまま、
「え?」
と言ったような気がする。
気づくと、見たこともない雪景色の中に立っていた。どこか知らない街であった。
私の隣には、びしょ濡れのままガタガタ震え出して、大きな目を見開いて息をなんとか吸いこもうとする間宮沙織がいた。
「おまえは、彼女がここにいると思うのか?」
私はかすれた声でプテラノドンに尋ねたけれども、半信半疑だった。
しかし、本当にそこにいた。
野草の匂いが充満する、緑に生い茂る草むらに隠れるようにして、彼女はいた。
ずぶ濡れになって、真っ青な顔でわなわな震えていたけれども、間宮沙織は生きてそこにいた。
近くに、同じくずぶ濡れの橘五右衛門も座りこんでいる。
私は大きく安堵した。口の中の苦味など一瞬で消え失せる。求めていたものがそこにあると知ると、とてつもなく安堵する感じに似ていた。
私に気づくと、間宮沙織も橘五右衛門も警戒心をあらわにして、忍びの攻撃体制の構えをした。袂から手裏剣を取りだしている。
「誰?」
「お前は誰だ!」
二人の必死な様子を見て私は状況を理解する。
「そうか、御簾ごしだったから、私の顔が分からなかったのか。」
「私は帝だ。」
長い沈黙があった。
間宮沙織も橘五右衛門も、信じられないと言った表情で穴があくほど私の顔を見つめた。
野草の香りにむせ返りそうになる。私の嫁候補を探しに来たのに、私一人しかいない所で、私を「敵」と思ってもらっては困る。
特別に仕立てた青紫色の忍びファッションを穴があくほど見つめてから、間宮沙織は言った。
「しでかしたのか知っている、と言うべきだな。この言葉を言ってみていただけますか。」
私の声で判断しようとしているらしい。私は城で謁見した時と同じ言葉を言った。
「しでかしたのか知っている、と言うべきだな。」
「帝!」
「ああ、帝でしたか!」
間宮沙織も橘五右衛門も安堵と驚きが入りまじった様子で、言った。
「なぜこちらに?」
橘五右衛門は驚きを隠せないよう様子で、興奮した様子で私に聞く。
「なぜって。」
私は黙り込む。
「私のお妃候補が襲われたという密報があった。助けに参った。」
「え?」
間宮沙織にも橘五右衛門にも、想像もつかないことを私が言ったような顔をされた。
帝自ら助けに参るというのはおかしいか。確かに今まで自分はこんなことは一度もしたことがない。
しかし、私の中で何かカッと恥ずかしいような思いにとらわれて強めに反論してしまった。
「私のお妃候補を、私自ら助けに参ったのはおかしなことではない。」
「お妃候補」
その言葉を繰り返して間宮沙織は目を見開いた。
「そうだ。あなたは私のお妃候補だ。」
「こちらに近くに参れ。」
「プテラノドンに3人乗ってひとまずここから離れよう。」
私はずぶ濡れで青ざめていたはずの間宮沙織が、何やら真っ赤になっている様子に気づく。しかし理由が分からない。
とにかく、手を差し出して間宮沙織をプテラノドンに乗せようとした。
私が間宮沙織の手を取った瞬間だった。
間宮沙織が弱々しい声で、何かをつぶやいて身震いした。
「あ、ゲームの召喚です!」
そう、聞こえた気がする。
私は間宮沙織の手を取ったまま、
「え?」
と言ったような気がする。
気づくと、見たこともない雪景色の中に立っていた。どこか知らない街であった。
私の隣には、びしょ濡れのままガタガタ震え出して、大きな目を見開いて息をなんとか吸いこもうとする間宮沙織がいた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる